88、慰め

「あー……補足しておくとですね」


 場の空気を和ませるように、ヴェネが明るめの語調で沈黙を破った。


「さっき、ミオナさんがウェレイさんに変装して何やかんやありましたけど、実を言うと最初はこんな一芝居を打つ予定は無かったんですよね。重役達を問答無用で強制連行できるくらいには、証拠も出揃ってたんで」


 重役達を見やりながら。〝烏〟によって拘束されている重役達は、各々悔しさや諦めを顔に出しながら顔を逸らす。


「じゃあなんでこんな事をしたかって言うと、確認の為です。ベルン社長がどちら側なのかを、はっきりさせておきたかったんで」

「…………、……私、ですか?」


「こちらの掴んだ情報では、ベルン社長は裏取引はともかく、模倣犯の方には何一つ関与していない、となっていたんですけど、企業のトップの目を盗んで重役にそんな犯行が可能なのか、って話になって。ホント、〝烏〟の人って疑り深くて……ね? カロン」

「全ての可能性は考慮する。一般論に照らし合わせ、違和感を感じたまでだ」


「はいはい。で、模倣犯側の人間が死んだと思い込んでるはずのウェレイさんが、この場にいきなり現れたら……どんな反応するかな? って。結果、あなたがそちら側の人間ではない事は良く分かりました」

「そう、ですか……」


 模倣犯事件に関与していない。それは、一連の事件における窃盗や殺人について無実が証明されたという事になる。


 けど、喜べない。社長である自分が、けして無関係ではないはずのそれらに最初から最後まで完全に蚊帳の外だったという証左でもあるのだから。


「お父さんは、悪くないよ」


 と、ウェレイが近寄ってくる。安心させるように、微笑を浮かべて。


 対して自分は今、きっとひどい顔をしているんだろう。彼女の顔をまっすぐ見やる事が、どうしても出来ない。


「悪いのは全部あいつら。あたしは、全部分かってるから」

「ウェレ、イ……私は」

「ふざけるなよ小娘ぇ!」


 横合いからの怒声が全て吹き飛ばした。重役の1人、最も年嵩の古株である老人は、拘束されながらも目玉を血走らせウェレイを睨み付ける。

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