74、会議
全てが狂い始めたのは、先代社長が体調を崩した頃。一年半程前の事だった。
スコルピオ製武具会社は、先代社長がその圧倒的なカリスマ性と豊富な人脈、そして類まれな手腕の下に一代で力を蓄えて来た会社だ。先代の存在があったからこそ、この会社は武具製造業界でのし上がる事が出来た。
養子であるベルンの経営手腕も、副社長として先代を支えている頃からある程度評価はされていた。が、職人肌で無骨、寡黙だった先代と比べて人柄が大きく異なり、特に先代のカリスマ性に惹かれていた古参の人間からの評価は芳しくなかった。
そして先代は、病に伏せって半年後。多くの人に看取られ、天に召された。
この〝事件〟が、スコルピオの歯車を決定的に軋ませたのだ。
「――――報告は以上だ」
重々しく、角ばった声が室内を反響する。ぎし、とのしかかるように椅子に背中を預けた重役に、ベルンは労いの意を込めて相槌を打つ。
「ありがとうございます。予定は順調のようで何よりです」
「だからお前は甘いというのだ社長。自覚が足りんぞ」
「……申し訳ありません」
深々と頭を垂れる。重役はまぁよいと不満げに漏らした。
スコルピオ本社、24階。この階は、特別会議室、と呼ばれる部屋の為だけに存在している。
だだっ広いにも程がある会議室だ。その中にはこれまた巨大な円卓があるのみで、10人の重役達が尊大な態度で円卓を囲んで座っていた。
対して、社長であるはずのベルンは部屋の片隅で書類を片手に直立不動。今となっては気にもならないが、一企業として明らかに歪んでいる光景に違いない。
(……すみません、父さん。私が至らぬばかりに……!)
懺悔ですら無い独白は、声にならなかった。
先代が亡くなってすぐ、重役達はベルン新社長を半ば押さえ付ける形で裏取引の話を進めだした。とは言え、それはあくまで先代を失った事で崩れるであろう経営基盤を整え直す間、損失を最低限補填する為の手段だった。
幸か不幸か〝裏〟との目立った軋轢も無く、つつがなく毎日は過ぎていった。そうして半年ほどが過ぎた頃、〝大鷲〟とのスポンサー提携の話が持ち上がる。
先代が積み上げた功績がようやく評価されたのか、裏取引が回り回って何かの化学反応を起こしたのか。いずれにせよ幸運な事であり、重役達はベルン以上に狂喜した。
とは言え恐らく、いや確実に、〝大鷲〟にはスコルピオが裏取引に手を出している事を把握されている。その上で放置されているのだ。
〝力〟の成長の為ならば、時に犯罪紛いの事ですら容認される国。それがヴァーヌミリアだ。無論、やり過ぎればあっという間に潰されるだろうが。
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