52、待ち合わせ

「……ここ、ですか?」

「うん、ここ」


 到着した喫茶店は、どこからどう見ても普通の喫茶店だった。


 落ち着いている、というよりは最新の流行を取り入れたオシャレな内装が窺える。『勉強で疲れた頭を癒しませんか?』という文句が綴られた旗が立っている辺り、とりわけ若い年齢層をターゲットにして勝負している店なのだろう。


 からんからん、と涼やかな鈴の音と共に入店。ざっと見渡し限りだと、やはり学生らしき客が多いように思える。時間帯的に考えて、学校を終えてそのままこの店を利用しているのだろう。経営戦略は成功しているようだ。


 〝土竜〟の支部のように、〝大鷲〟と何かしら繋がりがある店なのだろうか。そう尋ねると、ヴェネは笑って違うよと答えた。


「さてさて、今日はちょっと人が多いなぁ……あ、いたいた」


 店員に二言三言告げた後、ヴェネは店の奥へと歩き出した。


「……来たか、ミラージュ」

「久しぶり、カロン」


 4人掛けのテーブルに座っていたのは、いかにも〝烏〟の捜査官だと言わんばかりの強面の男。


 サングラスで目元は見えず、きっちりと切り揃えられた黒の短髪、常に寄っている眉、上下をグレーで揃えたスーツなど、近寄りがたい雰囲気を放っている。正直、〝土竜〟の捜査官ですと言われても納得できる風貌だ。


 男はヴェネを、そしてミオナを一瞥したようだった。


「早く座れ。時間は有限だ」

「相変わらずきっちりしてる性格だね」

「お前が適当過ぎるんだ」


 同感です。心中で頷いたミオナは、男と相対する形でヴェネの隣に座った。


 やがてやって来た店員にコーヒーを2つ注文する。と、男が懐から何かを取り出した。球体のそれを、そのまま握り潰す。


「? 何、今の」

「開発課の試作品だ。これでしばらくの間、この中で生じた音が外に聞こえなくなる」


 恐らく、何らかの〝力〟を込めた道具ツールだろう。今は『四大技術』を中心に素人でも〝力〟を扱えるような技術の開発が盛んに行われているが、その危険性や取扱いの難しさからそれらは一部にしか流通していない。


「へぇ、盗聴対策ってわけか。便利な世の中だね」

「だが所詮試作品だ。範囲は狭いし、大声を出せば漏れる危険もある。あくまで保険と思え」

「りょーかい、と。それじゃ紹介だけするね」


 ヴェネはミオナを見て二の句を継いだ。


「彼はサイネア・カロン。〝烏〟の捜査官で、僕が〝烏〟にいた時のパートナーね」

「ふざけるな。目付け役以外の何者でもなかっただろう」


 そう言って男――サイネアはサングラスを取った。見た目に反して目元は可愛らしい……何てことはなく、鋭く吊り上った眼はさながら猛禽類を思わせる。


 ヴェネを睨み付けたサイネアは、ミオナに向かって小さく頭を下げた。

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