33、考察
最後の足掻きで放たれた炎は、緩やかだった火の手を致命的なまでに加速させてしまっていた。燃え崩れていく廃ビルを見上げながらケータイを仕舞う。
3階建ての小さなビルだったので、そこまで派手な有様にはなっていない。ので、多少荒っぽい解体作業が出来たと思う事にした。
ていうか僕には責任無いし、あったとしてもエレちゃんに何とかしてもらおう。独りごち、ヴェネは黒装束達を拘束しているミオナの下へ向かった。
「一応〝
「ありがとうございます」
手錠などで簡易的ながら男を拘束したミオナは、静かに笑った。
殺した4人、気絶したリーダー格。いずれもピアスの穴や生傷が見受けられる。浮浪者、ごろつきといったところか。
(常に体を炎化させるなんて無駄な力の垂れ流し、
炎を生み出すのではなく、体そのものを炎に変えて猛り狂う超常。過去に
ヴェネからすれば素人同然だったが、一般人からすればやはり脅威でしかない。彼らの好戦的な性格も鑑みれば、いくらか殺してでも早々に鎮圧したのは正しい選択だっただろう。
「……ミオナさんは、何でここに?」
男達の風貌を観察する横顔に問い掛ける。答えてくれるかどうか少し不安だったけれど、簡単な話です、と彼女は言葉を切り出した。
「先日、どこぞの〝大鷲〟の捜査官が間抜けにも紛失したらしき捜査資料を偶然拾得したので、〝土竜〟の監視網の情報と照らし合わせてみたんです」
「……うん、前半部分にかなり引っ掛かりを覚えるのは僕だけかな」
「ええ、確かに〝土竜〟の私が〝大鷲〟の捜査資料を所持しているのはよろしくありませんね。私としてはこれを〝大鷲〟に届けるのに吝かでないのですが」
「いやいや。そんな恐ろし……もとい素晴らしい心掛けはさておき、話を進めましょう」
失くした事がバレて〝烏〟にめっちゃ怒られるから、エレちゃんが。で、その流れで僕が殺されるから。
出会った当初から何気にドSなミオナに最大限に媚を売る。冗談ですよ多分、と更に恐ろしいフォローを入れつつ、彼女は話を継いだ。
「照合結果から私なりに犯行の場所、時間の法則性を仮定し、それを元に〝次〟に選ばれる可能性がある数ヵ所に狙いを絞って網を張ったのが3日前です」
「で、ホントに網に掛かったと。その法則性ってのも、ある程度は信用できそうだね」
となると、頭の片隅に浮かんでいた『可能性』が一気に『確信』に変わる。
「黒装束に黒覆面……ねぇ、ミオナさん。彼ら、二重模倣だと思う?」
「思いません。〝二重〟は素人に毛が生えた程度の集団のはず。外見はともかく、5人が5人とも超能を使えるのは妙です」
「だね。て事は、やっぱ彼らは本物の模倣犯、って事になるのかな?」
「……でしょうか」
どうにも脳裏を覆うもやもやが晴れない。ミオナも釈然としていない様子だ。
この黒装束達が模倣犯である、という仮説には正直自信を持てる。服装は勿論、超能使いだという点からも色々合点がいく。
スコルピオでの犯行を筆頭に、時として多くの物的、人的被害を短時間の内に生み出す模倣犯だが、それが超能使いによる犯行だとすれば十分可能だ。
そもそも〝大鷲〟が大々的に捜査網を敷いていながら、事件を解決に導けない理由。二重模倣の対応に苦慮しているのも要因の一つではあるが、一番に挙げられるのは〝足取りを掴めない事〟だろう。
事件が起きて現場に急行しすぐさま追跡を開始しても、杳としてその行方が分からなくなる。はっきりと残されていた痕跡もある地点でぱったりと途絶え、動きようが無くなる。この繰り返しが事件の長期化、そして捜査方針の迷走を招いているのだ。
それを考えれば、今回は追跡が間に合った初めての機会、とも言える。ミオナの協力もあってようやく足取りを掴めた事になる……が、呆気なさすぎる。
結局、偶然が重なっただけ。それで片が付くような事件なのか……?
「きっ……ぃぁ!?」
「? ミオナさ、……っ!」
掠れた悲鳴。顔を上げたヴェネの視界の隅で、ミオナの華奢な体が横殴りに吹き飛んでいく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます