第3章の2「*************」

3-2-0 この章、および「飛んで火に入る」について

 本来、「かれ」は「おもちくん」という名を最後の形態として、従前のようなかたちでその一生を終えた。


 はずだった。


 ここまで読んできた、奇特なみなさんはもう気が付いている方も多いと思う。

 「かれ」は確かに、存在として消滅した。しかし、実のところそれは、ぼくと「かれ」が統合されたということに過ぎない。

 そうした中で、「かれ」なき後、のこったぼく自身についても、少しだけ書いていく必要があるように思った。それはあくまでぼく自体のことではなく、ぼくに組み込まれた「かれ」の軌跡として、とでも言えばいいだろうか。なかなかことばで説明できるようなものではないが、少なくとも、そういった理由で本章は、「かれ」の相方にちなんで「第3章の2 **********」と名付けられている。

 

 「かれ」なき後、突然、狂ったような勢いでひとつの純文学中編小説を書き上げてしまった。当初ぼくは、これこそがぼくの新しい何らかの境地であると思っていた。実際、何かに突き動かされるように1週間もの間、何も考えずにひとつの小説を書くためにほかのほとんどを犠牲にしたことはこれまでほとんどなかった。たった4万字のためにそれだけのことができなかった。ぼくはそういう人間だった、はずだった。

 しかし、書き上げて、(それこそここまであげてきたような)親しい書き手の方にも読んでもらって、これを当初の予定通り復帰作のひとつとして推敲し、精読しているうちに、ぼくは気が付いてしまった。

 この小説こそが、「かれ」の「ほんとうの遺作」であったのだ。

 事実、ぼくはこれを書き上げてから、また小説を長く書くことはできなくなってしまった。あれだけことばと概念の奔流に飲まれたにもかかわらず、それが終わった時点でぷつんと糸が切れたように、また書けなくなってしまった。

 そのため、本来であればこの作品と同じく復帰作品として仕上げるつもりの「現石」に初出として収録するはずであった、この、「飛んで火に入る」を、「かれ」の「ほんとうの遺作」と位置づけ、その遺志をぼくなりに再解釈したかたちで改稿し、前掲した「猫にコンドーム(〇版)」と同じく、「飛んで火に入る(〇版)」として、先行掲載することとした。この作品内で全編初出となり、かつ、時系列で区切ればひざのうらはやおの活動休止後最初の小説ということになる。が、その実態はむしろ逆で、この「飛んで火に入る」こそがひざのうらはやお、ひいては「かれ」の最後の作品であるのだ。だからぼくはこれこそが、現時点での「ひざのうらはやお最強の小説」というべきであると思っている。

 また、そういった背景があることから、本来「現石」の琥珀編として収録するものとしての「飛んで火に入る」とは全体の構成や一部のニュアンスを異なるものと考えて調整を行っている。前掲した「猫にコンドーム」と同様、(〇版)と本編では大きく改稿した部分を持たないまま、印象と意味合いだけを異なるものにさせるという試みである。もしよろしければ、「現石」にて放たれる「飛んで火に入る」の正版についても、あわせて読んでいただければ幸いである。

 また、余談であるが、この「飛んで火に入る」も、「猫にコンドーム」と同様、千歳県宇佐見市という、ある街に近似した架空の都市を舞台としている。両者が接続する意味合いのものも、ぼくは作りたいと考えているということだけ、ここでは申し添えることとする。

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