(2/9) 幻影のかなたに  ~Precious Memories~ 第1話 

鬱蒼とした防風林に囲まれた狭い小路を抜けると、いきなり開けた敷地に出て、大きな白い門が現れた。

「ようやく裏門まで来ましたね。ここからは聖アーカンゲル女学園の敷地になります。僕は、学校もあるのでそろそろ戻ります。玲奈さん、入学式、がんばってください!」

 つい先日入学式を迎えたばかりであろう少年に鼓舞され、玲奈は走り去っていく雄来の姿を見送った。

「はあ、なんかあたしって情けないなあ……」

 振り返って門を見る。

 大きな、白い門だった。

 彼女がその前に立つと、門は音もなく開いた。

 さすがは、最新式の認証システムを用いていることだけのことはある。今日入学する彼女もきちんと登録されていたのだ。

 門をくぐると、大きな庭園が広がっていた。

 左手には小さな川がさらさらと流れていて、それは遠くの池に向かってずっと続いていた。

 そこから、やはりこの学校の特徴的な制服を着た生徒が、ゆっくりと歩いていた。

 当然玲奈と同じ制服だが、右胸についているワッペンの模様が違うのと、左腕に何か小さな刺繍がしてあった。普通の人間なら見えないが、玲奈は生まれつき目がよく、なんとこの歳になっても視力は二.〇だったので、そういった細かいものでもよく見えた。学年を表すものなのか、それとも生徒会か何かの重要な職に所属していることを示すのか、編入されたばかりの玲奈にはわからなかったが、入学式のない上級生であることは想像がついた。

 すらりとしていて、なおかつ均整のとれた身体つきで、金色の長い髪をなびかせながら歩くその姿は、勇壮で凛とした気品を周囲に発し、どこか中性的な印象を漂わせた。

 玲奈は目を見張った。

 こんなかっこいいお姉さんがいるなんて。

 彼女は、見た目に関しては何の変哲もないまったくの凡人である自分がこの学校に来たことを、少し恥ずかしく思った。

 それほどまでに、その女生徒は完璧なプロポーションであったのだ。

 玲奈の胸がどきっと鳴った。

 それは決して体調不良からの不整脈などではなく、つまり一種の緊張状態になったということである。しかし彼女はどうしてそうなったのかがわからない。いくら凛々しいからといっても相手は女性である。

 だが、玲奈にとって、そういった事はどうでもよかった。

 とにかく、目の前の先輩の姿が凛々しかったという、ただそれだけだったのだ。


 このままでは、入学式に遅れてしまう。

 玲奈は走り出した。

 その生徒が玲奈に微笑んでいるように見えたが、そんなことはともかく、彼女は入学式の会場に早くたどり着かなければならなかった。それだけしか考えられなくなるほど、事態は切迫していたのだ。

 ただでさえ汗ばんでいる彼女が身にまとっている、黒く荘厳な制服は、さらに汗を吸い、編入生の初々しさを表すはずの制服の糊気が早くもとれてきてしまっていた。

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