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 就職して、それでも、というより就職してからぼくはより小説を書くようになった。当時の職場は頭脳労働というよりはほぼほぼ肉体労働のようなところで、家で寝ていても深夜三時に起こされて緊急対応に向かうなんてこともざらにあったし、大きな荷物を運んだり、ビラ配りをしたり、そんな仕事が大半で、だから合理化なんてしようもないし、毎日働き通しで、社会に対する恨みが再燃していった。隙間を埋めるために後輩たちと一緒に大学のサークルに行ったりしていたのだが、それすら覚えていないし、むしろあまりいい思い出ではなかったのだろう、というような記憶の残滓ばかりが今でも脳裏にある。

 「かれ」はなにをしていただろうか。よく思い出せない。実はこの間でも、ツイッターのフォロワーと新たに同人サークルを作ったり、文学フリマに出展していたり、それなりの活動をしていたのだが、当時の記録がそのとき書いた小説くらいしかない上に、当時の記憶がほぼほぼないので、小説くらいしか並べられない。

 社会人になって最初の文学フリマで「The magic nightmare~reunion~」を出し、その分厚さからは考えられない破格の値段で頒布したことと、おそらくは売り子が優秀だったからか、大学の文芸サークル時代とは比較にならないほどの数を頒布することができた。このときの頒布成績である二十三という数字は、つい最近、平成三十年になるまで、ひとつのイベントで、ひとつの作品の頒布数としては最大を記録し続けていた。数の上でそれを明確に破ったのは、実は休止前最後の作品となった「平成バッドエンド」しかない。それくらい「The magic nightmare~reunion~」は大きなヒットを記録していたのだ。

 実は、このとき初めての文学フリマだったので、舞い上がってしまい、いろんな知り合いに声をかけた。もちろん、Yにもダメもとで声をかけた。なぜか彼女は応じてくれた。未だになぜかはわからない。彼女は売り子として非常に優秀だったし、ぼくの記憶通りに動いてくれて、とてもよかった。

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