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 ここまで読んだみなさんなら、ある程度感づいている方もいると思うが、「Dear Y」を除く二作については、「かれ」はまとめあげるということ以上のことはしていない。逆に言えば、この文章は、「かれ」がこのまとめあげるという能力にどれだけ秀でていて、ぼくがそれをどれだけ持っていないのかということが現れている。

 就職活動ではほとんど「かれ」は活動しなかった。ぼくが活動をさせないように最大限に気を張っていたからである。「かれ」は社会的ではないことは明白で、当時のぼくは社会的であらねば就職することは不可能であることを強く感じていた。実際においては、就職することよりは、その会社でどんな人間として働くのか、どんな人間として過ごすのか、ということを意識して考えた上で、面接や書類考査の中でそれを要約して表現すればよかったわけなのだが、当然そんなことは考えておらず、「かれ」を消し、ぼくという存在がどれだけ有能であるか、ということをとにかく意識していたように思う。

 だからだろう、一〇〇を超える会社と地方公共団体にエントリーシートを送ったのだが、そのうち面接まで進んだものが三割、最終面接まで進んだものが二つ、そのうち内定をもらった方に新卒で入ったのだが、まあ、悪くはないところだったけれどいくらでも愚痴は言えるようなところだった。

 まあそんなことはどうでもよくて、それほど精神衛生の悪い中、ぼくはこの「冷たいパンケーキ」以外にもうひとつ短編、そしてもうひとつリメイクを加えて文芸サークルの卒業競作合同誌「彼岸花」をいちから編集して製本した。これはぼくが手がけた最初のオンデマンド印刷製本だったので、とくに「ジーク・ヨコハマ」はこの「彼岸花」を作った経験が非常に生かされている。競作、という表現からもわかるように、「彼岸花」はぼくともうひとりの同期による、互いの小説を一対一でぶつけ合い、最後に対談企画を載せるというものだった。「ジーク・ヨコハマ」を全く同じ形式にしたのは、偶然でもなんでもなく、この企画が持ち上がりかけていたテキレボ7の打ち上げで、ぼくが意図してその方向に持って行ったからである。「彼岸花」で得た、競作としての合同誌のおもしろさを、彼らとなら表現できるとその時点で思い始めていた。特に、あの場に転枝くんがいたから「仕込んだ」といっても過言ではない。

 「ジーク・ヨコハマ」の各書き手のうち、転枝くん、今田ずんばあらず氏、へにゃらぽっちぽー氏に関しては、特別な感情があるので、別の章でそれぞれふたたび記述することとしたい。

 ここでは、「彼岸花」が同人市場に流通しないプライベート作品ながら、おそらく大抵の合同誌をストライクしてしまうほどの攻撃力を持っているであろうと述べるにとどまるここととしたい。ぼくと、同期である山本(注 当時のペンネーム)のお互いの牽制と仁義なき殴り合い、そしてそこで完膚なきまでに叩きのめされた自分のみじめさがでている対談。これこそが、ぼくが同人の世界で求めていたことの一部における理想である。山本の希望により、これは同人市場で頒布することができず、お互いの知り合いにのみ頒布されているわけであるが、非常にもったいないと今でも思っている。

 山本、おまえ、ほんとそういうところだぞ。

 彼についても非常に複雑な感情があるのだが、それはここで書くにはあまりにも蛇足がすぎる(Yほど、彼はぼくの小説にはかかわってこないからである)ので、割愛させてもらう。

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