タイトルからは「あー、不幸なおっさんが偶然手に入れた優秀スキルでウハウハなサクセスストーリー送る、テンプレ的で、あまり深みはない物語ね、きっと」って印象を受けます。
実際、軽快で読みやすい文章のもと、優れたスキル持ち主人公が、ダンジョン探索を行うお話ではあります。
ですが、その一見テンプレでライトな物語のなかに「大人として現実社会で生きていくってどういうことだろう」というテーマがしっかりあるので、「軽快」でありつつも「軽薄」ではありません。
経済事情や家庭問題という、大人が現実社会の中で向き合う問題に主人公は遭遇し、危険なダンジョン探索という仕事の中での若者との関わりは、主人公がそれらについて考えていく上でのきっかけとなり、一助となります。
主人公がおっさん、舞台が現代でダンジョン、ヒロインは女子高生、ありがちに見えるテンプレ設定が、この作品ではテーマを語るための重要な要素になっており、意味を持って活かされています。だから納得感があり、軽薄さを感じないんだろうと思います。
モンスターとも戦いますが、主人公が本当の意味で戦う相手は、大人として未成熟な自分自身です。
最終話まで読むと、「もっと先が読みたい」とも思えるし、「この話数で完結するから良いんだ」とも思える、そんな素敵なお話です。
「お金」「幸せ」「家族」
登場人物のそれぞれが、このテーマに向き合い、
その結果、どう生きて行く道を選択したのか?
その結果、どう道を踏み外したのか?
それらの描写が、とても生々しい、印象的な作品でした。
伏線の回収も絶妙で、物語の序盤に書かれていた何気ない日常が、後で明かされる重大な真実へと繋がっていたりと、推理小説さながらのトリックに、ひどく感心させられました。
ただ、1つ難点を云わせてもらうと、「タイトルと作品の内容に、イメージ的解離が激しすぎて、ドン引きするわ!」です(苦笑)
本作は、決して軽めのお話ではありません。
ガッツリとした、重めのヒューマンドラマなのです。
ですから、序盤では、けっして読み止めないで欲しい。
この作品の良さは、最後まで読み切った先にあります。
主人公は不幸ながらも、有能で才気あふれる人間であるのは間違いない。
ただ、少し怠け者というか「効率主義者」が行き過ぎて、「無駄な努力」というものを嫌悪しすぎただけ。
例えるなら「本当に有能なねらー」とでもいうべきか。
その主人公についていけなかった嫁や会社の上司により陥れられ(?)、不幸になるものの、不貞腐れて足を止めていた時期がありながらも、周囲の人との交流で30になって、また新たな人間関係を気付き、何かに目覚める物語。
玉石混交になりがちな(大抵石以下だが)、主人公視点の地の文の文章だが、主人公の思考が極めて論理的&ねらー的なユーモアにあふれる文章で読みやすく、また状況を把握しやすいため、まさに玉と言うべき文章になっている。
ストーリー、文章、キャラ。
全てにおいて高水準な良作。是非お勧めしたい。
この作品は、ちまたではびこってる「頭空っぽで読める小説」と思いきや、結構ヘビーな内容を取り扱っています。主にヒューマンドラマ的な意味で。
もちろんタイトルの通り、主題はリストラされたサラリーマンがダンジョンで徐々に成功していく話なのですが、そこまでの過程がとてもしっかり書かれています。嫁の不倫、上司からのリストラ宣告、実家での親との会話、そのどれもが綿密に描かれていて、ドラマでも見てるかのようにそのシーンが想像できるのです。
こういった丁寧な描写は、ライトノベルでは冗長に感じることがありますが、心配ご無用です。この作品の文章はとても読みやすく、頭空っぽな私でもスルスルと読めました。
頭空っぽで読める作品群に食傷気味なあなた!
スッキリ完結しているので、是非!
黒犬事件、まあ早いうちに誰がやったのかとどうやって出来るようになったのかはなんとなくわかる。34話見てほぼ確定かな?
ただ、どうしてやったのかは全く分からない。そのどうしてがこの物語の真のテーマなんでしょう。
人の心には、特にこの物語の冒険者のような境遇の人達の心には光と闇がある。
各々の心の闇に向き合ったり見なかったことにしたりでなんとか心の光を照らしてる。
なんだかんだであのオサム君が頑張って皆を前向きにさせてたし、武術家の爺さんや主人公も互いのバティを導いてきた。
でもあの人はそういう風に出来なかったんだな、と。
ある意味完全な主人公のネガであるあの人との対決が、この物語の一つの結末なのでしょう。そして、どのような道を歩むにしろ、主人公が誰かを支えながら生きていくことの指標になるのでしょう。