王子様の恋文と美少女のよだれ

 王子様 再び降臨!

 俺はあんなチンピラみたいな

 元ヤン教師には 屈しない!


 俺は恋文を渡すんだ!

 もしあの教師がやってきても絶対に恋文を渡す!


 あの鋭い眼光にも僕はひるまない。

 あの百戦錬磨の修羅場を潜ったような目つき。


 なんであんなやつが教師なんかやっているんだ?

 俺のような 優等生の王子様キャラクターこそ女子高校の教師になるべき人材なんだ。


「なんか用か?」

 でたな 人災め!

 いるだけで威嚇する立ち振舞い。


「カレンさんに渡すものがあるので」


「あれ 八王子君!」

「カレンさん!」


 ようやく女神に会えた!


 一晩かけて書いた恋文を、元ヤンキー教師がクチャクチャにして道に捨ててしまった。それでもどうしても、カレンさんに気持ちを伝えたくて、ぐしゃぐしゃな恋文を差し出した。


 カレンさんに惚れ込んでしまったのだ。

 なかなか手が届かない高嶺の花の如く美しくも優しい 美少女が大好きだった。


「読んでください」


「野咲、捨てて かまわないぞ」


 鬼教師が腕組みをしながら邪魔をする。


「何かな?」


「カレンさんへの僕の気持ちです」


「どれどれ? 僕はカレンさんのことが大好きです」


 鬼教師が声に出して読み始めた。

 幸い生徒は みんな下校してしまい、居合わせたのは三人だけだった。


 俺はこのバカ教師のことが 許せなくなり、胸ぐらをつかんだ。


 王子様の生まれてはじめてのケンカだ。許せなかった。


 相手は狂犬、いや狼かもしれない。


 当たり前だが狂犬はたじろがない。


 王子様キャラを捨てた俺は、とうとう 殴りかかった。


 相手はケンカ慣れしていて 簡単に かわされた。


「貴様は教師だ。殴れないよな?」


 無言のまま 教師は寸止めした。


 顔面パンチを寸止めしたのだ。


 俺は 生まれてはじめての恐怖で、失禁してしまった。


 しかも 大好きな女子の目の前で。


 すると カレンさんが俺の様子をじっと熱い眼差しで みつめていた。


 よだれを流しているように見えた。潤んだ瞳がかわいい。


 よだれを流すカレンさん。

 尿を流す王子。


 彼女は興奮しているようで――


「お手紙の返事、連絡しますね」


 嬉しそうに答えた。


 今までで一番嬉しそうだった。

 何故なんだ?

 醜態をさらしたのに?




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