第6章 女神と魔王と英雄王
第53話 英雄王と女神
古代神様は帰った。最後にしなくて良い爆弾発言をして帰った。
俺は液晶テレビの前のスペースに正座をさせられている。
ルナは俺と対峙して正座、リンはリビングの向こうのダイニングにいる。クッキーを食べ、紅茶を飲み、こちらを見てくつろいでいる。
このような状況になったのは、ルナとリンが、一対一で俺と話をしたいと言ってきたからだ。
今の時刻は午前十一時。閉めていたカーテンは開けた。雨は降っていない。朝は曇り空だったが、今は太陽が顔を出している。
「拓海君」
「はい」
「私のこと、愛しているってホント?」
ルナが変化球なしの、ど直球の質問をしてきた。俺は今の気持ちを正直に答えようと思う。
「本当だ。俺はルナを好きだ。愛している」
言葉にすると超恥ずかしい。顔から火が出そうだ。
ルナは正座のまま、俺に近づき手を握ってきた。
「じゃあ、私を拓海君のお嫁さんにしてくれる?」
俺は頷いた。
「うん。ルナ、俺のお嫁さんになって下さい」
俺の返事にルナが笑顔になった。
「やったぁ。嬉しい。でも結婚はまだ先だから、今は拓海君の恋人になりたいな。拓海君は恋人いないよね?」
「いないけど……」
俺はお嫁さんのことは即答したけど、恋人の返事には躊躇した。
「拓海君、私を恋人にするの嫌なの?」
俺が即答しなかったので、ルナが悲しそうにしている。握っていた俺の手も離した。
「嫌じゃない。ルナのような、かわいい女の子が恋人なのは嬉しい。だけどリンやソラのことも考えると……」
ルナはまた笑顔になった。一問一答で表情が変わる。
「そっかぁ。拓海君は優しいね。リンちゃんやソラちゃんの事もちゃんと考えているんだね」
ルナは嬉しそうだ。笑顔がかわいい。
「それなら拓海君。私とリンちゃんとソラちゃん、みんなを拓海君の恋人にすると良いんだよ。それなら悩まなくて良いでしょ?」
「えっ、は? 全員恋人⁉︎」
ルナはワイルドだった。女神だからか、ルナの性格かは分からない。
俺は英雄王になって体の一部に触れると、その人物の心、過去のこと、全てを見ることはできる。だけど、見るのは必要なときだけにしようと思っている。
「天界や魔界は一夫多妻だから、恋人も何人もいて良いんだよ」
マジか! 恋人も何人もいて良いのか! ヒャッホー。やったぜ!
俺は嬉しかった。生まれてから恋人がいない俺には、夢のようだった。
事故で死んだのは木曜日。今日は日曜日。四日前まで恋人はいない。
今も当然いないが、俺は毎日いろいろと妄想をしていた。妄想以上のことが現実になろうとしている。
「でもね、拓海君」
「何?」
「一夫多妻と言っても、お嫁さんにできるのは三人までだよ。恋人には制限はないけど、三人までにした方が良いと思うよ」
一夫多妻は三人まで……俺には三人でも贅沢過ぎる。ルナは、恋人は三人までと言っていることは理解できる。
「拓海君は、リンちゃんとソラちゃん、……それに花澤葵ちゃんって子が好きなんだよね?」
「あのさ、花澤葵ちゃんを好きな気持ちは、もうほとんどないんだよ。恋人でもなく、話もしたことがない、ただの片思いだったしね」
「そうなんだ」
「いい加減な男と軽蔑されても仕方ないと思うけど、俺のことを好きと言ってくれた、ルナやリンを大切にしたい。もちろん親友のソラも」
ルナは俺をジッと見つめている。たぶん俺のことを軽蔑しただろう。
「私はそれで良いと思うよ。拓海君はまだ十六歳だから、恋はいっぱいしないとね。自分に好意を持ってくれる人を大切にするのは良いことだよ」
「そうだよな……ありがとうルナ。さすが二百四歳だな。大人だな」
「えっ、私が二百四歳? なんのことかな?」
ルナは首を傾げた。そしてリンを見た。こちらを見ていたリンが顔を背け視線を逸らした。
「ルナ、年齢はリンから聞いた。リンを怒らないでくれ。俺が無理矢理聞いたんだ」
ルナは振り返り俺を見た。般若のような顔になっていると思っていたが、いつものかわいい顔だった。どうやら怒ってはいないようだ。
「怒ってないよ。拓海君は私の年齢を知っていても、態度は変わらなかったし、お嫁さんにしてくれるって、約束もしてくれたしね」
「まぁ、ルナが何歳でも俺は気にしないけどね。見た目は俺と変わらないし、二百四歳だけど言動が幼稚だしな」
ルナは頬を膨らませた。
「ぶー。私は幼稚じゃないもん。拓海君に合わせているだけですぅ」
「はいはい」
「ねぇ、拓海君。私は拓海君の恋人で良いよね」
「うん。是非よろしくお願いします。恋人になって下さい」
俺は頭を下げた。頭を上げると、ルナはほほ笑んでいた。
「ふつつか者ですがよろしくお願いします」
ルナも正座から頭を下げた。そして頭を上げると真面目な顔になっていた。
「ところで拓海君。さっきリンちゃんが拓海君を好きって言っていたよね? それに、どうしてリンちゃんを、名前だけで呼んでいるの?」
「リンが俺に一目惚れしたらしい。そして俺が英雄王になったらリンをお嫁さんにする約束をした。リンを呼び捨てにしているのは、リンにそうしてくれと頼まれたからだ」
ルナは自分の頬に人差し指をポンポンと当てた。
「うーん。やっぱりね。ほぼ私の予想通りになっちゃたなぁ」
「ルナの予想通り?」
「そうだよ。拓海君はカッコいいから、リンちゃんは絶対に一目惚れすると思っていたんだよね。でもお嫁さんになる約束までしたのは、予想外だったよー」
俺がカッコいい⁉︎ ルナちゃん大丈夫か? 今までカッコいいとか言われたことないぞ!
「拓海君。私とリンちゃんどちらが第一夫人?」
ルナは俺に顔を近づけた。俺は少し仰け反った。
「ルナが第一夫人、リンが第二夫人だ。リンの提案でそうなった」
「拓海君はそれで良いの」
「俺もそれで良いと思っている」
年齢イコール恋人いない歴の俺にも、とうとう恋人ができた。しかもかわいい女神。さらにお嫁さんになってくれる。夢のようだ。
「じゃあ、私のことが一番好きってことだね」
「そうなるね。僅差だけどな」
「僅差かぁ。でも嬉しい」
ルナは自分の頬に両手を当て、にやけている。
「まだまだ聞きたいことがあるけど、リンちゃんと交代するね」
ルナは立ち上がろうとした。
「あれ? 正座していたからかな? 足が痺れて立てない」
「大丈夫か?」
ルナが俺の方にフラついて倒れて来た。俺はルナを受け止めようとした。
ルナが俺の首に腕を絡めてきた。ルナの顔が俺の顔に近づいてくる。
ルナの行動が不自然すぎた。俺は動かずにルナに身を任せた。
「んっ……」
ルナはキスをしてきた。しかも大人のキス。二、三秒の短い時間だった。
「……ごめんね。足が痺れて、偶然キスしちゃった」
「仕方ないよ。偶然そうなったからね」
ルナは絡めていた腕を離して、俺の肩に手を乗せて見つめている。
「あのね、拓海君が私のおっぱい触ったのも偶然なのかな?」
ルナが俺に倒れてきた時、受け止めるフリをして、ルナのおっぱいを触った。
「そう、偶然。支える時にたまたま触っただけだ」
「そっかぁ。それなら仕方ないね」
ルナは笑顔だ。その笑顔は、俺のエロ心はお見通しだよと語っていた。
俺の心が読めるとは、さすがルナ——って、今の俺のエロ心は誰でも分かるか……てへっ。
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