第45話 リンは拓海のお嫁さんになりたい?
「リン、昨日なにがあったのか聞いてもいい?」
俺がそう言うとリンは俺を見つめてきた。
「拓海を交通事故で殺した犯人と黒幕の人物を消滅させた。拓海は今後は安心して暮らせると思う」
「……そんな大変なことをしていたのか……ありがとう。でも、テレビの緊急速報で犯人は自首したって出ていたけど?」
「それは私たちが情報操作をして報道した。警察やテレビなど、さまざまな機関に我々がいるから情報操作は簡単にできる」
そういえばルナもそんなことを言っていたな。これで安心して暮らせるようになるな。だけど——
「リンの顔の傷と腕はその犯人と黒幕を消滅させる時にできた傷なのか?」
「そうだ。私と私の父が黒幕のほうへ行きルナとルナの父上が犯人のほうへ行ったんだが、予想以上に強くてな。それで右腕もなくなり左目も失明した」
「どうして俺のためにそこまでするんだ? 英雄王はそんなにだいじか。必要か? リンの目や腕を失ってまで守るものなのか?」
「私にはおまえや英雄王などはどうでも良いことだ」
「じゃあ、なぜそんなになるまで頑張ったんだよ」
「私の親友、ルナのためだ。おまえが消えたらルナが悲しむ」
「ルナのため……か……でも俺は昨日ゲームで遊んでいた。その時にリンは戦っていて、美人で奇麗な顔に傷がついて、腕もなくなり失明もした……」
「私が美人で奇麗か……」
「俺がいなければリンの顔は奇麗なままで、目と腕を失うことはなかった……俺がいなければ……」
俺は泣いた。自分が許せなかった。
なにも知らなかったとはいえ楽しく過ごしていた自分に腹が立っていた。
俺の正面に座っていたリンは席を立ち、俺のとなりに座った。
「拓海、自分がいなければと考えてはダメだ。おまえがいることで幸せになる者もいる。拓海の家族やルナがそうだろう?」
「それは分かっている……分かっているけど……」
「拓海」
俺はリンに呼ばれ彼女と目を合わせた。リンと俺は膝と膝が触れる距離にいる。
「……なん……だよ」
リンは左手で俺を引き寄せ抱きしめた。
「拓海、おまえは優しいな。ルナが惚れたのも分かる」
「……こんな俺のどこが良いのかさっぱり分からないけどな」
「おまえは自分で気づいていないが男としては魅力的だ。美男子だしな」
「俺が魅力的? 美男子? うそ……だよな。励ましているだけだよな。俺はヘタレだぞ」
「私はうそは言わない……だが私はおまえを好きになったりはしないがな」
「はは。リンは自分より強い男だけを好きになりそうだな」
「私より強い男か……そんなことはない。拓海のような泣き虫でも私は好きになる」
俺はリンに抱きしめられていたが離れた。リンの言葉で俺は泣き止んだ。
「リンが俺を好きになる⁉︎」
「……なにを勘違いしている。おまえのようなだ。拓海、おまえではない」
「……ですよねー。リンのような美人が俺のことを好きになることはないよなー」
「そうだな。拓海のことを好きになることはないな……それにしても拓海」
「何?」
「話の所々に私を美人と言っていたが、もしかして私を口説いているのか?」
「はっ? いや、口説いている訳ないだろ!」
「そうか……そうだな。口説くわけないな。私はなにを言っているんだろうな」
「そうだよ。なにを言ってるんだよ」
今まで無表情だったリンの顔が、悲しそうな顔になった。
「……私は顔に一生残る傷ができてしまった。女の幸せはもうない。そう思っているから変なことを言ったのかもな」
リンは気が強そうだけど女の子だよな。顔に一生傷が残るのはつらいよな……
「それに、腕もなくし剣士としても生きていけない。私には何も残っていない」
「リンには何も残っていないとは思えないけど?」
「私は剣一筋で生きてきた。他になにかをしてきたわけでもない」
リンが悲しそうだ。何かないのか? 考えろ俺!
「リン、たしかにリンの顔には傷がある。でもリンは奇麗だ。美人だ。美しすぎるぞ。俺はリンのこと好きだぞ」
俺はリンを励まそうと思いリンの容姿を褒めた。もちろん嘘ではない。リンは美人すぎる剣士だ。
「それにまだ左手があるだろ。剣士の道は終わっていないぞ」
俺の言葉を聞いてリンは頭を左右に振った。
「剣士を続けるのは無理だ。左目が見えないとわずかに距離感が狂う。格下相手ならそれでも良いが、同じ力量だと負けてしまう」
「でも努力したら——」
「もういいんだよ。剣士の道は諦めたからな。女としては……そうだな、拓海のお嫁さんになるとしよう」
「ふえっ⁉︎ どうしてリンが俺のお嫁さんになるんだ?」
リンが俺のお嫁さんになりたい? 意味が分からないのですけど!
「先ほど拓海は私のことを奇麗で美人で好きと言ったな?」
「言ったけど……」
「それは拓海が私に愛の告白をしたということだな? なら私はおまえの告白を受け入れるとしよう」
「あっ、あれはリンを励まそうと思って——」
「嘘をついたのか? 私は今、すごく傷ついたぞ」
「嘘じゃない。嘘じゃないけど——」
俺は嘘はついていない。リンは美人で奇麗だ。リンは俺の言葉を嘘と思ったようだ。リンを傷つけてしまった……リンは悲しそうに……していない⁉︎
「ふふ。分かっている。拓海は嘘をつく人間ではないことは話をしていて分かっていた」
リンが笑った。初めて見たリンの笑顔はかわいかった。
「リンの笑顔は初めて見たが可愛いな」
「かっ、かわいい⁉︎ なな、なっ、何を言っているんだ。私が可愛いはないだろう」
「照れているリンも可愛いな」
「やめろ! やめてくれ! 私をカワイイとそれ以上言うなー!」
リンは耳まで真っ赤にしている。
「よかった。元気になったみたいだな」
「拓海。貴様は私を元気にするために言っていたのか! くっ、やはり私が美人で可愛いというのは嘘だったのか! 私を好きと言ったのも嘘か!」
「いや、美人でかわいいのは本当だ。俺がリンを好きなことは……」
「拓海が私を好きなことは?」
「な、い、しょ」
「内緒だと! 貴様は私をからかっているな! ゆるさん! 殺す! 絶対に殺す!」
「おお! 怒ったリンちゃんも、か、わ、い、い」
リンの顔は透き通る白い肌だが、今はピンク色をしている。
「こんなにからかわれたのは初めてだ——くっ、殺せ。こんな辱めを受けるくらいなら死んだ方がましだー」
そう言ってリンは俺に背を向けてソファーに倒れた。顔をソファーに置いてあったクッションで隠した。
あちゃー、からかい過ぎた。リンの反応が可愛いかったからつい余計にやってしまった。
でもリンが元気になったみたいだし良しとしよう。俺も元気になったしね。
だけど俺はリンの傷を治したい。なんとかならないのか?
そういえばリンたちは人が使えない神々の奇跡が使えるよな?
リンの傷は神々の奇跡では治らないのか? そもそも神々の奇跡には治癒系はあるのか?
「……なぁリン。その傷は神々の奇跡では治らないのか?」
俺はクッションで顔を隠している。リンはゆっくりと起きて、俺を見た。
怒ってはいなかった。でも恥ずかしそうにはしていた。恥ずかしそうにしているその姿が可愛いかった。
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