第31話 SPT決断

「司令!旧警察署から爆音が検知されました。最上階フロアが完全に爆破された模様です。交戦中の統合軍特殊作戦部隊及び黙示録の旅団・PKTの混成部隊は撤収を開始しています。」

「両者の戦闘に因り戦力が消耗した間隙を衝いて補虜を穫保する。我々はより多くの情報を収集する必要が有る。状況を正確に把握しなければ、事態の解決は有り得ん。」

「敵両勢力は異なった逃走経路を選択した模様です。統合軍特殊作戦部隊は装甲車両を放棄してVTOLで、黙示録の旅団及びPKTの混成部隊は地下街路を利用して逃走を図っていると思われます。」

「VTOLと地下街路か。特殊作戦部隊の追跡は困難だが、放棄された装甲車両を調査しろ。連中の目的が解るかもしれん。もう一方の黙示録の旅団とPKT混成部隊は追跡部隊を編成して追跡しろ。」

「了解。」

フェルナンデスは、高度な知略に基づいて部隊の指揮を執り、確実に真実に辿り着き邪悪な犯罪を糾明する決意を固めていた。

本部を襲撃した敵部隊は統合軍特殊作戦部隊か或いはPKTと黙示録の旅団の混成部隊か。現段階ではどちらの可能性も否定出来ない。

また、過去の事件で鮮烈且つ圧倒的な戦闘力を示した三体の敵もその詳細は未だ解明されていない。常軌を逸した戦闘力を有する戦闘要員が二名。更には、言語を絶する程の強大な膂力を誇る謎の怪物。

浮遊型センサー・カメラではその姿を確認する事は出来なかったが、旧警察署内に居る可能性も有る。戦力に劣る追跡部隊が遭遇すれば、最悪の場合全滅も有り得る。故に、慎重な判断を下さざるを得ない。

「例の襲撃犯に遭遇しても、迂闊な行動は執らない様に通達しろ。」

「了解。当初の作戦計画通り、情報収集を最優先で任務を遂行します。」

フェルナンデスは、困難な作戦の成功を期して沈思黙考し始めた。

戦力が激減している現状で最大限の効果を挙げる為に選択した苦渋の決断。凄惨な最期を遂げた部下達の無念を晴らすべく、起死回生の策略を巡らせる。現時点で敵の戦力に壊滅的な打撃を与える事は不可能だろう。だが、犯罪捜査のプロフェッショナルとして培ってきた経験に基づいて、敵の行動理由を把握する事は可能な筈だ。

「統合軍の装甲車両の調査はまだか?」

「はい。直ちに現状確認致します。調査班、調査結果を報告しろ。」

「こちら調査班。只今より調査検分を実施する。対象車両に進入する。・・・何だ?装甲車両が異常振動を開始した。警告音が!」

「何だと?・・連中め、証拠隠滅を謀って爆破するつもりか。流石は統合軍特殊作戦部隊。用意周到だな。総員、至急退避しろ!」

「了解!」

装甲車両に進入していた隊員達が慌しく退避を開始した刹那、突然閃光が装甲車両から迸り、轟音が響くと共に車体が爆散した。

「司令部!退避が間に合わず数名の隊員が爆発に巻き込まれた。残りの隊員も負傷した模様。」

「至急、生存者を確認しろ。無事な者は爆散した装甲車両の残骸を回収に当たれ。」

統合軍特殊作戦部隊が装甲車両を爆破したお蔭で、連中の隠したい物が其処に存在していた可能性が高いとフェルナンデスは判断した。

尋常ならざる真相が隠蔽されようとしている事を、彼の鋭敏な嗅覚は告げていた。邪悪な犯罪を断じて赦す事は出来ない。どの様な真実が露呈するのか、そしてそれを暴露する事に因って組織としてのSPTが直面するであろう危機に対する備えは万全に整えねばならない。自己の、そしてSPTの存在意義は、世界を蝕む悪辣な犯罪を根絶する事に在ると言う確立された信念の下に行動している。

世界を管理統制する行政府機構に対する反逆の狼煙を上げる覚悟は既に固まっている。

しかし、SPTは現在財政面で困窮状況に追い込まれている。

事態を打開する為には、人権擁護局のハインズの協力を仰ぐ必要が有る。フェルナンデスは、既にハインズ局長との面談を作戦終了後の予定に組み込んでいた。

起死回生の施策を成功させ、正邪が渾然一体としている状態に終止符を打ち、理想とする正義を実現する。喩えどんなに僅かな希望でも、未来へと連綿と遺して行かねばならない。

夜明けを告げる曙光がアウター・タウンの廃墟を照らし出し始めた。

朝霞に包まれた戦場は、惨憺たる光景が拡がっている。

「この代償は必ず払わせて遣る。我々には退路は無い。闇の領域に踏み込んだ以上、如何なる犠牲を出そうとも真実へと辿り着く。」

フェルナンデスの揺ぎ無き意志は、確実に事態を進展させつつ在る。

時の流れは静かに全ての事象の推移を只見守っていた。

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