第6話 SPT指揮官の決意

 培養液で満たされたカプセルの中に、ローラは横たわっていた。


 「ローラの回復状況はどうだ?」

多重認証ロックを解除して入室して来たSPT指揮官が厳粛な表情で訊いた。

「はい、サイバネティクスシステムに関しては殆どが修復済みで、残るは有機体構成要素の培養のみです。」

修復作業を監督していた、若い科学技術官が答える。

「そうか。リチャードの方は?」

「はい、あまりに損傷が激しく、中枢システムが機能不全状態に在る為、修復作業は難航しており、・・現在の状況では、回復は絶望的です。」

技術官が示したカプセルに納まっているリチャードは、殆ど原型を留めぬ程破壊され、無残な残骸と化していた。


 「我がSPTの誇る精鋭を、完膚無き迄に殲滅するとは・・・敵の正体は判明したか?」

苦渋に満ちた表情で問う。

「はい。それが・・ローラが無意識に繰り返す言葉が、女・・私と同じ・・と。それから、リチャードの視覚中枢データから抽出した映像がこれです。」

 制御盤の操作で、スクリーンにデータ投影する。

 その影は、延々とリチャードに正確な攻撃を加え、アーマーボディを切り裂き、システムコアを抉り出した。朧な影は、やがてはっきりとした姿を現した。

 月光の元、有機的擬似血液の純白の返り血を全身に浴びて、無慈悲な表情の、否、正確には、何の感情も感じさせない冷徹な表情の若い男が映し出された。軽量アーマーと頭髪が白銀色に輝いている。

「・・この男に関するデータ照合は完了したか?」

「惑星全域の公的機関、民間データと照合しましたが、該当者は存在しません。」

「どういう事だ?我々の特別捜査権は、あらゆるプロテクトをも無効化できる筈だ。例え、何らかの機密に関わる情報でも、検索は不可能では無い。」

「ですが、我々のコンピューターが直結している、行政府のイオン量子ヨタA.Iオメガに拠る徹底解析結果です。管理外区域住民の可能性も検討して、過去犯罪データ等から多角的解析を試みましたが、近似類型の存在しない個体であると認識せざるを得ません。」

「完全に未確認の謎の存在か・・・。そんな者を、放置する訳にはいかん。これより先、厳戒用非常ネットを張り、関係の可能性の有る情報はどんなに些細なものでも見逃さずに捕捉しろ。」

一段と険しい表情で、指揮官が命ずる。

「はっ!では直ちに、SPT全機能を厳戒態勢にシフトします。」

機敏に即応する技術官。

「それと、ローラが回復次第、即時対応の為の待機状態に復帰させる様に。最早、我々の主な戦力は彼女の他に居ない。ローラのボディには強化策も実行しろ。・・・次回の交戦時は、今回の様にはいかんぞ。我々SPTの総力を挙げて襲撃者を拘束する。」

指揮官は、静かな怒りと決意に満ちた表情で宣言した。

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