エピローグ―その命尽きるまで―
ライの師匠、アスラン・アルデバランがこの世を去って――否、俺が殺してから、一週間がたった。
彼の葬儀や仕事の引継ぎ等、家族の居なかったアスランの死後の処理は全てライが担当した。
慌ただしく過ぎたその日々が落ち付いた今日、師匠の墓にライは一人で訪れていた。
「――。」
簡素で無駄のない、師匠らしいその墓の前にしゃがみ込み、無言でそれを見つめ続ける。
「――師匠、こんな形で貴方に置いていかれるとは思っていませんでした」
ライの記憶は、俺が操作して『アスランは、ライが発見した時には既に致命傷だった』という記憶にすり替えてある。
我ながら残酷なことをしたと思うが、これも全てライの為だと信じている。
「貴方にとって、僕はなんだったのでしょうか? ちゃんといい弟子で居られていましたか、誇らしい弟子でいましたか?」
胸の内にある心残りをつらつらと口に出すライ。
だが、無論その問に答えるモノはここにはいない。
「僕は、父を物心つく前に亡くしているので、その顔を知りません。――だから、勝手に貴方を父のように思っていました」
そう言うライの声は、いつしか震えていた。
震えるライの肩に、ぽつりと雨粒が落ちる――夕立だ。
途端に振り出した雨にも関わらず、ライはそこでじっとしていた。
――どれくらい、そうしていたのだろうか。
ふと、ライの身体にふる雨粒が、遮られた。
ライが見上げるとそこには、傘を差し出す人影があった。
「風邪ひくぞ、ライ」
そこに現れたのは、意外な人物だった。
「――アルフォンソ、さん」
そこにいたのは、粛清騎士序列第3位アルフォンソ・グラットストーンだった。
「アスランのおっさんの件は、まぁ残念だったな。だがまぁ、この仕事は殉職率が高い。こうやって見送る側になることだって多いさ」
「はい、そうですね。それはわかっていたつもりでした」
「だがな、ソレに慣れろっとは言わないさ。俺たちは人間だ、悲しい時に悲しむのはその特権だ。手放しちゃいけない」
そういって、ふっと彼は嘆息する。
「そもそも、家族が死んでも悲しまない奴は俺は信用できないな」
「――家族、ですか」
どこか心ここにあらずで答えるライに、アルフォンソは言葉を続ける。
「昔、おっさんが弟子を取ったって聞いた時、おっさんに聞いたよ『どういうつもりでとったんだ』って、そうしたらこう答えたよ」
そこで、コホンと息を整えたアルフォンソは、少し声を低くしてこう答えた。
「『わからん、だが放って置けなかった』だってさ。それで、俺が今更家族でも作る気かって言ったら、無言でそっぽ向きやがったよ」
だから、アルフォンソは言葉を続ける。
「お前が、おっさんを父のように思ってたなら、おっさんもうれしかったんじゃないかって思う。――お互い気が付かなかっただけで、家族だったよお前ら」
「――そう、ですか」
そういってライは、少し笑った。
ここ数日の間で、初めて笑った気がする。
「もう少し早く、歩み寄れればよかったです」
「だな」
そしてやがて、夕立は晴れる。
傘を畳んだアルフォンソが、ライに向き直る。
「ここに来たのは、お前を慰めにきたわけじゃない――聖女サマがお呼びだ」
聖女が、粛清騎士を呼びつける理由はひとつ、新たな異端者の出現だ。
「いけるか?」
「――はい、大丈夫です」
そして、ライは師匠の墓標に背を向けて歩き出す。
向う先は、新たな地獄。
それでも、彼は歩みを止めない。
憎悪を纏い、悲しみを背負い、悲劇を孕み、進み続ける。
――その命尽きるまで。
最強の少年聖騎士、転生者を狩る〜研ぎ澄まされた技で、チートを凌駕する〜 宇奈木 ユラ @Edger3121
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