最終話

 1年が過ぎました。

 灯台はいつも変わらず、毎日毎晩、海を守っています。


 何かが海上をふわふわと漂ってきました。


「あ!」


 たんぽぽの綿毛です。灯台の足元に着地しました。やがて、芽が出て花が咲き、たんぽぽは灯台を見上げ、話しかけてみました。


「そこから、どんな景色が見えるの?」


 灯台は答えました。


「君のお母さんも、そうやって僕に話しかけてくれたんだ」


 灯台は1年前のように、たんぽぽとおしゃべりをしました。夜空の星のこととか、カモメはどっちに飛んで行ったとか、トビウオが海の上を飛んだとか。たんぽぽも、てんとう虫が来たり、トカゲが来たりしたことをお話ししました。ある日、灯台はたんぽぽに言いました。「君の世界は夜空に広がる星のようだ」と。それを聞いたたんぽぽは、「いつも自分が見ていた景色は宇宙そのものだ」と思いました。


 風が強くなってきました。もうそろそろ、旅立ちの時です。灯台はもう、寂しくありません。海の向こうにはまた別の海があって、そこには自分と同じように、海を守る仲間がいる。ここから一歩も動けなくても自分は一人じゃない。


 孤高に海を守る仕事を続ける灯台は、孤独ではないのです。何より、灯台は動かずに、守らなくてはならないのです。


 今日も灯台は海を照らします。船が迷子にならないように。海を渡るたんぽぽが心細くならないように。


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風に乗って海を渡れ 佐伯 海 @sasaumi_123

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