99話.期待と苦悩
自分が握りしめるはずであったバロンの右手が自分の目の前に浮かんでいる。
そんな異様な光景にクロムは言葉を失い、状況を理解できずにいるのであった。
そのため、自分の体が後方にはじけ飛ばされていることに気づくのが少し遅れたのだった。
「あなたたちがそういう行動にでるのは予想外でしたよ。
クロムさんは少し下がってください」
クロムとは違い、自身に起きたことを冷静に理解しているバロンはクロムを安全のために後方に吹き飛ばしつつ、配下の守護騎士たちを睨みつけた。
「バロン様、いや…… バロン!
今まであなたを
ゆえにサタン様に反旗を翻したあなたは我らの敵であります」
バロンたちのやり取りを聞くことで少しづつ状況を理解してゆくクロム。
バロンの傍らまで歩いてきたクロムはバロンの肩を叩きながら言うのであった。
「ん~、簡単にいえば俺の仲間になったからサタンへの裏切りだ~
裏切り者は処分する! 的な状況ってことでいいのか?」
「
あっけらかんとした表情で隣にたつクロムに少し呆れ気味な笑みを浮かべるバロン。
クロムはそんなバロンの態度を気に留める様子もなく、さらに一歩前に踏みだした。
「なら、原因を作ったのは俺ってことだな。
解決してくるから少し待っててな」
バロンがその言葉を聞き終えたかどうかという頃、すでにクロムの姿はバロンの視界より消えていた。
そして、バロンの前に居た守護騎士たちは……
首が刎ねられた者、氷漬けになった者、火だるまになっている者……
「だいぶ空間術の使い方がわかってきたよ、うんうん」
気が付けば自分の隣にいるクロム。
目の前の惨劇を起こした張本人であるはずのクロムが隣で普通にしゃべっていることの違和感と自分の中から湧き出す何とも形容しがたい感情がバロンを包み込むのだった。
「クロム殿……
何をどうすれば一瞬でこんな惨状を……」
「空間術の上手な使い方っていうのがだいぶわかってきただけだよ。
きっとバロンにもできるようになる芸当だと思うよ?」
バロンも空間術の使い手ではあるが、とてもではないがこんな芸当はマネできない。
そして空間術をどう理解し、どう使えばこのような惨劇を作り出せるのかバロンには想像できなかった。
やがて、バロンの本能がこの男と敵対してはならないと
「クロム殿……、改めてになりますが、私を配下の末席にお加えください」
「うん、こちらこそよろしくね」
クロムは自分の前で膝まづくバロンの元まで歩み寄り、肩を叩きながら迎え入れるのであった。
そして、悪魔王サタンを迎えるための準備についての話を始めた。
「まずはダインと話をしないとだな。
この街を譲渡してもらわなきゃ話にならん」
「クロム殿はこの地の支配者ではないのですか?」
「まずはそこから…… というか俺のことを説明しなきゃいけないわけだが……」
そしてクロムはいつも通りに自分と従属契約を結ぶ必要があることを説明するところから始め、詳細な説明をナビに丸投げするまでの一通りを行うのであった。
「ナビ、毎回ありがとな!
バロンも一通り理解できたか?」
バロンは苦笑するしかなかった。
あまりにも理解に苦しむ内容なのに、受け入れると色々なことが腑に落ちるという何とも複雑な感情が湧き出してくる内容と状況だからだ。
そして、バロンがクロムにすべてを真実であると信じて受け入れることにすることを伝えると、クロムはカルロとルーナにダイン王の元までくるようにと伝言してほしいとナビに頼むのだった。
「んじゃ、俺たちも行こうか。
この街の支配者であるダイン王のところにさ」
クロムが出現させた<ゲート>の入り口をくぐる二人。
クロムはこれからの展開に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます