3.何故”なろう系”はここまで伸長したのか

 さて、前項では“なろう系”という作風は如何にして流行したのかについて述べてきました。前項で書かなかったことについて一つだけ補足を加えておけば、この流れは恐らく大枠で他のウェブ小説投稿サイトにもある、と自分は考えています。小説家になろうというサイトが権威的だったが故に「ネット小説で受ける=異世界転生」という図式がやや広まってしまったのではないか、というのが個人的な見解でも有ったりします。


 話を戻しましょう。前項でも書いたとおり“なろう系”が流行したのはあくまで偶然でありつつも、いくつかの「流行りそうな構造」を持っていました。


 では、この“なろう系”。何故書籍化やアニメ化といったところまでこぎつけていくのでしょうか。最近であれば「転生したらスライムだった件(以下転スラ)」のアニメ二期制作が決まるなど、まだまだその流れは終わる気配がありません。


 しかし一方で、その手の作品は必ずと言って良いほど酷評され、まとめサイトで小馬鹿にするようなタイトルを付けてまとめられます。勿論、「転スラ」はその中でも亜種なのかもしれません(ちなみにこれの感想は確認していないです)。


 それでも、アニメ化という所までこぎつけるレベルの作品とは思えないくらいの酷評が目立つのです。それは何故なのか。そこには出版業界の「リスク回避傾向」が関わってくるのではないかと自分は考えています。


 飯田(2016)によれば小説雑誌の実売はいまや数千部から多くても一万部台がやっとだといいます。また、大坪ケムタの『少年ジャンプが1000円になる日―出版不況とWeb漫画の台頭』には漫画業界もやはり右肩下がりであるという事が書かれています。


 例をあげてみましょう。漫画雑誌の推定販売金額は2016年には1016億円で前年比12.9%減、コミックは紙の単行本の推定販売金額が1974億円で前年比7.4%減とやはり減少しています。大坪はこの後にコミックに関しては電子書籍が伸びている事を述べてはいますが、電子書籍と紙媒体のコミックを合わせた売上額は2014年で4456億円、2016年で4454億円であり、全体で見れば落ち込んでいる訳ではないものの、雑誌の落ち込みを考えるのであればやや危ない数字であると言えるでしょう。


 漫画ですらこのレベルなのですから、雑誌の販売実数が一万冊に届くかどうかという小説界隈がもっと厳しいのは火を見るより明らかでしょう。実際飯田(2016)も出版業界の「リスク回避傾向」について述べています。


 以前であれば力はあるが荒いという作家を拾い上げて育てると言いうことをしていたけど、今の小説業界にはその体力がない。だから、明確に数字を取れる「既に人気の作家」や「別ジャンルで人気の人が書いた小説」を売るのだというのです。後者については恐らく具体的な人物や作品が思い浮かんだ方もいるでしょう。恐らくそれが正解です。そして、そのロジックと「小説家になろう」が完璧に合致した結果が“なろう系”の伸長なのです。どういうことか。


 小説家になろうというプラットフォーム(他の小説投稿サイトも基本的にはそうですが)では、作品の人気が一目で分かります。PV数、ブックマーク数、評価ポイント。その見え方は様々ですが、数字という一番シンプルで分かりやすい形で人気が分かるのです。


 それはつまり「デビューする前からかなりのファンを抱えている状態」なのです。


 それが出版業界としては都合が良かったのでしょう。なにせ、失敗するリスクがかなり回避できます。事実飯田(2016)は、主婦の友社のヒーロー文庫が暫くの間重版率100%を誇っていたと書いています。ライトノベル全体で言えば二巻が出る確率は概ね20%程度という話を聞く位ですから、この数字がいかに大きいかは良く分かると思います。


 要するに小説家になろうや“なろう系”は「失敗しにくい安全な稼ぎ先」だったという事なのです。


 そして、アニメ業界にも恐らくは同じことが言えるでしょう。アニメを一本作るのにも莫大な費用が掛かります。だからこそ人気の作品をアニメ化するわけですが、取り敢えず固定の根強いファンが存在する“なろう系”作品は手堅いという事になるのではないでしょうか。勿論、実際にそれは(書籍化ほどではないですが)手堅い事が多いでしょう。しかし、その結果生まれたのが“なろう系”や“なろう系アニメ”に対する強い批判なのです。



【ざっくりポイントまとめ】

・”なろう系”のような作品は、小説家になろう以外でも強みを発揮することも。

・出版業界は斜陽で、リスクを回避したがる。

・その結果「最初からファンを持つなろう小説」に白羽の矢が立った。


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