1.そもそも”なろう系”って何?

 さて、話を進めていくうえでまず確認しておかなければいけないことがあります。それは“なろう系”というものが一体なんであるか、という事です。


 とは言ったものの、実のところ“なろう系”について明確な定義は基本的にありません。ただ、その大枠に関してはある程度意識して使っているのではないでしょうか。ちなみにニコニコ大百科では以下のようなテンプレの例をあげています。


・主人公が何らかの理由で異世界へ転生・転移する

・序盤で主人公がチートと呼ばれるほどの力を得る。努力を必要としないことが多い

・ありふれた知識、能力でも異世界では英雄に等しい活躍ができる

・ゆく先々でヒロインを助けてモテてハーレム作り

・とにかく作品名が長く、作品名だけで内容がわかってしまうことが多い

・ゲームの中でもないのにステータスやレベル、スキルなどがある世界観


 なるほど大体の人が“なろう系”と言われると思い浮かべるのはこの辺りでしょう。ちなみにウェブ小説について書かれた飯田一史の『ウェブ小説の衝撃―ネット発ヒットコンテンツの仕組み―』では、小説家になろうでの人気作品にはファンタジー物が多いことや、転生もの(現代社会にすむ主人公が異世界に転生したり、異世界内で二度目の人生を歩んだりするもの)が多いことについて触れています。

 

 勿論、そういった所謂流行の類は日々変化しているとは思うのですが、概ね“なろう系”というフレーズが使われるときにそこに含まれる意味は上記のようなものである、と言っていいでしょう。


 で、この“なろう系”。昨今(小説家になろう出身のメディアミックスが活発になったのは大体2010年代から)出てきた、全く新しい作品スタイルかと言われるとそうでもありません。


 皆さんはドラえもんをご存知でしょうか。恐らく知らないという人はほぼいないでしょう。そして、そこには「野比のび太」というキャラクターがいることも、まあ知っているでしょう。まあ、知らなくても大丈夫です。今抑えておけばいいのはこののび太が「運動も勉強もまるで駄目な所謂落ちこぼれとして描かれている」ということと「でも射的の腕は天才的である」という二点だけなのですから。


 さて、このドラえもんのアニメ劇場版に「ドラえもん のび太と銀河超特急」というタイトルがあります。

 

 この作品内で、のび太はドラえもん達と一緒に未来のテーマパークに遊びに行きます。もし見たことがないという方は「のび太の射的の腕前が発揮されるシーン」の数を数えながら見てみてください。ちなみに自分が記憶している限りだと5回あります。劇場版、とはいえ基本は子供も見るものなのでその尺は短く、97分程度です。その中で、5回。そして、「のび太の射的の腕が発揮されるシーン」というのはまさに構造として「異世界転生」と「俺TUEEE」と酷似しているのです。


 考えてもみてください。のび太は普段は全くパッとしないのに、テーマパーク内のアトラクション(西部劇の世界を体験できるというもので、当然射撃の腕前が一番重要視される土壌)で、普段は目立たなかった特技がいかんなく発揮される。


 勿論、のび太の技術は、現代社会においても発揮されうるレベルのものであり、そういう点では所謂“なろう系”よりは主人公として「強い」のは確かです。しかし「生まれた世界では大して注目されなかったスキルを使って、異世界(あるいはそれに準ずる世界)で無双する」という枠組みとして切れば、かなり近いものであると言えます。

 

 完全に一緒ではないにせよ、“なろう系“の持っている特性は、個々だけを取り出してみれば決して新しいものではないのです。では何故ここまで流行したのでしょうか。



【ざっくりポイントまとめ】

・”なろう系”に明確な定義はない。

・あえて定義するのであれば「生まれた世界では大して注目されなかったスキルを使って、異世界(あるいはそれに準ずる世界)で無双する」作品群である。

・所謂”なろう系”のテンプレは、個々では別に新しいものではない。

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