第84話 女にとっては最高の会見、男にとっては嬉しいけど最悪な会見


「ふぁーぁ」


あくびをしながら俺は起床する。

1階に降りて妹が作った朝ごはんを食べる。


いつもは時間が無くて見ないテレビだけど今日は久々に早く起きていたのでテレビを見る余裕があった。


この世界のテレビは男が出演しない。当たり前なんだけどまだ少しだけ慣れない。特に体を張る番組とかだと本当に見ていられない。


今日のテレビは何かの会見のようだ。

テレビ画面には椅子と机が置かれ、会見する人を報道陣が待ち構えているようだ。


テレビのテロップには“緊急会見、世紀の大発見!!”と映っていた。


こんな朝っぱらから世紀の大発見とはなんだろうと思い俺はテレビを見ていた。


無数のシャッター音と共に見た事のある1人の女性がテレビ画面に映った。


「あれ………小林さん!?」


その人は精子バンクで俺の担当をしていた小林さんだ。小林さんはいつもの精子バンクの仕事着で、歩いてテレビ画面の中心まで移動する。そして、マイクを持ち話し始めた。


「今日は集まっていただきありがとうございます。今日は私が新たに発見したことについて説明したいと思います。」


新たに発見したこと?なんだろう。俺は朝食を食べるのも忘れるほどテレビに集中していた。


「それでは発表したいと思います。」


小林さんは咳払いを一回して続けた。


「まず私は精子バンクで働いています。その仕事で男性からいただいた精子を研究しました、薬品などを使いながら慎重に観察を続けるとついに発見したんです。」


へー、って思ったけど研究に使ったやつって俺のじゃないのかな?俺が精子バンクに来た時、小林さんは俺の物を持って行った。多分使ったのは俺のやつじゃないかと何となく想像が着いてしまった。


まぁでもどんな発見かは分からないけど世紀の大発見!!ってなってるんだからすごい発見をしたんだな、すごいな。それに俺のやつが小林さんの研究に貢献してるってこともなんだか嬉しかった。


「私が発見したのは、男性から排出された精子が直接卵巣に到達した場合、妊娠の確率が上がるということです!それに若い男性の精子だと男の子が生まれる確率も少しだけ上がります!」


小林さんは興奮したように言った。報道陣もカメラのシャッターが激しくなる。


へーすごいな……………………ん?それってものすごい発言じゃん。


だから俺が直接……すれば子供が生まれる確率が上がるって事だろう。それに若ければ若いほど男の子が生まれやすくなると言う。


すごく嬉しかったが少し考えてみると少し嫌なことを考えてしまった。


こんなの放送したらこれを見た全ての女の子が男性を狙っちゃうんじゃないのかな!?今も男性が枯渇してるっていうのに、更に男性を求める女性が増えるってことだろ!?それって相当やばいんじゃないの?と。


「世紀の大発見をした小林さんには国民栄誉賞を与えられるとのことです!」


アナウンサーの人が喋る。


すごいな小林さんは……初めて精子バンクに来た時も研究は頑張っていた。その積み重なった研究の成果がやっと出たんだな。


これから俺や他の男は大変になるかもしれないけどすごいと思った。やばいことに貢献したんだな俺は………


そこから小林さんは解説を始めた。俺は静かにそれを聞いていたのだった。


朝ご飯どころではなかった。


☆☆☆


「おはよう雫。」

「……おはよう優馬。」


いつもと同じところで雫は待っていた。だけど今日は少しだけ様子がおかしかった。よそよそしいというか……なんだろうね?


「……優馬。」

「ん?どうしたの。」

「……今日テレビ見た?」

「うん。見たよ。会見のやつでしょ。」


あぁ、雫も見たのか………


「……私はまだ先でいいと思ってるからね。優馬の好きな時でいいけどその時はしっかり言ってね。心の準備とかもあるから………」


雫は変なことを言った。珍しい。


「ん、どういうこと?」

「……っ、自分で察して。」


何が先なんだろうか?全くわからなかったけどまぁいいか。雫がそんなこと考えているはずないもんね。


「……今日は休んだ方がいいんじゃないの?」

「え?なんで。」

「……だって学校の生徒は多分、会見のこと知ってると思うけど?あれを見た女子は多分優馬にもっともっとちょっかいを出してくるかもしれないよ。」

「いやいや、大丈夫だと思うよ。それにテストも近いんだし皆それどころじゃないでしょ。今回のテストは難しいって聞いたよ。」

「……そう言うんだったら別にいいけど、危なくなったら1人で抱え込まないで私にも頼ってね。私は一応………優馬の婚約者なんだからね。」


雫は恥じらいながら言った。その仕草はすごく可愛かった。


「ありがとう、でも大丈夫だよ。心配してくれてありがとうな。」


俺は雫の頭を撫でた。水色のサラサラな髪だ。すごく触り心地が良かった。


「……っっ。」


雫は黙って下を向いていた。何も言われなかったのでしばらく撫でていた。


雫の言っていた俺にちょっかいを書ける……か、大丈夫でしょ、だって学校の生徒である雫も俺にちょっかいをかけていないんだからね。


☆☆☆


「「「「「「「優馬君っ!!!!!」」」」」」」


どうしてこうなったんだろう……


やっぱりあの会見が原因だよな……そりゃあそうだよな。雫の言う通りだった。


朝、雫と登校した時から女の子達の様子はおかしかった。顔は赤く、呼吸も荒かった。そして俺と目が合った瞬間に俺の事を求めて襲ってきたのだ。


突然の事で全く反応が出来なかった俺、


「……優馬危ないっ!」


瞬時に雫が囮になってくれたおかげで何とか捕まることは無かった。その場を逃げきれた俺は校舎内をひたすら走っていた。


すまない雫、後で必ず助けるから。


女の子達は俺のことを発見したらその子も仲間となるのでどんどん俺を狙う女の子が増殖している。


どうすればいいんだっ!まるで女の子達は発情期みたいだ。今まで抑えていた俺への感情を爆発させているのか!?その影響かいつもより身体能力がすごいんだけど………


逃げきれないっ!

今の女の子はまさに野生の獣。草食動物である俺は逃げることは出来ない………か。


いくら足が早いと言っても逃走者は1名、大人数で狙われたら逃げ切れるわけが無い。


囲まれた俺は一斉に女の子から飛びつかれたのだった。そこからは………ちょっかいをかけられた。


全く……女にとっては最高の会見だけど、男にとっては嬉しいけど最悪な会見だったな。


俺は1人でそんなことを思ったのだった。


その後………先生方に俺は助けてもらった。貞操はもちろん守ったからね。ギリギリだったけど……






その会見は今後大きく物語が動き出す前触れに過ぎなかった。もちろん優馬は知る由もない。

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