第64話 BBQは思ったより個性が出る


俺はすぐに自室に戻りシャワーを浴びて、冷え切った体を温めた。


「ふぅ……かなり寒かった。風邪とか引かないといいけど。」


そんな事を呟きながら替えの服に着替えた俺は、まだ少し悪寒がするのを我慢しながら皆の元に戻った。


どうやら下のエントランスで待ってくれていたらしく、同じ班の葵と夜依がそこには居た。


「大丈夫でしたか優馬くん?」

「うん、大丈夫。心配かけてごめんね。」

「そうでしたか、良かったです!!」


葵は俺に気付くとすぐに俺の元へ駆け寄って来た。そうして少し話をした後に、ふぅと肩を撫で下ろしたようだ。


「…………それと、夜依もホッカイロありがとう。これがなかったかなりやばかったよ。」

「それは良かったですね。」


葵にも感謝をしつつ、夜依にも感謝をしてみたけど……夜依はいつもと変わらずに真顔で頷く。


──だけど、


「そんなこと言って……夜依さん、すごく心配そうな顔してたんですよ!!」

「ちょっ……っ!?な、葵さん!?」


冷静を装っていた夜依だったが……葵の告白により、全てが台無しになった。


「え、そうなの?」


夜依が俺の心配を!?

なんだがすごく意外?のような……でも嬉しかった。


「いいえ、そんな事ある訳が無いじゃないですか。葵さんの言った事は、全てが誤情報です。断じて私は心配なんてしていません。」


顔を真っ赤にしながらも夜依は否定だと強調するが……そんな感じだったら本当にしか見えないぞ?


珍しく取り乱す夜依の姿はなんだが新鮮で、夜依の人間味を見れた。


「こ、こんな話はどうでもいいですから!早くテントに戻りましょう。」


もう少し夜依の話を深堀したかったけれど、夜依から強制的に話を区切られたので、しょうがなく俺達は移動する事にした。


☆☆☆


テントに3人で戻った俺達は、雫達がBBQの準備をしている事に気が付いた。


「……随分と遅かったわね。」

「あはは、まぁ色々とあってね。」

「……詳しい事は後で聞かせてもらうけど。」

「了解了解。」


雫と軽く会話を弾ませた後、次のイベントの作業をする雫達を見て俺は疑問に思った事を聞いてみる。


「所で……もう“BBQ”の準備始めてるの?まだ昼食を食べてないし、流石に早くないか?」

「……え、私達ならもう食べたけど?もしかして優馬達はまだ食べてないの?」

「え……あ、えぇ!?」


どうやら話を聞いてみるに、雫達は俺達が仕事をしている(自由時間の)時に班ごとに配られた昼食を既に食べていたようで、俺達は仕事がさっきまであったために昼食があやふやになってしまったようだった。


「じゃあ、どうする?今からでも食べる?」


俺は後ろを振り向き、葵と夜依に聞いてみる。

……多分取りに行けば昼食はギリギリ食べられると思う。だけど、この時間帯は丁度微妙な具合だ。


「もう食べなくていいんじゃないですか?」

「私もそれには同感です。」

「うーん、分かった。じゃあそうしようか。」


3人の意見は案外早くにまとまり、昼食は食べない事にした。まぁ、だよね。だって今回のBBQにはいい肉を仕入れているらしく、それを敢えて食べられなくする必要は無いからね。


そうと決まれば俺達はBBQの準備の手伝いに参加した。


BBQは準備が一番大切だ。ちゃんと火を焚かないとまともに肉が焼けず、美味しい肉も美味しくなくなる。だから準備の工程を大切に行う。


昨日拾ってきた薪を使い、火の用意を俺達は行った。




──それから1時間後ぐらい……かな?中々火がつかなくて苦労したけど、皆と協力して何とか火をつけた。


かなりの体力を火起こしに使ってしまったけど、これでほぼほぼ準備は完了だ。


後は焼くだけ……空腹もかなり限界だ。


既に太陽は落ち始め、火が夜の暗闇に馴染み始めた頃。ようやくBBQスタートだ。


皆墨や塵まみれになって汚れた手で、配られた缶ジュースで乾杯をした。


これこそ“青春”という感じがして、とても良い高揚感に浸れた。


早速、肉と野菜を焼き始めると……肉の香ばしい香りが俺達を包む。


最高に楽しいイベントが開始される……そう俺は思っていた。


──だが、ここから壮絶な戦いが開始されるだった。




「──ちょっと待って下さい、春香さん!まだ肉が焼けてないですよ!」

「んー?いいんだよ♪私はレアが好きなの♪」

「全然まだだと思いますけど……?」


超レア好きの春香。いや、短気なのか?だが取り敢えずレアな肉をバンバン口に放り込む。


注意もしつつ、心配そうに見守る夜依。




「──雫さん!?」

「……どうしたの、夜依さん?」

「あなたのその焼いている肉……かなり焦げてますけど?」

「……え?別に普通ぐらいじゃない?」

「え?普通に焼きすぎじゃないですか?」

「……私的にはこれぐらいが丁度いいの!」

「そう、なんですか……?」


焦げが好きな雫。カリカリに黒くなった肉を適当に食べる。


そんな雫をため息混じりで見守る夜依。




「そろそろ食べ頃ですか……」

「──ちょ、ちょっと待って下さい!!」


夜依が十分に焼けた肉を取ろうとした瞬間に、葵によって阻止された。


「ん、どうしてですか?既に食べれる程、焼けた肉だと思いますが?」

「いいえ、まだです。まだ、その肉の1番ベストな焼き具合に至ってないんです。もう少し待って下さい!!」

「っ!?もう、任せます。」


完璧を求める葵。だから任された肉は最高の状態まで触れさせてもくれない。


もう既に疲れた夜依は、焼く役目を放棄し葵に任せた。




そんな夜依は特殊で個性的な食べ方をする3人(春香と雫)にお手上げ状態であった。


俺も少し離れた所で夜依の事を観察してたけど……ご了承様です。


そんなBBQは葵が中心になって肉を焼き、皆は順調に腹を満たして行った。


──でも、まだ壮絶な戦いは終わらない。


「あ、そうっす!調味料使って下さいっすよ。沢山貰って来ましたっすから。」


それは菜月の“調味料”の話をした時から始まった。


調味料は全部で8種類。

焼肉のタレ(甘口)、焼肉のタレ(辛口)、砂糖、醤油、マヨネーズ、塩コショウ、ソース、ケチャップ……だ。


「……塩コショウ取って由香子。」

「ん~~無難だね~~私は辛いの好きだから、焼肉のタレ(辛口)かな~~」

「えーっと、私は確定でマヨネーズかな♪これがいっちばん美味しいんだよね♪」

「え?焼肉のタレ(甘口)じゃないんっすか?」

「わ、私はソースです!!」

「絶対に砂糖です。」


雫は塩コショウ、由香子は焼肉のタレ(辛口)、春香はマヨネーズ、菜月は焼肉のタレ(甘口)、葵はソース、夜依は砂糖……と、皆それぞれ焼肉に付ける調味料が違った。


「え、なんでマヨネーズじゃないの♪絶対にマヨネーズがいいよ♪」

「いや、絶対にソースですよ!!」

「……無難な塩コショウが一番いい。美味しいし。」

「それはしょっぱ過ぎます。甘くした方がいいです。」

「焼肉にはタレっすよ!」

「辛いのいいよ~~」


ふむふむ……初めてのBBQだから分からない事なのだけど、BBQって思ったより個性が出るんだな。


そんな事を思う俺なんて、つゆ知らずに怒涛の調味料についての話し合いが開始された。


だが調味料とは好み。単純な話し合いでは永遠に勝敗なんて着かないことなんて分かりきっている事だった。


だが──

たった一つだけ、彼女達全員が納得の行く勝敗の着け方があった。それは……


「じゃあ、優馬君が一番好きな調味料を勝利にしようよ♪」


それは俺に全てを任せるという……なんとも大胆で分かりやすい方法だった。


「それでいいです!!」

「うん。賛成~~」

「意義はありません。」

「……いいよ。」

「OKっす!!」


おいおいっ!?皆なんでOKなんだよ?俺の好みが勝者になっていいのかよ!?


「皆賛成だね。じゃあ優馬君、後はお願いね♪」

「え………」


勝手に任されても正直困る。だけど……皆の期待の目線が俺の頭の中の“否定”という2文字を焼却した。


多少の疑問を抱きつつ、しょうがなく俺は目の前に並べられた調味料達を見比べる。


「俺は………」


まぁ、皆には悪いけど。俺は揺るぎない。

好きな食べ方を高々に宣言する。


「──俺は肉本来の味が好きだから、あんまり調味料は使わないかな。」

「「「「「「え………」」」」」」


皆、予報外の答えに絶句。

提示された6種類の調味料、だが俺は提示以外の第7の選択肢を選んだ。


「そ、そうなんだ……っていう事で、各個人で好きな味を楽しもう……ね♪」

「……ええ。」

「了解っす。」

「わかったよ~~」

「そうしましょう。」

「絶対にそうするべきですね!!」


アイコンタクトで理解し合った皆は同一の結論を出した。


俺の宣言で一気に冷めた場だったが……まぁ、これでいいのだ。皆の共感率を高める事が出来たのだから。


皆は自分の好きな調味料でそれぞれで食べ始めた。


皆が満面の笑みを浮かべる中、俺も肉を食べた。もちろん美味しかった。


だけど、それほど俺は肉を食べられなかった。皆の食べるペースが早かった、というのもあるけど……何でだろうか?すごくお腹が減ってたような気もしたんだけどなぁ……?


まぁ、そんなこんなでBBQは終わった。

皆の好みを知れたので結果オーライだ。

べ、別に変に思われても構わない。だって俺が好きな食べ方なんだからな。

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