第150話 幼児期の薫は…

「わあ、かおる君が小さいです!」

デイモンと薫の子供時代のアルバムを見ている。


デイモンが生まれてから23年、かおるが生まれてから20年。

フェンリル族のデイモンは成長が遅く、23歳ではなくまだ14歳だが、5歳くらいまでは普通の成長速度だった。

エマと出会った3歳からエマが眠る7歳まで、エマとデイモンの間で成長の違いは感じなかった。エマが小さく子供っぽかったせいだろう。しかしかおるはぐんぐん成長したので、途中から双子のようになり、兄弟が逆転するようになった。

しかし大部分の写真はかおると愛犬の2ショットのようだ。

「人型を取るよりもフェンリルでいるほうが楽だったんですよ。」

ピンク色の舌を垂らし、ニコニコのダモフェンリルが回想する。


「小さいころのダモは可愛かったですねえ。」

「僕は今もかわいいです!」

「…。」

デイモンの自画自賛をスルーするエマ。そんなエマを鼻先でつつくデイモン。

「ねえ、ダモ?」

「なんですか?」

「子供のころのダモの写真、怪我してばっかりですね。」

かおるに比べデイモンがボロボロな写真が多い。

大人たちが、「あーそれはー…」という空気になる。


「天界に遊びに来た時も怪我していることが多かったですし…。」

会うなりズタボロなデイモンに慌てて治癒魔法を掛けたものだ。

そんなデイモンをみたテオが『魔界ランドから天界への道中は危険が多そうなので、絶対にこちらから出かけないように!』とエマに言い聞かせたものだ。


かおるだよ。」

ひかるの一言にカールとダイアナが凍り付く。しかしひかるは気にしない。

「僕がどうかした?」

かおるは覚えていないのかい?」

「何を?」

「ほら、小さな頃のかおるむらさきちゃんに似てやんちゃだったから、一番近くにいたデイモンに殴る蹴るの暴行を毎日繰り返していただろう。」

「嘘っ…。」

「嘘じゃないさ、本当に覚えていないのかい?」

青い顔で俯くかおる

「デイモンは大型犬らしく、我慢強くかおるの子守をしていたけど、かおるが成長して力が強くなる前にデイモンと離して、早めにかおるを教育した方がいいって兄さんたちが僕らを説得したんだよ。随分悩んだけど…あの時、決断して良かったよ。僕らと離れて暮らす事になっても、小さなデイモンがあまり淋しそうじゃないどころか、エマちゃんの側で暮らせるって浮かれていたのは親として複雑だったけど。」

息子のデイモンは大型犬じゃなくてフェンリルだし光はお口がツルツル滑り過ぎだが本人はマイペースだ。

かおるがこんなにいい子になるなんて…とひかるかおるを眩しそうに眺める。


「じいちゃん?」

――― すいー。

冷や汗だらだらのカールが視線をそらす。

「ばあちゃん?」

――― すいー。

冷や汗だらだらのダイアナが視線をそらす。


「つまり…義姉さんのために家を出たのではなくて、僕のせいだったの?」

「か、かおたん…。」

「かおたんが良い子に成長して嬉しいわ!」

汗だらだらのカールとダイアナがフォローになっていないフォローをする。


「僕は野性味あふれる淫魔族って魅力的だと思うんだけど、デイモンが限界だったからね。どう育ってもかおるは可愛いよ。」


落ち込むかおるをダモフェンリルとエマが必死で慰めた。

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