第105話 嵐の前の静けさ

たちばなの顔だちは性別を超越したような不思議な美しさで、体つきも華奢なため、外見から男性と見抜かれることはほとんどない。

天狐族の民族衣装も、他種族からは性別不明に見える。

そのため初対面で女性に間違えられることがほとんどだ。

・・・・・にも関わらず、一目でたちばなを美少年と見抜いた弥生のBL好きは本物だ。


というか魔界ランドでは異性愛も同性愛も普通過ぎてBLというジャンルが存在しない。恋愛ものはすべて恋愛もので、ラブコメはすべてラブコメだ。

BLに特化したオタ活をしたい弥生たちが日本で活動する理由でもある。


———————— ふふんふん♪ 腐腐ふふん♪ 今日は夜勤でエマちゃん担当♪明日の朝、引継ぎが終わったら夜勤の代休で三連休!この三連休で同人誌に取り掛かれば冬のコミケは余裕よね!Let'sオタ活!!


夜勤の待機時間は創作活動にあてた。

特に業務はないので、他の夜勤担当も本を読んだりDVDを観たり自由に過ごしている。何か起こったことはないが、何か起こった時にすぐに動ければ、何をしても良いのだ。

「おっはようエマちゃん!」

夜勤の時間を有意義に過ごした弥生が、ご機嫌でエマを起こしにきた。

「今日はポニーテールにしようか?」

エマの巻き毛でポニーテールを作るのは大変だが、ご機嫌な弥生に不可能はない。

「ありがとう、弥生ちゃん。」

「ふふ、どういたしまして。可愛いわねえ!」

似合うわ~とご機嫌だ。

「ねえ弥生ちゃん?」

「なあに?」

「地獄で弥生ちゃんのお友達に会いました!」

春麗チュン・リーね!聞いているわ。エマちゃんも私の心配をしてくれてたって、心配させちゃってごめんね。少し忙しくて痩せちゃった時期だったの。今は気力も充分だから!」

「よかったです!」


きゅ!

「もしも気分が悪くなったらエンマに言ってくださいね。」

弥生の手をきゅっと握って伝える。

天使族なら誰でも使える治癒魔法は、魔界ランドではレアな魔法だった。

「ありがとう。」

幼いエマのやさしさに、ほっこりした。

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