第93話 ダイアナの故郷の味

ぐずるカールフェンリルをデイモン達に丸投げし、ダイアナが里帰りした。

「じいじ!」

心配顔のエマがカールフェンリルに駆け寄る

「ヒール!」

治癒魔法でカールフェンリルの貧血を治療する。

「おじいちゃん・・・。」

ジジ&マリーも心配そうに寄り添う。

「・・・ありがとう。」

元気はないが穏やかなお顔で感謝を伝える。


「元気になって何よりです。」

「さ、仕事仕事。」

「デイモンも行きますよ。」


モテないトリオにより執務室へ連行されてゆくデイモンとカールフェンリルを、心配顔のエマとジジ&マリーが見送る。


ジジがつぶやいた。

「血も涙もないんだぜ・・・。」



その頃、転移ゲートを利用して吸血鬼の故郷、「ストロガノフの里」に帰ったダイアナは・・・


「相変わらずキレイねえ!」

青いドームが美しい至聖三者大聖堂(しせいさんしゃだいせいどう)を見上げる。

「あとで血の上の救世主教会にも寄りましょ、エルミタージュ美術館も行っておかないと…!」

玉ねぎ屋根が可愛い教会と水色と金と白の優美な組み合わせが美しい美術館の建物はダイアナのお気に入りなのだ。跳ね橋を楽しむために運河のクルージングも申し込み済だ。


――――――― カールが厳しく監督されながら働いている頃、ダイアナは観光気分でご機嫌だった。



「おかえり、姉さん。今年も手伝いに来てくれてありがとう。」

「ただいま、ブラム。」

ダイアナの弟、エイブラハムは家族からブラムと呼ばれている。

ブラムは結婚にこだわらず人生を楽しむ派だ。そのため冬支度など人手が必要な時にはダイアナたち一族が里帰りする。仲の良い一族なため冬支度を口実に集まっているともいえる。

「モルスをどうぞ。」

「ありがとう・・・久しぶりに飲むと、なおさら美味しいわねえ!」

モルスはリンゴンベリなどのベリー類を発酵させて作るジュースだ。


モルスを飲みながら、冬支度の進め方を相談する。もちろん滞在中に食べたいものについても漏らさず伝える。

――――――― 唄子さんのごはんも美味しいけど、やっぱり故郷の味も好きなのよね。

これでもか!とマヨネーズやチーズ、ビーツなどを多用するのがダイアナの故郷の味だ。寒い冬に食べると特に美味しく感じる。

「ブラム、今日はビーフストロガノフにしてね!付け合わせはカーシャがいいわ。」

「そのつもりで準備してあるよ、今日は白いので良い?」

「ええ!赤いのは今度ね。」

ダイアナの故郷はビーフストロガノフ発祥の地で、赤いビーフストロガノフと白いビーフストロガノフ、どちらも人気だ。


カーシャは、この地方一帯で一般的な蕎麦の実のお粥でダイアナの好物だが、唄子さんや婿のヒカルには不評だ。

蕎麦の実や米や麦を大量のバターや砂糖、ミルクと共に煮込んだお粥…と伝えただけで般若のような顔をされ、ダイアナがカーシャを食べる同じ食卓で二人は“ざるそば“を啜っていた。


「カーシャも美味しいのにねえ。」

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