第88話 フギンとムニンが取り持つ縁

フギンとムニンの取り持ちにより、たちばなとデートできることになったアシュタロト。

あの二羽が何をどうしたのか詳しいことは分からないが

「取り持ってやったぞ!」

「鳥だけにな!」

とドヤ顔だった。


「あ!」

「どうした?」

たちばなの家まで迎えにきたが、家をでたところで橘が何かに気づき声をあげた。

「いや、いいんだ。ちょっとアクセサリーを忘れただけ。」

「着けてくるといい、俺はここで待っている。」

「いいよ、待たせちゃうし。」

「かまわん。それを着けているのと、着けていないのでは、橘の気持ちが違うのだろう。嬉しそうなたちばなと一緒に過ごせるのならいくらでも待てる。」


———————  きゅん!

なにこれ!なにこれ!なにこれー!(たちばなの心の声)


「じゃ、じゃあ、少し待ってて。」

「急がなくていい。」


———————  待たせちゃうのに問題じゃないって顔。

全然無理していなさそう。

とっても自然にこういうこと言えちゃうし、してくれちゃうんだ。


「・・・お待たせ。」

「似合うな。」

朱色の耳輪やネックレスを着けて現れたたちばなに、こんなことをサラリと言えちゃうアシュタロトは内面イケメンだ。

「・・・ありがと。」

本物のイケメンである橘のペースが乱れっ放しだ。


たちばな一家は生れたばかりの妖狐の世話で忙しい。たちばなも気晴らしはしたいが、長時間の外出は不可能だ。

そんな中、フギンとムニンの取り持ちにより、近頃話題のタピオカミルクティを飲みに出掛けることになった。

子育ての苦労話の聞き役になるのだ。

流行に疎いアシュタロトだったが、フギンとムニンが人気のお店情報まで教えてくれた。

街で一番人気のタピオカミルクティのスタンドに着いた。


———————  超行列だった。


「すっごい人気なんだね、まさかこんなに並んでいるとは思わなかったな。」

たちばな。」

「あ、うん。大丈夫!どうしても飲んでみたいわけじゃないんだ。ちょっと気になっていただけだから!」

女子だらけの行列にアシュタロトを並ばせる訳にはいかない。

「この店じゃなくてもいいか?」

「もちろん!僕は少し外出したかっただけなんだ。」

「この近くに同じものを飲ませる店があって、そこはテーブル席もあるし、行列でもないと聞いた。行ってみるか?」

「うん!」

———————  なにこのイケメン!(たちばなの心の声)



ガラガラガラ!

「へい、らっしゃい!」


どんっ!

「へい!お待ち!タピオカミルクティ一丁と豚肉と油揚げの中華炒め一丁!」


アシュタロトが橘をエスコートしてやってきたのは、街の中華食堂だった。

「疲労回復には、脂質をエネルギーに変えるビタミンB群を豊富に含む豚肉を摂取するといいらしいぞ。それに油揚げは好物だっただろう?」

「・・・うん、美味しいよ。ありがとう、アシュタロトさん。」

少し前のテンション!アゲ!アゲ!だった心の声とは打って変わって、とても穏やかな声で答える。


ビール会社のロゴ入りビールジョッキで提供された“映えない”タピオカミルクティと、大蒜のかおりが食欲をそそる炒め物を美味しく完食した。

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