第47話 勇者がやってきた
「ゆうしゃって何ですか?」
「勇者じゃよ、エマちゃん。」
「人間界から定期的に派遣されてくるんですよ。」
「約300年ぶりですね。」
「訪問の名目は“打倒魔王”ということらしいです。」
カールとモテないトリオの説明に青くなるエマ。
「じいじ!じいじは隠れていてください!」
勇者に会っちゃダメ!とカールにしがみつく。
「うほほ、大丈夫じゃよ。」
デレ顔でエマの頭を撫でるカール。
「実質、ただの観光客ですよ。」
「企業の研修旅行と同じですね。」
「内容は観光と宴会ですよ。」
モテないトリオも動じていないがエマは心配だ。
「それに勇者を召喚するのはエマちゃんの国じゃぞ。」
エマの目がまん丸く開かれる。
「そうそう、天界で召喚されて、そのまま転移ゲートで魔界を訪問されます。勇者さんもお疲れでしょうから簡単な歓迎式典後に天界の使者の方を含めた少人数で歓迎会を予定しています。」
「翌日からは、勇者さんのご希望に応じた観光をお楽しみいただき、約1週間後に帰還いただいています。」
「毎回、こんな感じですよ。」
エマの、戦わないの?という質問は笑顔で却下された。本当に遊びにくるだけらしい。
そして勇者がやってきた。
「ようこそ勇者殿、魔界での観光を楽しまれよ。」
フェンリル耳と尻尾付きのカールがニコニコ顔で勇者と握手した。
以上で歓迎式典は終了。
「あのー、なんか俺一人のためにこんなに歓迎してもらっちゃって本当すみません。」
ペコリ。勇者が頭を下げた。
「300年ぶりの勇者ですからな、みな楽しみにしていたのですよ。それにしても観光はよろしいのか?」
今回の勇者は観光を希望しなかった。皆さんと普通の生活をしたいということでカール一家にホームステイすることになったのだ。
「はい!またとない機会なので皆さんと交流したいなって!」
勇者が爽やかに笑った。
「では家族を紹介しよう、こちらが愛する妻のダイちゃん。」
「吸血鬼族のダイアナです、よろしく。」
「初めまして!鈴木広治です。日本の大学生です。教育学部の3年生で、将来は学校の先生を目指しています。スポーツは小学校から剣道を始めて、大学でも剣道部に所属しています。」
勇者は超爽やかな好青年だった。点数をつけるなら100点満点だ。
「こちらが孫のモンたん。」
「デイモンです、おじい様の秘書見習いをしています。特技は手芸全般です。」
「初めまして、鈴木広治です。広治と呼んでください、手芸が得意だなんてすごいな、器用なんだね。」
勇者が笑うと白い歯がキラリと光る。
「天使族のエマちゃん。」
「エンマです、魔女の館でお勉強しています。」
「初めまして、僕のことは広治と呼んでくれたら嬉しいな。魔女の館というのは魔界の学校なのかな?僕は将来、学校の先生を目指しているんだ、ぜひお話しを聞かせてほしいな。」
「それなら明日、見学するかの?」
「よろしいのですか?!」
その場で手配が整い、明日は魔女の館を見学することになった。勇者が嬉しそうだ。観光よりも教育実習が嬉しいらしい。
「よろしくね。」
「はい、あの・・・エンマ、ちょっと行ってきます!」
紹介中からずっとソワソワしていたエマが駆け出した。
どすっ!
「アポロさま!」
エマがアポロに飛びついた。
「・・・・・エマッ!」
アポロがエマを抱き上げる。
「あのね、アポロ様に会いたかったのです。あの時エンマ、飛びついちゃってごめんなさい。」
エマが悲しそうに謝罪する。
あの時とは、アポロとルシファーの別れ話がもつれて揉めていた時、怒り狂って電撃を纏ったアポロの目の前に飛び出したことだ。
エマはアポロの電撃に当たって17年も眠ることになったのだ。
「エマ、エマは悪くない。感情のままにルシファーに怒りをぶつけようとした俺が全面的に悪い。エマはルシファーを守ろうとしたのだろう?偉かったな。・・・・・そのために何年も眠ることになってしまい本当に悪いことをしたと反省している。あれ以降、あまり喧嘩はしていない。
・・・・・頻繁にはしていない・・・。」
「あのね、喧嘩したり怒りすぎたりしちゃうと、後で後悔して気持ちが真っ暗になるの。気持ちが真っ暗になると、とっても悲しいの。エンマ、アポロ様に悲しい思いをしてほしくないです。」
きゅん。
アポロがエマを抱きしめる。
「・・・・・では帰ろうな。よっこらしょっと。」
アポロがエマを抱いたまま転移ゲートを潜ろうとした時…
バクッ!
デイモンがアポロの足に噛みついた。
「いてて、分かったよ。エマは連れて行かない。」
アポロがエマを降ろす。
「会えてよかった。エマがとても可愛がられていると聞いてはいたが、自分の目で確かめたかったのだ。大切にされていると分かって良かった。残念だが一人で帰るとしよう。」
気のすむまでエマの頭を撫でたアポロが転移ゲートから天界に帰還した。
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