第247話 デートの約束

 

「さすがハルトだな。補助魔法や身体強化魔法を使った上級生たちを相手にして、魔力の放出を一切せずに勝つとは」


「まぁ、このくらいならね」


 エルミアの生徒十七人全員を、叩きのめした。

 魔衣や魔法、覇国を使ってないので、一番酷い怪我をしている生徒で、骨折くらいだ。


 既にセイラが、生徒たちの回復をし始めている。



 一対十七だったとはいえ、エルミアの生徒たちの実力はたいしたことなかった。


 このくらいなら、エルミアひとりを相手している方がまだ苦戦する。


 ただ、連携はけっこう上手かったと思う。


 全員が魔法使い系の職業なのだから、剣術のスキルが低くても仕方ない。それを補うために、彼らは連携を強化していたようだ。


 エルミアに一撃いれて、食事に付き合ってもらうためなら、それでいいかもしれない。


 だけど、魔法学園に通う俺たちが剣術を学ぶのは、敵に接近された時に備えるためだ。


 いつも連携がとれる仲間がそばにいるとは限らないので、個のスキルをもっと伸ばすべきではないかなと思った。


 ま、その辺はエルミアならわかってるだろ。



「ところでハルト、お前が勝ったわけだけど、その……ご褒美、いる?」


「えっ?」


 そんな約束、してたっけ?


 エルミアの生徒が俺に勝ったら、彼女とのデートがご褒美だった。


 でも、俺が勝ったらなにかするとかは、決めてなかったはずだ。


 もちろん、エルミアがなにかしてくれるなら嬉しい。ご褒美って、なにがもらえるのかな?


 ちょっと楽しみ!


「いらないなら、その……なしでも、いいんだけど」


「いる! ご褒美、欲しいです!! 俺が勝ったので、ご褒美ください。エルミア教官!」


「そ、そうか、ほしいか!」


 エルミアの表情が明るくなった。


「それで、なにしてくれるの?」


「その……ハルトが行きたいお店で、食事に付き合う──とか、どうだろう?」


 なるほど、エルミアの生徒が勝った場合と同じってことですね。


 ……なるほど。

 つまりご褒美は、エルミアとデートか。


 うん。いいじゃん。


「エルミア教官、それは俺とふたりでってことでありますか?」


 ちょっとふざけた口調で聞いてみた。


「えっと、できればセイラも一緒に──」

「えっ、わたしもいいの?」


 生徒たちの回復を終え、俺の少し後ろに立っていたセイラから驚きの声が上がった。


「エルミアがくれるご褒美だから、エルミアがいいって言うなら、俺はセイラが一緒でもいいよ」


「わ、私は、セイラと一緒がいい」


「そうですか……では、ハルト様。わたしもご一緒させていただきますね」


「うん、よろしくね」


「それで、ハルトの行きたいお店は、どんなところなんだ?」


 あー、そっか。行き先も俺が決めるのか。


 てか、エルミアのご褒美って、食事に付き合うことだから、食事の代金も俺が支払うのかな?


 食事代くらい、別にいいけど。



 てことは、ふつうに俺がエルミアとセイラを誘って食事デートに行くのとなんら変わりはないのではなかろうか?


「…………」


 ま、まぁ、普段デートに誘ってくれないエルミアが、きっかけを作ろうとしてくれただけでも、進歩だと思うことにしよう。



「中央街に最近できたケーキ屋さんがあるんだけど、そことかどうかな?」


「シフォンケーキが有名な、あの店か!?」

「女の子たちの間で、すっごく話題になってるお店ですね!」


 ふたりとも、その店のことを知ってるみたい。


「そう! 最近オープンして、ケーキ買うために予約必須のあのお店の特別優待券が、ここにある」


 セイラとエルミアに、チケットを見せつける。


 凄い勢いで、ふたりに奪い取られた。


「こ、これは──」

「う、嘘……次に予約取れるの、わたしは一ヶ月後って言われたのに」


 お店で食べる分も、持ち帰る分も、一ヶ月後まで予約済みらしい。


 そんな超人気店で、いつでもケーキを注文して作ってもらえるという特別優待券を、俺が持っていた。



 そのお店、H&T商会が出店してるからだ。

 開店記念だと言って店長が直接、俺の所へ特別優待券を持ってきてくれた。


 ちなみに、一番人気のシフォンケーキのレシピは、ティナが作り上げたもの。


 ティナに頼めば、お店まで行かなくても店で出される以上に美味いケーキを食べられるのだけど……。


 でも、オシャレなお店で食べるのも、なかなかいいよね!


 セイラとエルミアとの、デートなわけだし。



「どうかな、このお店は……ダメ?」


「ダメじゃない! ここがいい!!」

「ハルト様、わたしもここに行きたいです!」


 ふたりがそう言いながら、優待チケットを俺に向けて突き出してきた。


 よし、サクッと目的地が決定したな。


「おっけー。ちなみに、行くのは今日でいい?」


 俺は今日、この後の予定が特にないからな。

 もしふたりの都合が良ければ、今日行きたい。


 既に何回かそのお店に足を運んでいるのだけど、超人気店にもかかわらず食事スペースは、とても落ち着いた雰囲気のカフェになっていて、俺の最近のお気に入りのお店でもあった。


「私はこの後、訓練はないからいけるぞ」

「わたしもです。救護所は既に、閉めてきましたから」


 ふたりとも、問題なさそうだ。


「それじゃ、一回屋敷に帰って着替えてから行こうか。デートだから、中央街の噴水広場集合にしようか」


「わ、わかった」

「はい! えへへ、ハルト様とのデート……楽しみです」


 待ち合わせ時間を決め、一旦解散した。



 さて、せっかくのデートなので、ふたりに楽しんでもらえるよう、頑張りますか!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る