第243話 新たな仲間たち

 

 七月、俺たちのクラスに、ふたりの転入生がやってきた。


 ハイエルフのリエルと、人族のヒナタだ。


 リエルはルークの奥さんで、ヒナタはリューシンの彼女。


 リューシンにとってヒナタは、初めてできた彼女らしい。


 そんで俺の親友ルークが結婚したのだから、四人を俺の屋敷に招いて、全力でお祝いした。


 お祝いとして、リエルとヒナタが魔法学園に入れるように色々手を回した。


 ふたりともルークやリューシンと、一緒にいたいと希望していたから。



 イフルス魔法学園は本来、途中入学を認めていない。


 例外があるとすれば、並外れた魔法の才能があり、学園長が特別に入学を認めた場合か──


 裏工作が行われた場合。



 俺は、


 まず俺名義で、H&T商会から多額の寄付金を学園に提供した。税金対策にもなるらしく、商会の経理部が進んで対応してくれた。


 次いで、ルアーノ学園長と古くからの知り合いだという星霊王に、学園長との交渉を頼んだ。


 更に正規の入学試験も突破できるくらい、リエルとヒナタの魔法センスを高めることにした。


 リエルはアルヘイムエルフの王国の王族で、しかも風の精霊王シルフの加護をもっていたので、魔法を使う技術に関しては全く問題なかった。


 苦労したのはヒナタの方だ。

 彼女は、良くも悪くも凡人だった。


 精霊や神の加護を持っているわけでもなければ、魔法を使ったこともないらしい。


 魔力量は魔法学園の新入生の平均くらいはあったから、問題なく魔法は使えそうだ。


 でも、学園中の異端児をひとつにまとめたウチのクラスで、普通に魔法が使える程度の一般人ヒナタがやっていくのは大変だと思う。



 だから、学園長と交渉するために星霊王に顕現してもらった時、ヒナタに加護を付けてもらった。


 星霊王の加護のおかげで、常に精霊たちの補助が受けられるようになり、ヒナタはレベル上げを全くしていないにもかかわらず、上級魔法まで使えるようになった。


 しかし、それだけだと知識や技術が不足するので、俺とティナ、それから賢者ルアーノという布陣でヒナタに魔法教育をした。


 ついでに、ベスティエ獣人の王国にある遺跡のダンジョンを使って、彼女のレベル上げも行なった。


 その結果──



 わずか一ヶ月ほどで、ヒナタはレベル100の上級魔道士になった。


 魔力量なども、桁違いに強化されている。


 魔法学園の生徒で、普通に魔法だけで戦ってヒナタに勝てるのは、たぶんウチのクラス以外にはいないんじゃないかな。



 それからヒナタには、リューシンと喧嘩した時や、リューシンが竜化して暴走した時、彼を止めるための聖属性魔法も使えるようになってもらった。


 この訓練は、元聖女であるセイラに協力を頼んだ。


 もともとヒナタは、聖属性にも適性があったみたいだ。更に星霊王の加護の効果も加算され、魔道士でありながら、聖女見習い級の聖属性魔法も使いこなせるようになった。


 これでリューシンが暴れても、ヒナタだけで止められるだろう。


 セイラと聖属性魔法の訓練していたヒナタが、力強い光に包まれる様子を見て、リューシンが固まっていた。


「リューシン、黒竜の姿であんまり下手なことしたら……消滅させられるかもな」


「お、お前ぇ、なんてことを──」


 冗談のつもりで声をかけたのだが、彼は泣きそうな顔で俺を睨んできた。


「えっ、ご、ごめん。冗談だ」


はどう見ても、冗談じゃすまねぇだろ! 絶対、やりすぎだ!!」



「あっ、リューシン様! いらしてたのですね」


 リューシンが来ていたことに気づいたヒナタが、俺たちの方に近づいてきた。


「見てください! 私、強くなれました!!」


 光り輝くオーラを、身体の周りで自在に操ってみせるヒナタ。


 ひと月前にはただの村人だったというのが信じられないほど、魔力の扱いに長けた魔道士に成長している。


「あ、あぁ、うん……そうだね」


 俺を消せるくらいね──って、すごく小声でリューシンが呟いていた。


「えへへ、これでリューシン様を傷つけようとする輩が現れても、私がお守りできます!」


 リューシンに褒められて嬉しそうなヒナタが、笑顔で彼に抱きついた。


 戸惑いながらも、リューシンは彼女を受け止め、その頭を撫でてあげている。



 ここ一ヶ月の訓練期間は、一般人だったヒナタにとって、かなり過酷なものだったはず。


 それでも彼女は、一切弱音を吐かなかった。


 ヒナタは、この世界最強の魔物である竜になれるリューシンを、守れる存在になるつもりだった。


 最初にその意志を聞いた時、俺は訓練がかなり厳しいものになると伝えたのだけど、彼女は怯まなかった。


 そして、本当に一ヶ月でやり遂げたんだ。

 ヒナタ、スゴい。


 ふたりが抱き合ってイチャイチャしているので、俺はセイラをつれて、その場を離れることにした。



 ──***──


 セイラと一緒に歩いている途中で、ふとあることを思い出した。


 そーいえば、このイフルス魔法学園って、生徒以外はその親族も学園祭の時以外は立ち入り禁止だよな?


 セイラが、普通にここにいていいのかな?


 聖都サンクタムで悪魔を倒してから、既に二ヶ月が経過している。


 その間、セイラやエルミア、キキョウ、シトリーが新たに俺の屋敷で暮らすようになっていたけど、そのことをルアーノ学園長に相談するのを完全に忘れていた。


 あれ?


 も、もしかして──いや。もしかしなくても、無断でやっちゃってるってことだよな?


 や、やばいかも知れない……。


 そんなことを思っていたら──



「ハルト様、わたしはお仕事がありますから、ここで失礼しますね」


「えっ!? セイラ、なにか仕事してるの?」


 セイラの発言に驚いた。

 俺が全く知らないうちに、セイラが働いていた。



「えっと……はい。この学園の救護職員をやってます」

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