第191話 星霊王
「「お父様、ただいまです」」
「マイとメイか。よくぞ帰った」
ここは精霊界の中心にある精霊殿だ。
我は精霊殿の主にして、全ての精霊たちの王──星霊王だ。
そんな我の、可愛い娘たちが帰ってきた。
なんだ、帰ってくるなら事前に教えてくれればいいではないか。
マイとメイが帰ってきたことを祝って、宴でも開いたものを。
──っと、そんなことを勝手にすると、我が妻が
あまり派手にはできんが、精霊界におる精霊を全て呼び集めて、ふたりを出迎えるくらいはいいじゃろう。
だから、事前に連絡してほしかった。
ん?
なに?
そんなことするな?
そーゆーことを我がやりそうだったから、連絡せずに帰ってきた?
そ、そうか、すまぬ。
……今後もするな?
わ、わかった。
次回帰ってくる時もやらない。
で、でも、本当に出迎えはいらないのか?
我がその気になれば、精霊界におるヤツらだけじゃなく、人間界におる精霊も全て呼んで、盛大にお前たちを出迎えられ──
い、いや!
すまん。冗談だ!
そんなこと、絶対しない!
だから、マイよ。
念話で我が妻を呼ぼうとするでない!
最近、我への娘たちの態度が冷めておる。
昔は、我が大量の精霊たちを呼び集めてみせたら、ふたりとも『お父様、すごーい』とかって褒めてくれたのに……。
ちなみにそれをやった時は妻に『忙しい精霊たちを無理やり呼びつけて、いったいなにを考えているのですか!!』と、めっちゃ怒られた。
だって、娘たちにカッコいいところを見せたいじゃないか! ちょっとくらいは王の権限を使ったっていいじゃないか!!
──そんなことを妻に直訴したら、『王とは、なんたるか』を数日間に渡って熱弁されてしまった。
我が妻も、もちろん精霊なので疲れを知らない。
また、妻は元々この世界の知識を司る神様に生み出された精霊で、その知識量も凄い。
だから妻の熱弁は、本当に一秒の休みもなく数日間続けられたのだ。
それ以来、我は妻にはあまり逆らわないようにしておる。
そんな妻に頭の上がらない我だが、実は結構偉い。
この世界を治めるのは創造神様を初めとする神族だ。しかし、神々には直接人間界に手を出せないというルールがある。
そこで我々精霊が、この世界のエネルギーの源である『マナ』を、様々なエネルギーに変換するなどの役割を担っている。
マナは世界を動かす原動力だ。
この世界の住人が、もっとも身近なマナの形態のひとつが魔力。
我ら精霊が、マナを魔力というものに変換している。つまり、この世界で魔法が使えるヒトの中には必ず精霊がいるのだ。
ヒトの中だけではない。
マナを魔力に変換する精霊は、魔物の体内にある魔石の中や、龍脈という大地の下を流れる巨大なマナの河にも存在する。
龍脈にいる精霊が、この世界に魔力を満たしているのだ。
ちなみに、マナを魔力に変換する精霊に意思はない。
そして、ヒトが魔法を使う時、魔力に火や水、風、土、雷、闇、光といった属性を与えるのだが、その魔力の属性変換も我ら精霊の役割だ。
属性変換を行う精霊には、意思のない精霊と、マイやメイ、我のように意思のある精霊がおる。
我らのような意思のある精霊は、稀にヒトのと契約を結び、普通ヒトが行使できないような魔法を使ってやったりもする。
この世界は、精霊が動かしている。
そうした精霊たち全ての王。
それが我なのだ。
その気になれば、龍脈を止めて世界を崩壊させられる。
まぁ、創造神様からこの世界を任されている我が、そんなことをするはずもないが。
結論として、なにが言いたいかというと、我ってなかなか凄いってことだ。
だいたいなんだってできる。
そんな我を、娘たちが頼ってきた。
「「お父様、分身魔法ってご存知ないですか?」」
──だと。
もちろん知っておる。
我は星霊王なのだから。
この世界に存在する全ての魔法を把握している。
知っておるのだが、娘たちがなんで分身魔法に興味を持ったのか気になった。
分身魔法は本体の魔力を等分した自分を創り出す魔法だ。例えば10,000の魔力を持つヒトがひとりの分身を創り出せば、本体と分身の魔力量は5,000ずつとなる。
しかしこの魔法、発動するのに5,000程度の魔力を消費するので、本体には魔力が一切残らず、魔法を発動させた瞬間に魔力切れで死ぬ。
運良く生命エネルギーを魔力に変換するのが間に合えば、死は免れるが酷い魔力欠乏症に悩まされることだろう。
そもそも、この世界で魔力を10,000以上保有できる者など数が限られる。
そんなわけで、この魔法を使える者は滅多に現れないのだ。
だからこそ、娘たちが分身魔法に興味を持った理由が気になった。
……あっ!
そ、そういえば。
我には、分身魔法を使えるかも知れない──否、確実に使えてしまうであろう者を知っていた。
その者は我が娘マイとメイの契約者であり、星霊王である我を強制召喚するほどの魔力を持ったバケモノ。
「まさかとは思うが……お前たち、分身魔法をハルトに使わせようとは思っておらんだろうな?」
あんなバケモノが増えるなど、想像しただけで頭が痛くなる。
まぁ、その撒き散らされた魔力の大半は、彼奴のそばに居る九尾狐が回収してしまうので、なんとかなっている──というのが現状だ。
「「ハルト様に分身魔法を使っていただきたいのですけど、ダメなのですか?」」
……マジか。
娘たちが、バケモノに分身魔法を覚えさせるつもりのようだ。
「理由を、ハルトに分身魔法を使わせたい理由を教えてくれぬか?」
それが納得できるものであれば、分身魔法を教えてやっても良いと思った。
珍しく娘たちが我を頼ってくれたのだ。
少しは、力になりたいと思ってしまった。
「「えっと、その──」」
娘たちが顔を赤らめる。
な、なんだその、恥じらう顔は!?
我の前でそんな表情を見せたことなど、これまで一度もないではないか!
「「ハルト様と寝られる日を、増やしたくて……」」
──は?
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