第178話 リファの計画
「エ、エルミア!」
大神殿に転移したら、俺がエルミアを抱いていることに気付いたセイラが走り寄ってきた。
「大丈夫、気を失ってるだけだよ。魔力を結構奪われていたのと、両肩の脱臼、あとは疲労が酷かったけど、魔力と脱臼は回復させた。多分、少し休めば目を覚ますと思う」
「あ、ありがとうございます。貴女たち、エルミアを医務室へ運んでください」
「はい、聖女様」
セイラの指示で、聖鎧を纏った女性数人がエルミアを運んでいった。
彼女たちも聖騎士なのかな?
エルミアとは違い、全身をしっかり守れるような鎧だった。
あちこち見えてしまいそうなエルミアの聖鎧は、やはり彼女の趣味なのではないだろうか……
「ハルト様、聖都を護ってくださり本当にありがとうございました。エルミアのことも、イーシャも。それに今、私がここにいられるのもハルト様のおかけです」
「うん。なんとか無事に皆を護れてよかった。それより、彼女のことが心配なんだろ? 避難中に怪我した人がいたら俺たちが回復させるから、セイラはエルミアのところにいっていいよ」
聖騎士たちに運ばれていくエルミアを、セイラが心配そうに見ていたのでそう言っておく。
「ですが……」
「ここは大丈夫だから。彼女のそばにいてあげて」
やはりエルミアが気になるのだろう。セイラは何度も頭を下げて、エルミアが運ばれていった方に走っていった。
これで一段落した。
もとは創造神様にダンジョン運営の交渉をしにきただけなのに、ここまで大事になるとは思わなかった。
とはいえ、聖都サンクタムに潜んでいた悪魔を倒すことができたし、昔の知り合いだったセイラを護ることができたのだ。
偶然だけど、このタイミングで聖都に来ることができて本当によかったと、改めて感じた。
──***──
翌日
「あっ、あの、リファさん」
聖都を歩いていたリファが、目元までフードを被った女性に声をかけられた。
リファは、その声に聞き覚えがあった。
「せ、聖女様? どうしてこんなところにおひとりで……なにか私に御用でしょうか?」
「昨日は、聖騎士たちの指揮をしてくださりありがとうございました。少し、お時間よろしいですか?」
聖女であるセイラが、護衛もつけずにひとりで自分を探していたのだ。
なにか重要な頼みでもあるのかと身構えた。
「ハルト様が、その……ハーレムとかに興味があるか、わかりませんか?」
「……はい?」
リファはセイラに連れられて、聖都の大通りから一本裏に入った通りにある静かなカフェに入った。客は一人もいなかった。
カフェのテーブル席に着くなり、セイラが切り出した言葉で、リファが固まる。
「実は私、百年前に世界を救って下さった守護の勇者様をお慕い申しておりました。その方は──」
「ハルトさん、ですよね?」
「はい。守護の勇者であった彼が転生して、今のハルト様になられたとお聞きしました。転生されているのですが……そ、その、私はやはり、彼に惹かれてしまうのです」
「ハルトさんが、好きってことですね」
「……はい」
「だけど、ハルトさんが既にティナ様と結婚しているので気になる──そういうことですか」
「そ、そうなのです。リファさんはハルト様と御学友だと聞いております。その……学園での様子などから、彼が
聖都の外で魔人に襲われていたセイラを助けて、聖都まで一緒に来る時にハルトとその家族は全員、セイラやエルミアに対して自己紹介をしたのだが、ティナ以外は家名を名乗らなかった。
だから、セイラはリファの家名を知らない。
リファがハルトの妻であることを知らない。
「ハルトさんが、複数の女性と付き合う可能性があるか──つまり、ハーレムに興味があるか、ということですね?」
「は、はい。そうです」
ここで、少しリファは悩んだ。
セイラに真実を伝えれば、彼女はハルトに告白するだろう。
リファから見ても、セイラは美人だ。
そしてリファの夫であるハルトは、来るもの拒まず家族を増やす。
それでも、ハルトにとってティナが一番であることは揺るぎないようで、ハルトは毎晩必ずティナと一緒に寝る。
残りの家族は交代で、ティナがいない側──ハルトの右側で寝るのだ。
聖都に来る前までに、その右側をローテーションする人数は六人もいた。
リファ、ルナ、ヨウコ、マイ、メイ、メルディだ。
この世界の一週間は六日間なので、週に一度はハルトと寝られたのだが──
そこに昨日、ドラゴノイドのリュカが加わった。
聖都を護る聖結界を発生させていたクリスタルを悪魔に破壊されたので、それを直せるリュカをハルトが呼びにいった。
そのハルトが帰ってきた時、リュカが家族に加わることが決定していた。
ハルトの言い分では、転移した時にリュカの裸を見てしまい、竜の巫女としての力を失わせてしまったため、彼女の力を取り戻すためにもリュカと結ばれる必要があったのだとか。
リュカも満更でない──どころか、嬉しそうな感じだった。
ハルトとティナ以外のエルノール家のメンバーは、ハルトと寝られる日のことを『ハルトの日』と呼んで毎週、楽しみにしていた。
もちろん、ハルトはそれを知らない。
リュカがエルノール家に加わったことで、週に一度の『ハルトの日』が毎週くるとは限らなくなったのだ。
そこに、セイラも加わることになれば……
リファは葛藤していた。
自分が認めた男性なので、多くの女性が彼に惹かれるのも悪い気はしない。また、自分の目が確かであったと確証を持てる。だからハルトが、女性にモテるのはちょっと嬉しい。
でも大好きなハルトと寝られなくなるのは、かなりさみしい。
(はぁ、もうこうなったらハルトさんの等身大人形でも作って、慰めるしかありませんね……あっ、それか
リファは決心した。
「聖女様──いえ、セイラさん。自己紹介の時に、私は家名を名乗りませんでしたね。私は今、リファ=エルノールって名前なんです」
「えっ、それって──」
「はい。私もハルトさんの妻です。ハルトさんがハーレムに興味があるかという質問ですが……答えはイエスです」
「そ、そうなのですか」
「ちなみに聖都に来る時、ティナ様と私を含めて七人の女性がセイラさんと一緒の馬車に乗りましたが……あれ、全員ハルト様の家族です」
「えっ!?」
「それから昨日、またひとり家族が増えました」
「えぇ!? あっ、も、もしかして竜の──」
「その通りです。竜の巫女と呼ばれている、リュカさんです」
セイラは驚きすぎて固まった。
とりあえず説明はした。
なんだかんだで、セイラもエルノール家に加わることになるだろうとリファは考えた。
ハルトの周りには女性が集まってくる。
この聖都で、増える家族がリュカとセイラだけとは限らない。
正式に結婚している自分は優遇されるなどと、油断しているわけにはいかない。
最近はリファも、普通にローテーションに組み込まれ、週に一度しかハルトの日がこなくなっていたのだから。
ハルトの周りの女性はどんどん増える。
放置すれば、ハルトの日がこなくなる。
では、どうするか──
「あの、セイラさん……
ここからリファの『ハルトを増やそう計画』がスタートした。
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