第89話 メルディのお願い
俺達のクラスは全員が無事に進級し、イフルス魔法学園の二年生になった。
二年生になって三ヶ月。
一年生の時と変わらず、月一回の他クラスとの対戦もあるが、問題なく勝利し今の教室をキープしている。
また、週一回くらいのペースで、この魔法学園の長である賢者ルアーノの特別授業も継続して行われている。
やはり賢者ルアーノの授業は、すごくためになる。
俺も知らなかった魔法の知識をどんどん教えてくれる。
でも、古代魔法とか禁忌魔法の使い方とかまで教えてもらっても大丈夫なんだろうか?
使っちゃダメだから禁忌魔法なんじゃないのか?
──さすがにそういうことではないらしい。
賢者ルアーノは、俺たちこそがこれからの時代を担うべき者だと思ってくれているようで、俺たちに己の魔法の知識の全てを託すと言った。
古代魔法や禁忌魔法を俺たちに使えというのではなく、それらを使って悪事を働こうとする者を止めるために必要な知識として身に付けておいてほしいのだとか。
なるほど、そういうことならちゃんと学ばなくては。
そうして賢者ルアーノの授業を受けるうちに知ったことがある。
俺のお気に入りの魔法である炎の騎士。
これは以前、ヨウコがフレイムナイトという魔法だと教えてくれた。
このフレイムナイト──
実は禁忌魔法らしい。
賢者ルアーノが持ってきてくれた『古代魔法・禁忌魔法大全』という禁書に載っていた。
禁忌魔法とされる理由としてはまず、使用する魔力量が膨大で、個人で無理に発動させようとすると確実に魔力切れを起こす。
そして意志を持って自動で動く魔法ということで、暴走する可能性があるため、現在は賢者以外の人間は使用を禁止されている。
俺は賢者だから使ってもいいんだよな?
レベル1だけど。
俺が考案し、オリジナルの魔法だと思って使っていたが、同じようなことをした賢者が過去にいたらしい。
ちょっと悔しい。
だが、禁忌魔法のフレイムナイトは数体で連携することもなければ、勝てない敵と遭遇した時に自爆して少しでも敵にダメージを与えようとする機能もない。
さらに俺の炎の騎士は、体表に雷魔法をコーティングし、本来の弱点である水魔法で攻撃されても弱るどころか逆に強くなる。
この辺は俺のオリジナルと言ってもいいのではないだろうか?
ちなみに、炎の騎士が暴走した時に止めるための手段として、俺が考案した真空空間を作り出す魔法──
こっちは古代魔法とされていた。
なんでも遥か昔、転移勇者のひとりが大火災を止めるために使用したのだとか。
んー、やっぱり転移転生してきた奴らって、考えること大体同じなんだな。
そんな感じで賢者ルアーノの授業を受けている時、教室の窓から一羽の赤い鳥が入ってきた。
レターバードという、手紙を運んでくれる鳥だ。
事前に手紙を届けたいヒトに会わせておくか、その持ち物を見せることで届けたいヒトの魔力を感じ取り、そのヒトのもとまで手紙を運ぶ。
また、レターバードはその色で能力が変わる。
普通の手紙を運ぶのは緑色。魔物に襲われて手紙が届かないことがあるので、数羽に同じ内容の手紙を持たせて飛ばすことが一般的だ。
緊急の手紙を運ぶレターバードは黄色。緑色のやつより飛行速度が速く、そして強い。一羽飛ばせば大体ちゃんと手紙が届くし、早く連絡することができるのだが、費用が高い。
そして、俺たちの教室に入ってきた赤色のレターバード。
これは王族専用だ。稀に貴族が多額の寄付金を国に納めることを条件に使用することもある。
その赤いレターバードがメルディの席に着地した。
も、もしかしてメルディって王族なのか?
メルディはレターバードの足に括りつけられた手紙を取り外し、それを開いた。
手紙を読むメルディが次第に曇っていった。
そして──
「学園長先生、ティナ先生、しばらく学園お休みしてもいいかにゃ?」
「ん、どうしたのだ?」
「何かあったのですか?」
「父が倒れたみたいなので、国に帰りたいにゃ」
メルディが言うには、父親が呪いを受けてしまい、その状態が良くないので帰ってこいと家族に呼ばれたらしい。
そしてメルディの故郷、獣人の国ベスティエはここグレンデールから馬車で二十日の距離にある。
同じ大陸にある国なので船に乗る必要はないが、かなりの距離があった。
もし、メルディが馬車で国に帰るのであれば最低四十日は学園に戻ってこられない。
「この学園は定期試験さえクリアすれば授業は出なくても構わん。学園を休んでも問題ないが、もっと良い方法があるぞ?」
「どういうことかにゃ?」
「年一回義務付けておる、どこかの国に滞在する学園外授業──それの行き先を、お主の国にすれば良いのだ」
この学園には一年に一回、国外に出でそこで一ヶ月過ごさなくてはならないというルールがある。
そしてそれは、いつ、どこに行くかは各クラスで決めていいことになっている。
「で、でも往復だけで一ヶ月以上かかっちゃうにゃ……」
やっぱりメルディは馬車で帰るつもりだったようだ。
家族が危ないんだろ?
そんな時くらい、俺を頼れよ。
「俺の──」
「ハルトの転移魔法で、サッと帰ってしまえば良いじゃろ」
言おうとしていたことを賢者ルアーノに言われてしまった。
くそぅ、かっこ付けたかったのに。
「ハ、ハルト、お願いしてもいいかにゃ?」
メルディが物凄く申し訳なさそうに聞いてくる。
普段、ピンと上向きに立っている猫耳がペタンと折れて元気がない。
涙目だった。
か、かわいい……。
なんだろ、子猫を見た時のように庇護欲が掻き立てられる。
ちなみに俺は、子猫大好き。
「もちろん! ベスティエにはいったことがあるから、今直ぐでもいけるよ」
俺の転移魔法は、転移先に魔法陣を設置しておく必要がある。
転移魔法を覚えて以来、何かあった時のために同じ大陸にある国には転移用の魔法陣を設置していた。
ティナの飛行魔法で連れていってもらったので、一週間で全ての国を回ることができた。
「ハルト、ありがとにゃ!」
メルディが抱きついてきた。
余程嬉しいのか、俺の頬をぺろぺろ舐める。
猫か!? ──って、猫だったわ。
「どうする? とりあえず直ぐにベスティエまでいって、必要があれば荷物とかを取りに来る感じでいい?」
父親が危篤なのだ。
行けるのなら今すぐに行った方がいい。
「それでいいにゃ。お願いするにゃ!」
「分かった。皆、まずメルディだけ連れてくよ。後で皆を迎えにくるから」
ティナやリファたちにそう告げた。
「分かりました、旅の支度をしておきます。メルディさん、お父様が回復なさるようお祈りします」
「先生、ありがとにゃ」
「よし、じゃ行こうか」
俺はメルディの手を握り、獣人の国ベスティエに向かい転移した。
メルディの手にある、大きな肉球の感触を楽しみながら──
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