第63話 孤独な訓練
その後、講義で教えられた魔伝路を拡げる訓練方法を実践していたら問題が起きた。
一緒に訓練所に居た、ティナを含めたクラスの全員が倒れたのだ。
「み、みんな大丈夫!?」
「うぅ、気持ち悪い」
「頭がぁ、痛いぃ!」
「なんか、ぽわぽわして、立てません」
「わ、私も……」
体調不良の症状もまちまちだ。
ティナとリファは、世界樹のダンジョンに入った時のような状態になっていた。
まるでこれは──
「魔力酔いだな。儂もちょっと気分が悪い」
賢者ルアーノがそう結論付ける。
やはり魔力酔いのようだ。
でも、俺以外のみんなは魔力炉を拡張する訓練をしていたのだ。
魔力酔いになる可能性がある訓練は、魔伝路を拡げる方だから、意味がわからない。
そして、本来であれば魔力酔いになるはずの俺が一切、魔力酔いらしい症状が出なかった。
どういうことだろう?
「この訓練所内にハルトの魔力が蔓延しておる。それこそ、かの魔王城より濃いレベルでな」
かつてこの世界に君臨した魔王の城は、耐性が無い者が足を踏み入れると動けなくなるレベルで、魔王から溢れでた邪悪な魔力が蔓延していたという。
──で、現在、その魔王城より濃く俺の魔力がこの空間に漂っているらしい。
「恐らくハルトの魔力が濃すぎて、儂らの魔伝路にハルトの魔力が入り込んできておるのだ。……とりあえず、全部吸収してくれんかの? 儂も、もうやばい」
「えっ!? あっ、ごめんなさい!」
俺は慌てて、空間に放出した俺の魔力を回収した。
かなりの魔力量だったが、それでも俺は魔力酔いにならなかった。
「ふぅ、楽になりました」
「はぁ、はぁ。あ、あとちょっとで……危なかったです」
皆、体調が回復したようだ。
リファやルナなど、何人かは頬を紅潮させている。
ルナ、何が危なかったか、ちょっと気になるぞ。
「みんな、ごめん」
「無理やり快楽を押し付けられているようで気分は良くなかったが、主様の魔力だったのであれば嫌な気はしないのじゃ」
「「私たちは何だかフワフワしてました」」
ヨウコやマイたちは許してくれるみたいだ。
「ハルト、すまん。俺はお前の魔力、無理だわ。頭が割れそうだ」
「ルークと同じく、俺も」
ルークとリューシンは頭痛が酷かったようで、もう近くで魔伝路を拡げる訓練をしないでほしいと言われてしまった。
でも、俺は意図して魔力を放出していたわけではなかった。
魔力放出したら直ぐに回収していたし、皆が倒れる少し前から俺は休憩して、魔力炉拡張訓練をしている皆のフォローをしていたからだ。
「ハルトの魔伝路が拡がりすぎたせいで、魔力が、ダダ漏れになっておったのだ。今もまた少しずつ漏れておる」
自分の身体の周りを、魔視で確認する。
確かに薄ら魔力が漏れだしていた。
このせいで皆を体調不良にしてしまったようだ。
「ど、どうすればいいでしょうか?」
「身体の中心に栓をイメージして、その栓を閉じるのだ」
栓……水道の蛇口みたいなのでいいのか?
俺は目を閉じ、水道の蛇口をイメージした。
すると、その蛇口からチョロチョロ水のようなものが流れ出ていた。
俺はその蛇口を閉じた。
「ふむ、できておる。さすがだ」
どうやら魔力漏れは止まったらしい。
「ハルトは魔力切れを起こさんだろうから、魔力だだ漏れでも問題無いが、同じ密室に誰かおる時はやるべきではないのぉ」
俺が魔伝路拡張の訓練をやると、そこが魔王城クラスの危険地帯になってしまうらしい。
「ハルトはしばらく1人で訓練だな」
「……はい」
みんなはまだ、魔力炉拡張訓練をするようで、俺だけ別の部屋に移動することになった。
ただ、全力でやると、どこでやっても周りに被害を出しそうだったので、もっと遠くに場所を移動することにした。
──***──
転移魔法で、実家の側の森へとやってきた。
ここは昔、ティナと魔物を狩る訓練をしていた森だ。
実家の側といっても、数キロ離れており、周りには民家もないのでここなら全力で魔伝路を拡げる訓練ができるだろう。
「……やりますか」
自分に言い聞かせるように呟く。
ひとりだと、ちょっと寂しい。
昔はティナに隠れて、この森でコソコソ魔法の練習をしていた。
でも、魔法学園に入ってからは常に皆と一緒に訓練をしてきた。
だから、こうして久しぶりにひとりになると物足りなさがあった。
まぁ、さっさと魔伝路を拡げられるだけ拡げて、みんなの所に戻ればいいんだよな。
俺は切り替えて、魔力の放出を始めた。
魔伝路は順調に拡がってきているようで、以前より格段に魔力放出の速度が早くなっている。
俺の周りに魔力10ぐらいの塊が大量に浮かんでいる。
これを、ひとつの塊にして──
突き出した右手に、魔力の通り道をイメージしながら、その通り道に向かって放出した魔力を押し付ける。
ぐぐぐっ、と魔力の通り道、魔伝路を押し広げながら魔力が俺の身体の中へと還ってきた。
これを数回繰り返す。
右手の魔伝路が拡がったら、次は左手。
俺は魔力を素早く放出するために、左右の手の平だけではなく、指からも魔力を放出する。
俺が一度に放出できる魔力は10だ。
昔の俺は、これをいかに早く出し続けるかを課題としていた。
ある日俺は、手の平から10の魔力を出すより、十本の指先から1ずつ魔力を出した方が格段に早いことに気付いた。
だから俺は強めの魔法を使う時、両手の指全てからほぼ同時に魔力を放出していくのだ。
手の平までの魔伝路は拡張できた。
次は指先までの魔伝路だ。
俺は再び魔力放出を始めた。
「指十本分だから、さっきの十倍魔力出せばいいかな?」
空間に俺の魔力が満ちていく。
何だか地面が揺れてる気がするが……。
まぁ、大丈夫だろ。
ふっ、と何か大きなモノの影が俺の視界を遮った。
⦅ええい、止めぬか! この地に眠る我を叩き起こして何が望みだ!?⦆
「──えっ!?」
巨大な白い狼が、牙を剥き出しにして俺を威嚇してきた。
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