第62話 魔力炉と魔伝路
賢者ルアーノによる特別講義が始まった。
「まず、魔力炉の拡張について話そうかの」
「魔力炉とはなんでしょうか?」
リファが学園長に質問する。
俺も知らない単語だ。
「魔力炉はヒトが体内で魔力を作る器官だ。ただ、器官と言っても魔物を解体すると得られる魔石とは違って、ヒトの魔力炉は目には見えない」
魔物を倒し、解体すると体内から宝石のような物が取れる。
これが魔石だ。
魔石には、その魔物の属性の魔力が宿り、魔具を作る材料になったりする。
魔具には、戦闘で使えるものや、日々の生活で使えるものなどがある。
俺たちの生活を便利で豊かにしてくれているのが魔具であり、その源となる魔石だった。
ヒトからは魔石が取れない。
でも、俺たちは魔法が使えるので、身体の何処かで魔力を作っているのだとは思っていた。
それが魔力炉と言うらしい。
「見えないのに、なんであるって分かったの?」
ルークが尋ねた。
「他人や己の魔力を見る力、儂は魔視と呼んでおる。この魔視が、賢者になると強化されるのだ。更に魔視は、使えば使うほどより多くの情報を読み取れるようになる」
魔視を使い続けると、他人の魔力量だけでなく、魔力に色が付いて見えるようになるそうだ。
魔力の色で、そのヒトがどんな魔法を得意としているのかなども分かるという。
その他にも魔力の波長から相手の心理状態を読んだりもできるのだとか。
「その魔視を鍛えると、魔力炉が見えるのですか?」
「そうだ。儂にはヒトの心臓付近に魔力を生み出す器官があることが見えておる。だが、十数年も魔視を使い続けてきた儂が、最近発見したものの存在を公表したところで、誰もそれを証明できんのだ」
賢者ルアーノですら最近になってようやく存在に気づいた器官なのであれば、現在どんな文献にも記載されていないのも納得だ。
「この魔力炉だが、大きくなればなるほど魔力の回復が早くなるということが分かった。そして、魔力炉は訓練で大きくすることができる」
「どんな訓練なんですか!?」
「私も知りたいです!」
ルナとリュカが身を乗り出した。
ルナはクラスの中で最も魔力量が少ない。
リュカは魔力量は多いものの、リュカが得意とする
ふたりとも、魔力量と魔力回復速度を課題としていた。
「魔力を使い切って回復させるのを繰り返すのだ」
えっ? そ、それだけ?
「あの、学園長先生。私はいつも魔力を使い切ってるのですが、あまり回復速度が早くなっていくようには感じていません」
以前、リザレクションを使ったリュカが疲労困憊で動けなくなったのを、何度か見たことがある。
だが、本人も気づいているように、その前後でリュカの魔力回復速度はあまり変わっていなかった気がする。
「リュカよ、魔力を使い切った時、意識はあるか?」
「あ、あります」
「ではダメだ。気を失うまで魔力を削らねばならぬ」
「えっ!?」
えっ、まじで?
「魔力が削られ0になると、体力が削られていくのは皆、知っておると思う。そして、体力を削りすぎるとヒトは死ぬ」
この世界の常識だ。
だから、魔力や体力が0にならないよう、注意して魔法を使う必要があるのだ。
「あまり知られておらんが、体力が最大の一割をきってから魔法を使うと、魔法は発動せずヒトは強制的に気を失うのだ」
「そ、そうなのですか?」
「マジか、知らなかった」
俺も知らなかった。
まぁ、魔力が減らないから、分かるわけもないのだが。
「気を失うまで魔力を使い、その後回復させることで魔力炉は少しずつ大きくなる。まぁ、かなり苦しい訓練になるので、やるかやらぬかはお前たちが決めると良い」
もし、この訓練をやるのであれば、学園長がしっかりサポートをすると約束してくれた。
ちゃんとした環境でやらなければ、危険もあるからだそうだ。
ただ、魔力が減らない俺としては、この話はあまり役に立たなかった。
だけど、賢者ルアーノはちゃんと俺のことも考えてくれていたのだ。
「ハルトよ、心配するな。お主にも有益な情報を授けよう。魔伝路は知っておるか?」
「魔伝路、ですか? 知りません」
「魔力炉で作った魔力を体外に放出するための経路だ。これが太くなればなるほど、魔法の発動を早くできる」
「おぉ!」
そうなんだ、知らなかった。
昔、邪神の呪いの効果に気づいた時、俺は強くなるために、魔法の発動を早くすることを考えた。
試行錯誤の結果、通常手のひらからのみ放出する魔力を、身体の至る所から放出することで魔法の発動を早くする術を身につけた。
だが、賢者ルアーノが言うように、魔伝路を太くすれば俺の魔法はもっと早く、強力になるかもしれない。
俺はその方法が知りたい!
「どうすれば魔伝路を太くできるのでしょうか?」
「体外に放出した魔力を、強引に体内に戻すのだ」
「…………」
そ、そんなことできるのか?
エルフ族は空間から魔力を集められるが、それを体内に取り込むのではなく、身に纏って攻撃魔法にしたりしている。
つまり一度、体外に出した魔力は回収できず、空間に拡散していくしかないというのが常識だった。
「できるだけ大量の魔力を一度に戻すと、より効果的だ。魔力で強引に魔伝路を押し広げていく感覚だな」
「魔力放出の時、溜めて一気に放出するのではダメなのでしょうか?」
「魔伝路は本来一方通行だ。放出の際にはスムーズに出るようになっておるから、一気に放出したとしてもあまり意味が無い」
他人の魔力が入ってきて、魔力酔いを起こすのを防ぐ働きが魔伝路にはあると言う。
そして、一度体外に放出した魔力は、操作はもちろん可能だが、空間に存在する少量の魔力と混じり合うことで質が変化する。
体外に放出され質の変わった魔力は、身体が異物として受け付けない。
その受け付けない魔力を強引に通すことで魔伝路が広げられるのだと、賢者ルアーノは言う。
「ちなみに、魔伝路を広げる訓練は魔力炉を拡張する訓練の十倍は辛い」
そう賢者ルアーノに脅されても、俺は訓練をするつもりだった。
俺の目標はティナをどんな脅威からでも守れるようになること。
最近は守る対象にリファも加わった。
そして、この世界の神の一柱である、邪神を殴ること。
無駄かもしれないが、強くなるためにできることはなんでもやると決めていた。
「その訓練、やります」
俺は賢者ルアーノに向かい、そう宣言した。
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