第17話 初めての対戦

 

 七年生との対戦日になった。

 俺たちは学園内にある闘技場にいる。


 一番手で対戦に望んだリファが、闘技台の上でオロオロしている。


 無理もない。


 一対一の対戦で、相手の七年生五人全員を倒してしまったのだから。


 ──なんでこうなったのか。



 時は遡り、対戦開始前、お約束のように俺たちは相手の七年生たちに絡まれた。


「なんで新入生が一ノ壁に教室を持ってるんだ?」

「どうせ親のコネだろ、痛い思いをしないうちに大人しく降参しろ」

「こいつ、結構可愛くないか?遊んでやるから降参しなくてもいいぞ」

「それもそうだ、遊んでやるか。ふひひひひ」


 などと言われたい放題だった。


 俺には魔力が見えるので七年生の魔力をチェックしたが、全員そこまで魔力が多くなかった。


 俺たちのクラスの中で魔力量が一番少ないのはルナだが、七年生は五人全員を足してもルナの半分くらいしか魔力がなかった。


 正直、負ける気がしない。


 七年生たちを無視して闘技場の控え室に向かう。彼らには俺たちがビビって逃げていったように見えたのかもしれない。笑い声が後ろから聞こえてきた。


 だが、それを気にする者はここにいなかった。俺たちが昨日まで、フルボッコにしていたティナ特製の石像──あれより強そうな相手が一人も居ないことに全員が気づいていたからだ。


「なんか余裕そうだな」


「うん、最上級生が相手だって言うから不安だったけど、ティナ先生の石像を相手にしてからアレを見るとウチらが勝てない理由が見つかんないね」


 そんな会話をリューシンとメルディがしている。


「でも、油断せずにいこう。相手は七年生だし、特殊な魔法とか持ってるかもしれない」


「そうですね。ハルトさんの言う通り、油断せずに行きましょう。まずは私が1人は倒しますよ!」


「あぁ、リファ。頑張ってくれ」



 ──そんな感じでリファに声をかけたのが懐かしい。


 対戦が始まり、まずリファが闘技台に上がる。


「おっラッキー!1人目お前か。可愛がってやるよ。よろしくな」


 相手の七年生はニヤニヤしながらリファを見ていた。



 審判の合図で戦いが始まった。


 リファは直ぐに魔法で弓を創り出し構えたが、相手は微動たりともしなかった。


「撃ってこいよ。無駄だって分からせてやる」


 下級生だと舐めているのか、リファに先手を譲るという。本来ならば相手の攻撃を避けながら魔力を周囲から集めなければならないので、時間がかかるはずだった。


 しかし、相手は本当に何もしてこない。

 リファは幸いと言わんばかりに魔力を矢に溜めまくった。


「は? えっ、な、なんだその魔力は!?」


 俺以外の生徒にも目視できるほど一点に集中した魔力が、リファの周囲の空気を震わせる。


 リファの相手もそれに気づき慌て始めた。

 リファの魔法発動を止めるため、手を闘技台に着き、土魔法のアーススピアをリファに向けて放った。


 ──だが、もう遅い。


「ウインドアロー!」


 リファが魔弓の弦から指を離すと、風の矢が高速で放たれた。


「ふぐゎあ!!」


 風の矢は、リファに向かってきていた土魔法を消し飛ばし、そのままの勢いで相手生徒も吹き飛ばした。


 リファは対戦相手を殺してしまわぬよう、風の矢の先端を貫通力の高い形状ではなく、当たった瞬間に衝撃が発生して対象を吹き飛ばすものへと変えていた。


 風の矢はリファの対戦相手を吹き飛ばしただけでは消えなかった。


 観客へ魔法が飛ばないようにするために、闘技台の周囲に張られた半透明の防御魔法壁──これを打ち破り、その後ろに控えていた残り4人の対戦相手も吹き飛ばしてしまったのだ。


 吹き飛ばされ、闘技場の壁に打ち付けられた五人は起き上がってこない。手足がピクピクしているので、全員死んだわけではなさそうだ。


「…………」


 闘技場内が沈黙に包まれた。


 一ノ壁に教室を得た一年生と、最上級生との対戦ということで、多くの生徒や教師が見学に来ていた。魔法壁が破壊され、さらに五人をまとめて吹き飛ばした魔法の威力に、闘技場を訪れた全員が驚いていた。


 ちょっと多めに魔力を溜めてみたが、防御魔法壁すら貫通してしまったことにリファ自身が驚いて、闘技台の上でオロオロしていた。


「皆さんが石像と戦ってる時、私が全力で防御壁を張ってたんですからね。その辺の教師が張った魔法壁で私の生徒の魔法を止められると思わないでほしいですね」


 ティナがどこか誇らしげに語る。


「みみ、認められない! と、闘技台の外への攻撃なぞ反則だ!」


 髪の薄い五十代くらいに見える教師がティナのもとへと詰め寄ってきた。彼は相手の七年生クラスの担任だ。


「闘技台の外から中への魔法攻撃は反則って決まりはありますけど、その逆はありませんよ。まず、個人の魔法で魔法壁が破られることなど想定してませんでしたから」


 審判をしていた教師が、髪の薄い教師を止めに来てくれた。


「それより、どうします? 全員戦闘不能であればティナ先生のクラスの勝ちとなりますけど」

 

 倒れていた相手生徒達は担架で運ばれていった。しばらくしたら治癒魔法で回復するかもしれないが、時間はかかりそうだ。


「……審判、先程倒れた生徒たちはあそこで応援していただけだ。選手ではない!」


「は? いや、しかし……」


 審判が対戦名簿を確認する。


 先程運ばれていった全員が選手登録されていた。にも関わらず──


「エドガー、こい!」


 エドガーと呼ばれた体格の良い生徒が、眠そうに髪の薄い教師の側にやってきた。


「なんすか? 俺の出番はないって言ってませんでした?」


「予定変更だ。全力で奴らを蹴散らせ」


「いや、エドガー君は選手では──」

「私のクラスは問題ないですよ。続きをしましょう」


 審判が止めようとするも、ティナがこのまま続きをしようと言い出した。


「ふはは、何を勘違いしているのかは知らんが、後悔するがいい」


 そう言い残して、髪の薄い教師はエドガーを引き連れて自陣へと戻っていった。


「リファさんはエドガー君とは相性が良くなさそうですので、次の試合は棄権してもらっていいですか?」


「はい、先生」


 リファは素直にティナの言うことを聞いた。

 やりすぎたことをちょっと反省しているようだ。


「リファさん、お疲れ様です。素晴らしい魔法でしたよ」

「あ、ありがとうございます!」


 自分たちの種族の間で英雄と呼ばれているティナから褒められ、リファはすごく嬉しそうだった。


「では、次はリューシン君。お願いしますね」

「りょーかい!俺も全力でいいの?」


「もちろんです。あの教師も一緒に吹き飛ばす勢いでやっちゃってください」


 ティナがいつになく過激だ。あの髪の薄い教師にイライラしているのかもしれない。


 リューシンが闘技台に上がる。

 エドガーも怠そうに闘技台に上がってきた。


 エドガーの後ろで、相手のクラスの残り四人が何やら魔法を唱え始め、エドガーの身体が様々なオーラに包まれていった。


 闘技台の外から補助魔法を使ってエドガーを強化しているのだ。魔力の流れをよく見たら、髪の薄い教師も周りにバレないよう補助魔法を使っていた。


「……あれっていいの?」


「闘技台の外からの攻撃はダメですけど、補助はいいみたいですね」


「ふーん、でも、教師はさすがにダメじゃない?」


「ハルト様、よくお気づきで。あれはさすがに見過ごせません」


「試合、中止させる?」


「いえ、こちらも同じことをします。ルナさん」


「は、はい!」


「リューシン君に全力で補助魔法をお願いします」


「分かりました!」



 ──結論から言おう。


 俺たちは圧勝した。


 ルナの全力の補助魔法を受けたリューシンが、腕を竜化させ、全力の魔力を乗せて放った拳圧はエドガーを吹き飛ばし、張り直された魔法壁をあっさりと破り──


 更にエドガーの後方にいた四人の生徒と髪の薄い教師を盛大に吹き飛ばした。


 もちろん、吹っ飛んでいった彼らがその後起き上がることはなく、医務室へと連れていかれた。


 こうして、俺たちのクラスは初の対戦に勝利し、教室の防衛に成功したのだ。

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