第16話 対戦準備

 

「おはよーって、ハルト……お前それ、どうしたんだ?」


 ヨウコに主従契約を一方的に結ばれておよそ三十分後、ルークが教室にやってきた。


 その時、俺はヨウコを膝の上に乗せて頭を撫でていたので、ルークが驚くのも無理はない。


 ヨウコはというと、目を細め気持ちよさそうにしている。俺はヨウコに対して庇護欲が掻き立てられる契約のせいで、何となくヨウコの頭を撫でてやりたくなっていた。


「ルークか、おはよう」


「お前らってそーゆー仲なの?」


「んー、まぁそんなとこ。ヨウコ、そろそろ皆が来るから席戻っとけ」


「ぬぅ、我はこのままでも構わぬのだが。主様がそう言うなら戻るとしよう」


 そう言ってヨウコが俺の後ろの席に移動した。


「主様って……どんな関係なんだよ。あれ?そういや昨日、ヨウコの魔法を見たっけ」


 ルークがヨウコの魔法を見てないことを思い出したようだ。


「存在を隠すのに長けた能力を持ってるらしい。それで昨日は俺たち皆がヨウコの存在も忘れかけてたんだと」


「おー、それは珍しい能力だな。珍しいと言えばハルトの魔法、強すぎじゃない?なにあの威力。賢者の孫っていう俺の立場ないんだけど」


 嫌味とかではなく、どこか楽しそうな感じでルークが話しかけてくる。


「いや、ルークの究極魔法もヤバかっただろ。それにここの学園長の孫なんだって?聞いてないぞ」


「あはは、言ってないからな」


 ルークは権力があっても、それを振りかざすのは好まないようだ。彼に対する好感度がますます上がる。


 その後しばらくしてリファが来て、その後ルナ、メルディ、リューシンとリュカ、それからマイとメイが教室に入ってきた。


 それぞれがヨウコに昨日、訓練所に居たかどうかを確認してきたので、その度に俺が説明していた。ヨウコとの契約のせいか、自然に俺が説明に入ってしまう。


 そうこうしていると、ティナが教室に入ってきた。


「皆さん、おはようございます」

「「おはようございます」」


「昨日は授業をほとんどできず、申し訳ありませんでした。訓練所は既に直していただけたようですので、本日から通常授業を再開します」


 ティナはヨウコのことに触れなかった。


 ティナは魔力感知能力が優れているらしいので、もしかしたらヨウコが魔法で気配を消していたことにも気づいていたのかもしれない。


 今日は座学の授業からスタートした。


 ティナが教科書を読みながら、そこに乗っていない知識などを補足しつつ、俺たちへの問いかけもしてくる。


 その問いかけがかなり難しい。


 賢者であるうえに、ティナから教わっていた俺は全ての答えが分かるが、普通の魔法学園一年生が答えられるような問題では無いはずだ。


 実際にリューシンやメルディは回答に苦労している。なのにルナやルーク、それからリファはスラスラ答えていく。


 俺は少し、このクラスの異様性に気づき始めた。


 まず、教師が伝説と呼ばれるティナ=ハリベル。


 賢者を祖父に持ち、極大魔法も使えるルーク。


 ありとあらゆる補助魔法を使いこなし、この学園の上級生でも回答が難しい問題をスラスラ解くルナ。


 本来、高速であるが低威力のはずの風魔法でマホノームの皮で作られた魔法耐性の高い的を半分貫通させたリファ。


 格闘術に魔法を組み込んだ珍しい技を持つ獣人族の女の子、メルディ。


 ドラゴノイドという珍しい種族で、リューシンは高威力の攻撃魔法を。リュカは魔力が通っていればなんでも治せる回復魔法が使える。


 人化した魔物で、成長すると災厄と呼ばれるほどの力を持つヨウコ。


 本来相反する魔法を融合させ、高威力の魔法へと昇華させる能力があるマイとメイ。


 どう考えても、学園の中でも特異な学生がこのクラスに集まっている。偶然ではない気がする。


 ティナが調整したのだろうか?


 何となくティナの方を見ていると、ティナが微笑んできた。


 考え事はやめて、今はティナの授業を真面目に受けよう。そう思った。



 その後、ティナの問いかけに全問正解したのは俺とルナだけで、リファが悔しそうにしていた。俺は賢者だから当然として、ルナは凄いと思う。


 この教室の入口を護る石像の強さを見抜いたことなども考慮すると、ルナはかなり魔法に関する知識が豊富だ。



 ──***──


 座学の授業が終わった後にクラスの皆と昼食を取り、訓練所に移動した。


 午後からは実戦訓練を行うらしい。



「皆さんに、お知らせがあります。7年生のクラスとの対戦が三日後、行われることになりました」


 訓練所に着くとティナが思い出したようにそう告げた。


「えっ!?」

「み、三日後?」

「いくらなんでも早すぎないですか?」

「七年生って、最上級生じゃないですか!」


 クラスの全員から驚きの声が上がる。


 この学園の七年生と言えばほとんどの生徒が中級魔法を使いこなし、少数ではあるが上級魔法が使える生徒もいる。


 卒業して、ギルドに登録すればいきなりDランク、もしくはCランクにもなれる実力を持つのだ。そんな奴らと三日後戦わなくてはならない。


 不安しかない。


「大丈夫ですよ、七年生と言っても二ノ壁の外側にある教室のクラスですし」


 この学園は中央街の周りを円形の壁が五重に囲うような形となっている。それぞれの壁を内から順に一ノ壁、二ノ壁、三ノ壁、四ノ壁、五ノ壁と呼ぶ。


 俺たちの教室は一ノ壁の外側にある。


 相手となるクラスはニノ壁の外側の教室にいるようなので、七年生の中ではそこまで強い方ではないらしい。


「それに皆さん、昨日仲間の実力を確認したはずです。全員が高レベルの魔法を使いこなしていました。単純な個人戦で後れをとることは少ないでしょう」


 ティナの言葉で、クラスの仲間たちから次第に不安が消えていくのが分かった。


「対戦方法ですが、一対一の勝ち抜き戦で、メンバーは五人です」


 全ての生徒が戦闘に向いている魔法が使えるわけではない。ルナのように補助魔法を得意とする生徒も多いのだ。


 なのでクラス全員で戦うことは少ない。

 今回は五人がクラス代表として戦うことになる。


「戦ってもらう五人ですが、リファさん、リューシンさん、メルディさん、ルークさん、ハルト様にお願いします。戦う順は今名前を呼んだ通りです」


 ティナは既に戦うメンバーを決めているようだ。俺たちの意思は関係ないのだろうか?


「分かりました、先生」

「しゃぁ!ぶちのめしてやんぜ」

「うちもやるでぇ!」

「この面子か、ハルトに回す前に終わりそうだな」


 俺以外のメンバーは、全員やる気のようだ。

 そして俺の敬称が様になっていることには誰も突っ込んでくれなかった。


「では、対戦に向け、対人訓練を始めましょうか」


 そう言ってティナが床を杖で叩くと、少し離れた所からこの教室の入口に立っていたのとよく似た石像が現れた。


「この石像は速い・硬い・強いをコンセプトにした私特製の人造魔物です。動きも人間と近く、これを倒せれば対戦でも負けることは無いでしょう」


「先生、対戦で戦う順番と同じで、私からやっていいですか?」


「えぇ、リファさんお願いします」


「じゃ、その次俺な」


「リューシンの次はうちやるー!」


 その後、俺たちは三日間、ティナ特製の石像と闘い続けた。

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