文学少年(変態さん)は世界最恐!? 〜明らかにハズレの【書誌学】、【異食】、にーとと意味不明な【魔術文化学概論】を押し付けられて異世界召喚された筈なのに気づいたら厄災扱いされていました〜
episode zero『追放勇者は勘違いを正す異能を振りかざす』 弐
episode zero『追放勇者は勘違いを正す異能を振りかざす』 弐
――ただ、僕はお父さんとお母さんと幸せに暮らしたかっただけなのに。
◆
【三人称視点】
魔王軍の知恵者オルフェースは、リュート一行を確実に討伐するためにフレデリックの提案に従って
邪神王テスカトリポカの下す断片的な信託とオルフェース自身の最高の頭脳を駆使して一つの作戦を紡ぎ出す。
「ということで、やって頂けますかな? アブラヘル侍女長様」
アブラヘルはオルフェースと同格の六魔将軍の一人に数えられる淫魔女王で、魔王妃を教育した存在でもある。
ちなみにアブラヘルに教育された魔王妃様は、現在魔王様と寝室に籠っている。「っん、はぁ、ん❤︎」のような喘ぎ声が漏れ出てきているが、久しぶりとはいえかつては日常と化していたので古参メンバーは通常モードでスルーしている。
「こちらが古代の秘術……魔堕転生が込められた宝珠になります。魔王様の謹製なので効果は確かです」
「これでまずは一人……そうやって
アブラヘルは優秀な淫魔ではあるが一つだけ特殊なところがあった。
アブラヘルはレズなのである。アブラヘルにとって、男は餌に過ぎず、恋愛感情は全て同性である女に向けられる。まあ、オルフェースにとってはどうでもいいことだが。
(……いくら
オルフェースは自らの作戦が正しいと思い、実行に移していく。それがフレデリック達の思う壺だということに気づかずに……。
こうして、魔王軍はゆっくりと破滅の道を進んでいく――。
◆
【三人称視点】
グローレンには肉体を鍛え、技を磨くという趣味があった。
そして、グローレンは自己鍛錬の時間に夜を選び、かつ迷惑にならないようにリュート達が野営をしているテントから離れた場所で行っていることも暗黙の了解だった。
だからその日、自己鍛錬に出掛けるグローレンに違和感を覚えることは無かった。当たり前だ、彼の日課であり、リュート達にとっては日常なのだから。
しかし、今日のグローレンは少し様子が違った。
甘い桃色の香りに誘われるように、目から光が失われたグローレンは魔物が住む森をふらふらと歩いていく。
不思議なことに魔物達がグローレンの前に現れることは無かった。魔物達が群生している、危険地帯の魔王領にも拘らず……である。
「うふふ❤︎ 予想通り来てくれたわねぇ❤︎❤︎ いくら屈強な武闘家といっても所詮は男❤︎
グローレンを森の奥深くに誘ったのは六魔将軍のアブラヘルだった。
アブラヘルは指を鳴らすと同時に森の蔦を操作してグローレンを縛り付け、手をパンと叩いてグローレンの催眠を解く。
「こ、ここは!? だ、誰だ貴様は! 魔王軍か!!」
「うふふ❤︎ はじめましてぇ❤︎ アタシはアブラヘル――六魔将軍の一人で侍女長をしているわぁ❤︎ アナタにはアタシの仲魔……誤字じゃないわよぉ❤︎ 仲間の淫魔になってもらいたくてねぇ❤︎ 呼んじゃったわぁ❤︎」
「俺がお前らの仲間になどなるか! 俺はリュートの仲間だ!
「うふふ❤︎ 威勢だけは良いわねぇ❤︎ アタシはそういう風に絶対に屈しないって子を少しずつ快楽で染め上げて従順で淫靡な妹に調教するのが大好きなのよぉ❤︎ アナタは今夜中にアタシのことをお姉様って呼び慕う立派な
アブラヘルが闇の宝珠を破り、そこから猛烈な闇がグローレンに襲い掛かった。
闇はグローレンに纏わりつく。刹那、グローレンの身体中を快楽が駆け巡り、筋骨隆々だった身体は柔らかくしなやかな細身へと変わり、骨格が変えられ、男のシンボルが消失し、代わりに別の器官が生まれ、平らだった胸には立派な双丘が生まれた。
ロリ巨乳の
「可愛くなったわねぇ❤︎ さて、それじゃぁ❤︎ 調教を始めましょうかぁ❤︎」
アブラヘルは恍惚とした表情を浮かべながら蔦に囚われたグローレンに近づいて淫紋に触れ。
次の瞬間――グローレンの身体が痙攣した。
アブラヘルが使用したのは〈痛みを快楽に変える魔法〉だ。そして魔法を使用すると同時に蔦で一気に締め上げ、グローレンに快楽を与えたのである。
たった一撃で絶頂に達するほどの快楽がグローレンを襲う……が。
「俺……は、こんなことで、屈しない。俺、は、リュートの、
「アハハ❤︎ なかなかやるわねぇ❤︎ そうこなくっちゃ❤︎ 簡単に堕ちてしまったらつまらないもの❤︎❤︎ 今の魔王妃様も堕ちるまでには結構な時間が掛かったわぁ❤︎ アナタはどれだけ耐えられるかしら?」
アブラヘルは召喚術で媚薬を帯びた。触手を呼び出してグローレンの秘部を責めつつ、蔦で痛みを与える。更に口の中に強力な媚薬を触手を使って流し込んだ。
常人では耐えられない、快楽の波。幾度となく訪れる絶頂にもグローレンは鋼の意思で耐えた……しかし、耐え切ることはない。夜はまだ始まったばかりだ。
「お、俺は……おれ……は、ひゃん❤︎ アン❤︎ おれ……は、私は…………ダメっ……も…々もうっ……イッちゃ……いやあああぁっっ…………私は……あたしは…………アタシは……」
絶頂を迎える度に淫靡な匂いがグローレンの淫魔の身体から溢れ、その匂いが、全身からぬらぁと溢れる濃厚なフェロモンの蜜が、更にグローレンを苦しめる。
それでもグローレンは抗った、抗い続けた……そして。
「ごめん……なさい……❤︎ リュート、アタシ、快楽には抗えなかった……よ❤︎ あああぁっっ」
快楽に塗り潰されたリュートへの謝罪と共にグローレンの残滓は完全に消滅し――。
「お姉様❤︎ おはようございます❤︎ アタシ、生まれ変わって清々しい気持ちになれましたぁ❤︎ お姉様、アタシをもっと気持ちよくしてください❤︎❤︎」
グローレンだった
「うふふ❤︎ 可愛い可愛いアタシの妹……アナタの名前は今日からメアリーよ❤︎ メアリー、もっともっと気持ちよくしてあげるわ❤︎ でも、それはお仕事が終わったらね❤︎」
「うん❤︎ 分かったわ❤︎」
その夜、生まれた
(……アタシがリュートを殺せば、お姉様はもっともっと褒めてくれるわ❤︎ いっぱいいっぱい快楽を与えてくれる……あぁん、楽しみだわぁ❤︎)
グローレンの姿に戻ったメアリーはアブラヘルに可愛がられる自分を想像しただけでメスイキしてしまった。
◆
【三人称視点】
『お父さん、お母さん、見て! テストで百点を取ったんだよ!!』
自力で百点を取った……それが嬉しくて少年は父親と母親にその喜びを分かち合いたいと思ったのだが……。
『どうせ力を使って取ったんだろ? そんなことより俺をもっと裕福にしてくれ!』
『ママね、欲しいバッグや宝石があるの……力を使ってママにプレゼントしてくれないかしら? してくれるわよね? だってママの子供ですもの』
少年の努力の結晶などそっちのけで父親と母親は少年に求めた。
もっと裕福になりたい、もっと美しくなりたい、もっとカッコよくなりたい、これが欲しい、あれが欲しい……。
『僕は……そんなことしたくない』
『ふざけるな!! お前は俺達の息子だ! 俺達のために尽くすのは当然だろ! さあ、金を寄越せ、俺をもっと裕福にしろ!!』
殴られ、蹴られ、少年は泣いた。しかし、それでも親は暴力を振るうことをやめない。
少年は暴力を振るわれたくなくてまたしても力を使った。痛いのが嫌なだけではない……大好きな父親と母親が暴力を振るうということが嫌だったのだ。
親達は満足すると父親はどこかにふらふらと行ってしまい、母親は自室に篭ってしまった。
『……僕はこんなことを望んでいなかったのに、ただ、僕はお父さんとお母さんと幸せに暮らしたかっただけなのに』
◆
【三人称視点】
リュートが起きると寝汗をびっしょりとかいていた。
「どうしたの? 嫌な夢でも見たのか?」
ジェシカが心配そうにリュートを見つめた。
「░░░、░░░░夢だった……」と言おうとして、自分の伝えたい感情が分からないことに気づいた。
「うん……ちょっと、ね。こういうのってどう言い表せばいいんだろう?」
「……変なリュートだな」
しかし、それ以降ジェシカがリュートの夢に言及することはなく、リュートも考えるのがどうでも良くなって夢のことを忘れてしまった。
「おはよう!」
「今日はちょっと遅かったな。どこまで行ってきたんだ!」
「なかなかいい場所が見つからなくてな、気づいたらこんな時間になっちまった……リュート、ちょっといいか?」
「ん? 寝起きで頭の回転速度が八割くらい落ちているけど……」
「「それ、大丈夫じゃないよな!」」
思わずツッコミを入れてしまうジェシカとグローレン。ちなみにこれはリュートズ・ジョーク……まあ、アメリカン・ジョークみたいなものである。ウォーロン達は分かっていて適当に流せるのだが大真面目な二人はまともに突っ込んでしまう。それが楽しくてたまにリュートは二人に意地悪をしてしまうのだ。勿論、悪気があるわけではない。
「格闘のことなら私はよく分からないし……そうだ。私、エレインさんのところに行って料理を手伝ってくるよ」
「「おい、やめろ!!」」
「……えっ? 何かいけなかったか?」
一見生活力が高そうに見えて実は脳筋な女騎士のジェシカ。彼女が作る料理は八割がポイズンクッキングになってしまい、残り二割は
ジェシカ自身はそれに気づいておらず、絶対に気づかれないようにジェシカを料理から遠ざけることが暗黙の了解になっていた。
「い、いや、ジェシカは遅番の野営で忙しかったと思うし、一度仮眠を取るべきだと思ってね」
「そ、そうか。すまないな、リュート、グローレン」
ジェシカが女性二人用のテントに戻ったことを確認し、安堵の溜息を吐いたリュートとグローレン。
グローレンはリュートを連れて森の中を歩いた。
「ところで、どこまで行くんだ?」
「イイところがあるんだよ。自己鍛錬中に見つけたんだけどな」
森の奥深く……既にテントからはかなり離れてしまった。
「さて……ここら辺でいいか?」
「ところで、一体何の話をするつもりだ? 確かに多少なり武術の心得はあるが、グローレンに教えられることなんてないだろ……………ん? グローレン?」
普段のグローレンなら絶対にしない淫靡な笑みを浮かべるとその姿が歪み……。
(思えば確かに今日のグローレンはおかしかった……なんというか少し色っぽかったんだよな。男に欲情するとか遂にイかれたかと思ったけど)
「……お前、一体何者だ。グローレンをどこへやった。まさか……殺したのか?」
「グローレンならここにいるよ❤︎ お姉様のお導きでアタシは生まれ変わったの、今のアタシはメアリー、
メアリーは確信していた。リュートは絶対に仲間を傷つけられないと。グローレンの記憶を持っているメアリーにはそれが分かっていた。
「あっそ……魔に落ちちゃったか。なら、
「…………へぇ?」
――だからこそ、意味が分からなかった。何故、自分が何の躊躇いもなく真っ二つにされたのか……。
「…………リュート……」
完全に消え去った筈のグローレンの残滓がリュートに「何故だ!」と叫んでいたが、リュートはグローレンだった
「どういうこと、なの! だって貴方は、仲間を殺せない筈!! …………許せない、よくも、よくも私の妹を!! 可愛い可愛いメアリーちゃんを」
「あっ、可愛いんだったら巻き込まなければ良かったのにね。巻き込んだのは君でしょ? 俺に文句を言われても困るなぁ」
全てを飲み込むような漆黒の瞳を炯々と輝かせ、しかし表情は無表情のままアブラヘルに一歩ずつ近づいていった。
「絶対に許さない!! 行きなさい! 森の蔓達!!」
アブラヘルの命に従い昨晩グローレンをメアリーに堕とした蔓が今度はリュートの命を奪うために殺到する。
しかし、リュートの人外の速度で放たれる斬撃に対応できず蔓は細切れとなって落下した。
「貴方、それでも
動揺を誘おうとした訳ではない。これがアブラヘルの想いだった。
アブラヘル達魔族にとっては
リュートは困った表情を浮かべた。
「だって……俺って
「……………………はっ?」
予想外の爆弾発言にアブラヘルの思考は完全に停止した。
「元々は俺の住んでいた村が襲われてね。いや、たまたま住んでいた村だし、地域住民との仲はあんまり良くなかったからなんの未練もなかったんだけど……でも、俺の平穏を脅かしたのは事実だよね。だから魔王退治を決めたんだよ。魔物の王様だし……で、魔王討伐といえば
「…………聖剣を、洗脳した……だと。いや、そもそもそんな理由で魔王討伐を……」
「そんな理由? お前達にとってはそうかもしれないけど、俺にとっては一大事だよ? だって住処を荒らされたんだから。俺は静かに暮らしたかったんだけだし。……でも少しは感謝しているんだよ?
その仲間だと思っていた相手をいくら魔に堕ちたからといって呆気なく殺したのは目の前の
「ゆるさない…………ゆるさない…………。化け物! お前は魔族にとっても人間にとっても害のある存在だ! 絶対に、絶対に殺さなければならない!!」
「あっそ、できるものならやってみるといいよ。……俺は君を逃す訳にはいかない。君無しでグローレンが死んだことを説明するのは骨が折れる」
アブラヘルは自分の実力では絶対にリュートには勝てないことを理解していた。だからこそ一時撤退して魔王軍と情報を共有しようと思っていたのだが……。
「
アブラヘルは空を飛んで撤退しようと考えたが翼が動かなくなった。
まあ、当たり前の話だ。この翼では空を飛ぶことはできない……ただの飾りなのだから。
「って、それなら何故アタシは空を飛んで撤退できると思った…………これまで空を飛べると勘違いしていたのか?」
アブラヘルは混乱していた。それでも撤退しなければならない。
翼が動かないのなら足を使って逃げればいい――。
「
その瞬間、アブラヘルは立てなくなった。足が不自由なのだから歩けないのは当然だ。
「……どういうことだ。それなら、どうやってここまでアタシはここまで歩いてきた? くっ、こうなれば」
足が使えなければ匍匐前進をするしかない。
「
腕がぐちゃぐちゃになり、アブラヘルは今更ながら痛みに悶えた。しかし、それでもアブラヘルは伝えなければならない。
死の覚悟はした。リュートに悟られないように一本の触手を召喚して、短いメッセージを残す。
「そろそろ死んでもらわないとね。
「やめて! アタシの愛しい妹の……メアリーの記憶を消さないで…………メアリー? メアリーって誰だっけ? アタシが戦ったのはグローレンで、グローレンに殴られて……」
アブラヘルが自分の死を自覚した瞬間、アブラヘルは死んだ。
いつの間にかメアリーの死体は消え失せ、安らかな顔のグローレンの死体がメアリーの死体があったところに横たわっている。
「さて……このことをみんなに伝えないと……」
その時、リュートは自分が涙を流していることに気づいた。
「なんで……俺、泣いているんだろう」
――なんなんだろう、この気持ち。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます