攻略❃ジグラート大迷宮 後篇
異世界生活百六十五日目 場所ジグラート大迷宮
『何故だ! お前は『白崎達と共に居たい』と思い、『エリシェラ学園に客員教授としてい続けたい』と思い、『この世界で出会った沢山の人達と離れたくない』と思いながら、『地球に帰還したい』、『浅野達の元に帰りたい』と矛盾した感情を抱いている。自分をモブキャラではないと、最早平凡な存在ではないことを理解しつつも、それでもモブキャラと認識しようと自己暗示をかけ、モブキャラとして振る舞おうとする一方で、
はぁ……やっぱり所詮は虚像。この程度か。
俺をコピーしながらも、まるで俺という存在を理解していない。
『まさか、お前は
挙句全く見当違いの解答に到達しているし……
仕方ない。全く俺という存在を理解していないお前に、俺がどういう奴かを教えてやるか。
「……はぁ、そんなことも分からないのに、それでも俺の姿形を取るのか? まあ、いいけど、そういう試練なんだからな。……確かに俺にもこの世界に残りたいという気持ちはある。聖に会わなければ、彼女が沢山の人に巡り合わせてくれなければ、きっとこんな風に思うことは無かっただろう。でもな、選べるのは一つだ。どちらも欲しいなんて子供の我儘が通用する訳がない……例え、神だろうとこの方則には逆らえない。……正直この世界に残るってのは魅力的だったよ。だからこそ、俺は白崎達を倒すって形で異世界カオスに残るという魅力的な選択の誘惑を断つしか無かったって訳さ。……正直分からないよ、どっちが正解なんだって。浅野教授達は確かに俺の恩人だが、この世界で出会った人達も
まあ、記憶があったところで俺の葛藤が理解できる訳がないよな。何せ、俺自身は徹頭徹尾「地球に帰還したい、そのためなら例えどんなものでも踏み躙る」って言い続けてきたのだから。まあ、あれも一種の自己暗示に近いものだったって訳だ。そうしなければ判断が鈍くなるくらい、この世界に来てから俺にとって大切なものが沢山できた。
「どうせお前には一生分からないんだ。考えるのをやめたらどうだ? お前は強化されなければ弱体化もされない――その結果だけで十分だろ? んじゃ、最終ラウンド開始といこうか」
【嫉妬之魔神】で【希望之聖神】を封じ、発動するのは即死耐性貫通即死と即死の効果を組み合わせた【冥府之神】、物体のみならず魂さえも消滅させてしまう光の速度の神聖力を扱う【霊子崩壊】が発動可能な【霊煌ト不見力之妖魂神】、直接触れたものや自分の武器で触れたものから体力、魔力、プラーナ、呪力、妖力、神威、精霊力、神気を吸収することが可能な【色慾ト強慾之淫魔神】とエルダーワンドのコンボ、HPを強制的に1にする【残酷な天使の抱擁】、【物理無効】を貫通する【無慈悲な天使の破壊の翼】、99999999の固定ダメージで【オールウェイズ・ワン】を貫通する【そして世界の終末を告げる喇叭は吹き鳴らされた】――オーバーキルにも等しいスキルの応酬だ。
流石の俺の虚像も対抗することはできなかったようで、為す術なく消滅したようだ……いや、いくらスキル名を口にしていないとはいえお前も俺だろ? これくらい予想して【流轉の理】を発動しろよ! そうすればこのスキルの応酬は余裕で回避できただろうに。
虚像を倒したことで俺も試練達成が認められたらしい。視界が白一色に染まり、次の瞬間――俺は目の前に巨大な扉が聳える大部屋へと転送された。
◆
「……ふん、随分と時間が掛かったようだな。所詮は平和ボケ日本人か」
開口一番から徹頭徹尾嫌味なインフィニットの言動を無視して、白崎達と合流する。
いつもより機嫌が悪いインフィニットだが、まあ過去を堀くじ返されたのだから致し方ないか。
「どんなに強くなっても肝心な時に守れないなら意味がないよなァ」とか「能因草子なら西村裕司と坂口柚月を救えたかもしれないなァ」とか……随分俺を買い被ってくれるな。俺はただのモブキャラなんたが。
まあ、インフィニットにはインフィニットなりの思惑がある。インフィニットの過去を無かったことにはできないが、
「白崎さん達も無事に攻略できたみたいだな」
「うん……色々と耳の痛い話だったけど、それでも覚悟していたことだし、それでも頑張るって決めたんだから、本当に今更だったよ」
しかし、白崎達がここまで覚悟して頑張ろうとしていることってなんだろうね? やっぱり世界を平和にするとか、そういう荒唐無稽と言われても仕方ないことなのかな? でも、白崎達ならきっとできると思うよ、うんうん。
「アストリアさんとリーリスさんは
「…………本当は別の願いで
「ちっ、鈍い男め」
アストリアが顔を赤らめ、リーリスに睨まれたんだが……いや、なんで俺が悪いみたいになっているの?
「草子君、遅かったね」
「草子さんならもっと早く来ると思いましたが……意外と遅かったですね」
「まあ……ちょっと興味があることがあってね。相手が虚像であっても俺なんだから文学知識で勝負できるんじゃないかって第六千四百問くらい問題を出し合っていたんだよ」
「…………何をやっているんだ! 時は金なり、そんな無駄なことに時間を空費して……もっと早くできたなら速攻で攻略しろ!」
……五月蠅えな、シュゼット。そこの
気づいた時にはシュゼットが涙目だった……あっ、殺気垂れ流していたかも。春彦達が失禁仕掛けているのは余波で煽りを食っただけで、決して狙って殺気をぶつけた訳ではありません。えっ、その文脈だとまるでシュゼットの方は狙って殺気をぶつけていたみたいだって? サア、ドウデショウネ。
「時間を大切にする気持ちは美徳だとは思うよ。……だけど、それを他人に押し付けるな。みんなそれぞれの時間の使い方があるんだ。それを否定するってことは……時間ばかり気にしてクソつまらない生き方を止めて、遊び心と効率を共存させる俺の時間の使い方を押し付けるぞ? ……嫌なら自分の価値観を押し付けようとするな。俺はそういうの嫌いなんでね」
俺がやっているのはあくまで参考までに、であって、基本的に価値観を押し付けることはない。まあ、どうしても許せない他人の価値観には真っ向からぶつかって命諸共破壊することもないことはないが(イヴとか紅葉とか)。
まあ、
シュゼットは両目に涙を浮かべてコクコクと小さく首を縦に振っていた。まるで水飲み鳥だな、と思いつつ華麗に放置。
「流石は真の男女平等主義者を称する草子君。女性にも容赦ないわね……でも、草子君って女性でもある訳だし、世間的な女性を泣かせる最低な男の構図にはならないわよね」
……うむ? 聖よ、俺は正真正銘の男であって女では断じてないんだが……えっ、カタリナ様? あれは演技で……おい、誰だ? 白々しいって言った奴は。
「まあ、とにかく次の部屋がラストみたいだし、そこのせっかち姐さんが五月蠅いからとっとと行きましょう、そうしましょう」
さりげなくシュゼットに追加ダメージを与えておくことも忘れない。
扉を蹴り飛ばして中に入る。ジグラート大迷宮の最奥――そこで俺達を待ち受けていたのは、
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海洋母艦ナンム・データ
HP:9999999/9999999
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ATTENTION
このAR空間でHPが0になった場合、部屋の外に転送されます。一度敗北後、一時間は再挑戦できません。
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・
→メイン主砲だよ! 質量をエネルギーへと変換して超圧縮して解き放つよ!
・
→砲台の一つだよ! 広範囲に超重力の断層を作り出し、射線上にあるあらゆるものを押し潰すよ!
・
→砲台の一つだよ! 砲撃した対象を原子レベルに分解するよ!
・
→砲台の一つだよ! 高密度に圧縮した精神波を打ち出すことで霊的存在にもダメージを与えるよ!
・
→砲台の一つだよ! 本来存在しえない同座標の亜空間を無理やり生成し、そこにあったものや周囲のものを亜空間ごと世界の修正力によって消し去るよ!
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はい、海みたいに水が張られたエリアに現れたのは海洋母艦ナンムのデータです、コンチクショウ。もう、ね。過去最低レベルの遺跡じゃないかな? まあ、簡単に攻略できるのならそれに越したことはないのだけど。
「【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】」
原子核の混沌世界の究極的破壊エネルギーが海洋母艦ナンムのデータに命中し、HPゲージを吹き飛ばした。一撃必殺……うん、ヌルゲー過ぎる。
反対側の扉が開き、俺達は扉の先の階段を降りて無数の箱が網の目のように繋がれている中央制御ルームに移動。ここまで二分。
「ここが……マルドゥーク文明の叡智の結晶」
予想外だったのであろう状況に目を奪われる壬達を放置して――。
「エンリ、ギシュヌムンアブ遺跡の位置情報の残骸を中心にここで入手可能な全ての情報を記録しておいてくれ」
エンリに情報収集を任せて暇潰しに読書を開始した。
◆
【草子様、ギシュヌムンアブ遺跡の位置情報データ――統合完了致しました。座標を地図に当てはめて可視化致します】
エンリに情報収集を任せてから一時間半、エンリはジグラート大迷宮最奥部のシステムを利用してギシュヌムンアブ遺跡の座標を映し出した。
しかし……この世界地図、奇妙だな。まるで南半球だけ切り取られた地球みたいだ。まあ、大陸の形は全く違うんだけど。
「えっと……この近くの島って相沢が転送されたっていう島で、《異なる神》が最初に降り立った無人島――新生オリアブ島、ヴァパリア黎明結社の部門長達のオフィスがあるって噂のヴダーローゥア島の近くの無人島が入り口? ……いや、これ沈んでいるよね!? まさか、地殻変動による沈降で沈んだとか? ……もしかして、「
「……草子さん、頼●島じゃないですから流石にそういうことはないと思いますが……そうなると、海底から調査をした方が良さそうですね」
「レーゲン君の言う通りだな。……下手にヴァパリア黎明結社の連中に見つかっても面倒だし、新生オリアブ島、ヴダーローゥア島を回避するためにも海底を進んでいった方がいいだろう。幸い、新ルルイエと海洋国家ポセイドンには一度行ったことがあるから〝
別にギシュヌムンアブ遺跡に簡単に行けるように海洋国家ポセイドンと国交を樹立していた訳じゃないよ? たまたまだよ? ……こういう時だけ運がいいんだよな、俺。全く関係ないところで蒔いていた種が意外なところで身を結ぶんだよ。
「これでギシュヌムンアブ遺跡の調査が可能となりましたが、明日と明後日は国家同盟絡みで仕事があるので、実際の調査は明々後日を目処に開始しようと思いますので、皆様よろしくお願い致します」
異世界生活開始から百六十五日――いよいよ、高槻斉人に示された初期の帰還方法を手に入れるために必要な鍵を手に入れることができた。いや、長かったな。地球に帰還するという目的は変わらないが、その方法に大きな修正を加えるほどの長い時間だった。大切なものができて、気持ちが揺らぐこともあるほど長い時が過ぎた。
コンピュータYGGDRASILLを手に入れれば、いよいよヴァパリア黎明結社との全面戦争が幕を開ける。
開闢の魔法少女クレアシオン、アルフレート、ナイアーラトテップ、芳山充、そしてまだ見ぬ七賢者――お前達に勝利して、ゼドゥーの元に辿り着き、俺、いや俺達は【永劫回帰】を手に入れて必ず地球に帰還する。
――
だが、次はない。俺の平穏な日々を――文学研究に打ち込める楽しい日々を脅かす者に、俺は一切容赦するつもりはないんでね。
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