外伝:死霊術師と狂人教師❦二人のクラスメイトの裏切り、及び戦闘狂教師強襲❦

【三人称視点】


『あたしメリーさん。今回も見事にハズレなの』


 ライパルド帝国の帝都の傭兵職業安定所ハローワークで聞き込みをし、悉くハズレくじを引いた為家達。

 とりあえず人間の国を一周した為家達は一度ハンリッヒ教国、ミンティス教国、クライヴァルト王国とこれまでとは逆の道筋で【影法師】を捜索することにした。


 為家達がまだ調査していない町や村もある。一応傭兵職業安定所ハローワーク全体には調査依頼を出しているが、冒険者のネットワークに比べて何倍も劣る傭兵職業安定所ハローワークでは見つかるものも見つからないだろう。


 それくらいなら自分達の足で稼いで探した方がいい。


「戻るなら一度みんなの様子を見てみたいな」


『あたしメリーさん。そんなに戻りたいならもうパーティから抜ければいいと思うの』


「メリーさん、なんで貴女はそんなに極端なの!? 零か百しかないの? グレーは認めない系女子なの!! ……私は為家君と一緒にいたいけど、クラスのみんなの様子も気になるし……どうせ帰るならみんなと一緒に帰りたいなって」


『あたしメリーさん。偉大なる為家さんの慈悲でパーティに居られるだけの雑魚なのに、要求が一々多いの! どんだけ厚顔無恥なの!? こんな女には絶対になりたくないの!!』


「いや、メリーさんの厚顔無恥も大概だと思うけどな……正直俺はどっちでもいいよ。あいつらのために頑張っているじゃなくて、俺が帰りたいから帰ろうとしているだけで……でも、帰還方法を手にしてどうしたいかは、ここにいるみんなの自由なんじゃないかな? 今のところ俺、メリーさん、優姫さん、白姫さん……みんなに帰還方法をどう使うか決める権利がある。クラスメイトと一緒に帰りたいのならそのように行使すればいいし、優姫さんだってついてきたいならついてきてもいい。宇宙の法則が乱れようが、そんなことは知ったことではないからね。そもそも異世界召喚された時点で歪んでいるし……」


『あたしメリーさん。でも、あたし……クラスを選ぶっていうことは結局その程度の女ってことだと思うの。貴女の愛はその程度、あたしの海よりも深く、山よりも高い愛には敵わないの』


「はいはい、幼女に惚れられても全く嬉しくないからね。というか、どう考えもメリーさんは見た目年齢的に対象外だから。というか、そんなヤンデレじみた重い愛はいらない……」


「……為家君、一度だけ……クラスメイトの様子を見に行きたいな。決して、為家君以外が大切って訳じゃないよ? 私の中でも一番はいつでもどこでも為家君だから」


「はいはい、別に一番だろうと一番じゃなかろうとどうでもいいからなんでもいいよ? というか、未だに白姫さんが俺に惚れているって話が消化できていないんだけど……やっぱりあれだよね。後で手持ち看板持ってくる奴だよね?」


「ドッキリ大成功、でござるな! きっとそうでござるよ! 高嶺の花がオタク系男子に惚れるのはラノベの中だけでござる。というか、拙者らのように為家殿のより深いところまで理解していない女が為家殿に惚れる訳がないでござる!!」


「おい、優姫。それは、俺は深掘りしなければただのキモオタって言いたいのか? ……まあ、実際そうだと思っているし、深掘りしたところで薄っぺらい人間だって証明されるだけだけどさ…………あはははははははははははははははははははははははは」


 壊れた末に呪われた人形のようにカタカタと乾いた笑い聲を響かせる。予想外の人物から攻撃を受け、再起不能に限りなく近いダメージを負った為家であった。


 さて、為家達は帝都を出発し、ひとまずハンリッヒ教国を目的地と定めて旅を再開した。

 ハンリッヒ教国での目的はクラスメイトの状況を確認すること。それが終わり次第、再び【影法師】を探すためにミンティス教国、クライヴァルト王国とこれまでとは逆の道筋で旅をする予定でいたが……。



 ライパルド帝国の第二の都市、シュトレガーン。

 その雑踏の中で為家は遂に念願の相手を見つけた。


 白いもふもふとした耳と尻尾を持つ齢十三の美少女に、為家は視線は吸い込まれた。


『あたしメリーさん。【恋敵察知】が新たな恋敵の出現を察知したの!!』


「えっ、新たな恋敵!? 誰!? こんなに女の子を侍らせているのに、まだ足りないの!?」


「いや、白姫さんは勝手についてきているだけだし、メリーさんは見た目的に対象外だし、優姫さんは娘みたいなものだし、この中に恋愛対象はいないんだけど……てか、恋愛的に気になる人を見つけた訳じゃなくて、探し人を見つけたんじゃないかって話! ほら、高槻さんが言っていた白猫」


「つまり、その白猫を追えば【影法師】に辿り着けるということでござるな」


 ということで、尾行開始。白猫は油断し切っているのか、尾行を撒こうともせずゆっくりと喧騒の中を歩いていく。

 為家達も自然体を装いつつ白猫の後を追う。


 やがて、人気のない路地裏に辿り着いた。そこで白猫は足を止め――。


「もう尾行は結構ですにゃ。……はあ、ウチらをずっと探していたのですかにゃ? ウチらは裏の人間……当然表には出ないように努めるのですにゃが、こんな風に調べられるとそれだけで情報が広がって面倒なのですにゃ……まあ、怪しい奴らじゃないってことはこれまで尾行して分かりましたし、今回だけは特別です。私の主人あるじ様も面白そうな人達だと、いつもの癖を出していますし、特別に主人あるじ様から皆様に招待が来ています。どうぞ、私について来てください」


 似非猫の演技をやめた白猫――シャリスは為家達を先導し、曲がりくねった路地裏を進んでいく。

 その路地裏を抜けた先には人影一つない小さな空き地のような場所があり、そこには大八車を止めて伸びをしている特徴のないという以外に形容する方法がない男の姿があった。


「【影法師】さんですね?」


「まあ、それも俺の呼び名の一つであることは確かだな。尾藤為家、メリー、御子左優姫、白姫花織だろ? 情報は集めさせてもらったよ……しかし、裏世界の人間じゃないのに、よく俺の異名を知っていたな」


「高槻斉人さんという方の紹介で参りました。なんでも高槻さん以上に信用できるお方ということで……こちら、書状になります」


「おっ、高槻さんか。元気そうだったか? そりゃ良かった……ほうほう、為家とメリーが地球に帰還するために協力してやってほしい……つまり、皇響夜に協力を求めたいからその中継ぎをしろってことか。そういえば、白猫さんもその地球出身なんだろ? 帰りたいと思ったことはないのか?」


「いえ、全く? 私は既に一度死んで転生した身……つまり、吉岡愛莉という女はもう居ない筈ということです。鬼籍に入っていますし、主人あるじ様の力を持ってしても死んだ人間を生きていると偽装するのも戸籍を偽造して新しい身分を得るのも大変かと……面倒な上にそれをする利点がほとんどありません。それに、万が一この姿を晒した時、ハロウィンの時期ならともかく、仮装という言い訳が通りにくい時期に猫耳と尻尾のある女の子が歩いていたら事件ですからね。捕まったら解剖されたり見世物にされる運命でしょう。まあ、今の私なら国を相手にして立ち回ることもできますし、捕まるようなヘマはしませんがやっぱり面倒です」


「まあ、転生者リンカーネーターが前世に帰還っていうのも意味不明だからな。転移者トラベラーが帰還したいって思うのは納得だけど。……ああ、いいぜ。皇響夜に頼んでお前らの世界に送り届けてやる……まあ、座標を調べるのが大変だろうから……そうだな。元の世界の持ち物を預かった上、数ヶ月くらいは欲しいかな? それくらいは待てるだろ?」


『あたしメリーさん、もっと……「はい、大丈夫です。寧ろ数ヶ月で十分なんですね?」


 メリーさんが余計なことを言いそうになったので素早く口を押さえて変なことを口走らないようにしつつ、了承する為家。


「まあ、急いでくれるように頼んではみるが……他に仕事を抱えていたらちょっと遅れるかもな。俺も直属の上司ではないし、権力を振りかざしてこれをやれって指図するのは好きじゃないんだ。まあ、善処はしてみるよ」


 メリーさんは不満足そうだが、為家の中では十分過ぎる回答だ。

 異世界召喚をされる時点で帰りのない切符なのは確実、帰ろうとしても今為家が読んでいる小説では【概念魔法】の獲得が前提になる。


 それを、見つけることが困難とはいえ、協力者の協力をあっさりと取り付け、帰還の算段ができている。神殺しのような危険性もない……寧ろでき過ぎにすら思える展開だ。


「ところで、お前達はこれからどうするんだ? 特に用事がないなら俺達と一緒に行商の旅でもと思うんだが……その方が情報を伝えやすいしな。勿論、裏側には関わらせないから安心しろよ。帰還を願う……つまり、この世界と無関係になろうとしている奴に、わざわざこの世界の裏側ダークサイドに踏み込ませるとか意味不明だからな」


「お気持ちはありがたいのですが……私達と一緒に召喚されたクラスメイトにも帰還ができることを伝えたいので、少し時間を頂きたいです」


「なるほど……最近勇者召喚が行われた国……ってことはハンリッヒ教国か? あの国は最近キナ臭いからな。気をつけた方がいいぞ」


「キナ臭いっていうと、なんちゃって不良が暴れているとか? 勘違い勇者が他人に迷惑を掛けているとか? その辺りでしょうか?」


「いや、もっと大きな問題だな。国のシステムそのものに支障が出始めたというか、なんとなく機械的に動いているというか、軽い受け答えはするもののなんだかチグハグした感があるというか……まあ、あれだな。多分その他情報を勘案するに強化された尸解術……【降霊術】の強化版ってところだろうな?」


 あれ? この展開どっかで見たことがあるな? 神の使徒を名乗る銀髪天使女が神山で仕掛けてくる章に起きたクラスメイトの裏切り、そういえばそいつの名前って恵里で同じクラスの女と同じ音だったな〜、そういえば職業も死霊術師ネクロマンサーだったっけ……でも、まさかね。とほとんど答えが出ているのにそれを放棄する為家。


「もしかして……クラスのみんなも?」


「【降霊術】の強化版で国の支配が進行しているのなら、召喚されたクラスメイトも殺されている可能性が高そうだな。……まあ、危険なのは間違いないだろう。……それでも行くのか?」


「はい……あの城には俺の師匠だった方々がいるので、安否を確認しに行きたいので」


『あたしメリーさん。健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、あたしは為家さんと共にいるの!』


「私もクラスメイトのことが心配だから」


「せ、拙者も――「【影法師】さん、白猫さん。優姫さんのことを頼めますか?」


「な、なんで!? 拙者も戦えるでござる! もう弱くはないでござる!!」


「預かるのはいいが……理由を聞いてもいいか?」


「優姫さんは俺のクラスとは全く関係ありまさんし、死ぬかもしれない戦場に娘みたいに思っている優姫さんを連れて行く訳には参りません。まあ、優姫さんにとっては不本意でしょうが、これが俺の想いです。……いえ、我儘、エゴみたいなものと言うべきかもしれませんね」


「……なるほど、エゴ、か」


「ということで、必ず帰ってくる・・・・・・・から・・それまでいい子で待っていてくれ」


「む……拙者はもう子供ではないでござるよ。分かったでござる、必ず帰ってくる・・・・・・・でござるよ!」








































 御子左優姫は、当時を振り返り後悔の念を口にする。

 あの日、同行していれば……ということではない。

 例え同行したとしても当時の優姫如きに運命を変えられるほどの力は無かった。


 優姫が悔やんでいるのは、あの時三人の大切な仲間を説得して引き止めなかったこと。

 勿論、危険なことは理解していただろうし、死の覚悟もしていた筈だ。だが、やはり必ず地球に帰るという希望が為家と白姫の中にあったのは間違いない。


 もし、死ぬことが分かっていたらクラスメイトなど放置して表舞台から身を隠していただろうか?

 為家はしただろう。白姫はそれでもクラスメイトの元に向かっただろう。

 白姫と為家が揃っている状況の中で、二人がどのような選択をしたかは分からない。


 優姫は一人残されてしまった。大切な人を失い、仇を討つためにヴァパリア黎明結社に入った。

 大切な人を奪った敵を殺すために、その力を得るために、その人と同じ組織に入り、復讐の機会を狙った。


 結局、その復讐は果たされず、御子左優姫はインフィニット=ショットシェルに敗れる。

 そして、果たされる筈の無かった御子左優姫の敵討ちは、意外な形で果たされることになる。



 歴史に基づけば負けが確定した戦。為家、メリーさん、白姫の三人はその決戦の地となるハンリッヒ教国に赴いていた。

 同じ頃、天河捷利のパーティも城に戻り、期せずして全ての役者が揃った。


 武、英里両名は捷利達を油断させた状態で屍傀儡兵デス・ソルダートを使い包囲した上で攻撃を開始、その上で自らの正体を暴露。

 その場に為家達も遭遇する形となり、武の要望に応じる形で英里は白姫を手に入れるために屍傀儡兵デス・ソルダートを差し向ける……が。


「【神速錬成】・【変質錬成】・【土壌錬成】――《対城兵装・ダークエネルギーオルガノン=波動砲》」


 為家が瞬間的に錬成した波動砲が白姫に差し向けた屍傀儡兵デス・ソルダートを悉く消し飛ばした。


「……あっ、俺を魔法陣に落とした不良とそこの死霊術師ネクロマンサー、グルだったみたい。――メリーさん!」


『あたしメリーさん。分かっているの! 為家さんに危害を加えた悪行、お前達の命二つでは償い切れないけど、仕方ないから二つで我慢してあげるの! 【あたしメリーさん。今 あなたの後ろにいるの】!!』


 白姫が止める間もなくメリーさんが武の背後に回り、包丁を振りかざした。

 武に突き刺してから引き抜いた包丁を舐め、ニヤリと仄暗い笑みを浮かべるメリーさん。


 残念ながら、武以外の不良達は全て武が協力を取り付けるために生贄として捧げたようで全て屍傀儡兵デス・ソルダートに変えられている。


「え…………英里、助けて、くれ」


「無理ね……僕には治療の力はないからね。それこそ、そこにいる君の彼女さんの得意分野だから、僕は君の彼女さんを傀儡に変えて君を癒してあげるよ? そうすれば、君も癒せるし、君は白姫を手に入れることができる。一石二鳥だろ?」


「ってことだけど、この期に及んで助けるとか言わないよね? 白姫さん?」


「心苦しいけど……貴女達を野放しにすることはできないよ。英里さん……私は貴女を殺す。クラスメイトとして、その息の根を止めることで、これ以上の過ちを犯さないようにする!」


「……まるでヒーロー気取りだね。昔から僕はお前が嫌いだったよ。捷利君を虜にしたくせに、自分はそんな冴えない男に夢中で……お前がいたから捷利君は僕のことを見てくれなかった!!」


「まあ、心底どうでもいいけど。決着をつけるなら人の領域を逸脱する前にこの二人にとどめを刺した方がいい……というか、畑山先生の姿が見えない上に、どう見ても屍じゃない、目がいっちゃったクラスメイトがいるんだけど……こっちはどうすればいい?」


「甘いことを言っている場合ではないわ。襲ってくるなら手段を選んではいられない」


「了解。じゃあ、こっちの連中は俺が仕留めるから……メリーさん、そこの似非不良にトドメを」


『あたしメリーさん。死ね、なの!!』


 大量の包丁が虚空から降り注ぎ、武へと襲い掛かる。

 武は時間的にも体力的にも抵抗できず、降り注ぐ包丁を全てその身に受け、絶命した。


「【神速錬成】・【変質錬成】・【土壌錬成】――《対城兵装・エレクトリカルオルガノン=ガトリング》」


 「先手必勝、何かされる前に潰せ」が最近の合言葉の為家は先手から容赦なく対城兵装を使用し、名倉静江、嵯峨巽、鳥羽晶司、菅沼美影、宮崎史緒里、四葉心優を撃ち抜く。

 人間躊躇したが最期……それを理解している為家の攻撃に容赦はない。


 殺るか、殺られるかの瀬戸際で生きてきた為家は自らも知らぬ間に甘さを捨て、白髪の錬成師のような急激な変心を経ずに他人の命を奪い、殺す覚悟を獲得していたのである。

 そして、それは白姫も同じであり、例えクラスメイトであろうとも殺すのを躊躇うということはない。


「やっているやっている……ああ、出遅れたから楽しみが減ったかと思っていたが、いい感じに淘汰されて強そうな奴ばかりになっているようでかえって良かったかもしれないな。しかし、随分容赦なく戦うようになったな、為家。例えクラスメイトでも容赦なく殺す……それくらいの冷酷さを身につけていなければ楽しめない」


 城の最上階からスカイダイビングを敢行し、石畳にヒビをいれながら涼しい顔で埃を払う身長百八十センチの妖艶な長身の女。


「…………畑山愛梨子先生?」


「いや、私は畑山魔梨子だ。愛ではなく魔と書いて魔梨子。畑山愛梨子とは私のもう一つの人格であり、私の協力者であり、私の唯一無二の親友……そう呼ぶに相応しい相棒だ。彼女は消えた訳では無い。……まあ、畑山愛梨子の方も生徒思いの絵に描いたような女教師ではない。幻想はとっとと捨てるべきだよ」


「…………体格まで変化を及ぼす二重人格者。ディ●ボロとヴィ●ガー・ドッピオみたいなタイプってところですか?」


「……そんな、畑山先生まで……」


 流石に白姫も愛梨子先生まりこせんせいまで敵として現れるとは思っていなかったのだろう。

 勿論、敵対する意思を持つ相手に無抵抗のままでいるという訳ではないが、それでも内心ではショックを受けていた。


 白姫は気丈に振る舞っているが、その精神は同郷のクラスメイトと戦わなければならないという望まぬ状況と、信じていた者達に次々と裏切られたということで、既に大きく疲弊していた。


「先に断っておくと、私はそこで死んでいる武や今回の一件を企てたもう一人の元凶である英里よりも遥かに強い。自慢ではないが、魔法の国の魔法少女の戦闘サークル《魔皇會》では五本の指の中には入るほどの実力者だったからな。まあ、この性格だから放逐されてしまったが……それに、私は変身せずとも中東のゲリラや日本の暴力団を壊滅させるくらいの力はある。ひ弱な、守られるだけの耕作師の女教師だと思っていたら大怪我では済まないぞ? では、早速仕掛けよう……と思ったが、その前に邪魔なゴミを処分しよう」


 そう言うや否や、魔梨子は目にも留まらぬ速度にまで加速し、明らかに動き辛いタイトスカートで屍傀儡兵デス・ソルダートに回し蹴りを叩き込んだ。

 蹴りによるものとは到底思えない肉の引き千切られ、押し潰される音とともに飛ばされた屍傀儡兵デス・ソルダートが超高速で英里へと襲い掛かる。


「………………はっ? 屍傀儡兵デス・ソルダート、僕を守れ!!」


 意味不明な状況を前になんとか正気を取り戻して状況を理解し、屍傀儡兵デス・ソルダートを盾にして魔梨子の攻撃から身を守った英里。


「これは本当に意味不明だね……目的の捷利君は手に入れたし、これ以上欲張って巻き添え食らって死ぬなんて恥は晒したくないし、僕はとっとと退散させてもらうよ。捷利君を誘惑した女狐のことは先生せんせ〜が息の根を止めてくれるだろうし。それじゃあ〜」


 屍傀儡兵デス・ソルダートに命令を下してとっとと撤退の準備を整える英里。

 興味を無くしたのか、魔梨子も英里を深追いしようとはせず、一気に人が退いた戦場には為家、メリー、白姫、魔梨子だけが残された。


『【奥義・包丁乱舞 極】なの! 喰らえなの!!』


 メリーさんが放った無数の包丁が、真の戦いの開始を告げる。

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