(急-乙):裏商人ギルド会議大掃討
異世界生活百五十九日目 場所フェニックス議国、砂漠の街デザートレーティア、裏商人ギルド会議本部
――漆黒の闇がシャリスを包み込んだ。
真っ白な猫耳と尻尾は黒く染まり、レディーススーツは闇によって溶かされ、バレリーナのような扇情的な衣装へと変わっている。
三対六枚の翼を持つその姿は、天界で最も位階の高い
幾何学模様の魔法陣のような光輪が闇に染まり、禍々しい存在感を放っている。
「私の超越技は希望も絶望も超える人間の最も深い感情――即ち愛を焚べることで際限なく愛を増殖させ、力に変える愛の無限炉です。増幅された愛は際限なく増え続け、ステータスも増強され続けていきますが、普通の精神力では愛に呑まれて正気を失い廃人となってしまいます。……これについては被験体を使って実験済みです。十全に使いこなすためには人並み外れた精神力が必要となりますが、私の
さて、どうやって攻めるか? この人、悪魔ほ●らさんと同じエネルギー源を無限に増幅させるとかいうとんでもチート超越技使いだし。
――息を吸う。
普通の呼吸ではない。途方もなく長いと錯覚させるような摩訶不思議な深呼吸。
――息を吐く。
吸った時と同じくらいの長さで、肺にある全ての空気を押し出すのをイメージして。
不自然なロングブレスの中で、自らの魔力を洗練し、練り上げ、全く別種の力へと変貌させる。
それと同時に【纏呪】で呪力を纏い、【六神通】と【裏六神通】を発動する。
「なるほど……仙術ですか。耐性を貫通する厄介な能力を使うようですね。ですが、この力をゼロ距離で防ぐ必要のある仙術で私のこの技を防げるでしょうか? 【惡魔之法・
漆黒の巨大なモヤッ●ボールが惡魔シャリスの手から産み落とされ、超高速で射出される……まあ、確かに素手だと痛そうだな、アレは。
「【魔法剣・
「
取り出したエルダーワンドを刀剣に変形させ、巨大化させた切っ先で漆黒の巨大なスパイクボールを破壊する。
「それは、まさか……【魔法剣】の先にある魔法とスキルの融合と言われる【魔法剣奥義】!? 特殊な型を使うことでただ魔力を消費して属性を付与することしかできなかった【魔法剣】を既存の魔法には存在しない剣技に最も最適化された魔法的剣技を発動するという伝説の技!! 感謝しますにゃ!! 貴方のおかげで私は【魔法剣奥義】を手に入れることができる!! 【模倣之皇】」
あっ……コピーされたか。しかし、こっちも収穫があったし、まあその対価としてくれてやったと割り切った方が良さそうだ。
しかし、あの特別な雰囲気漂う魔法剣は【魔法剣奥義】っていうのか……ダニッシュとか、教えてくれたら良かったのに……あっ、敵の俺にわざわざ情報をくれてやる必要はないのか。
「【魔法剣奥義】では【魔法無効】で防がれてしまうので、【惡魔之法】で代用して……我が愛の力よ、灼熱の炎となれ! 【惡魔之剣・
惡魔シャリスの愛の闇が形を成した剣に灼熱の炎が宿り、放たれた斬撃が蛇の姿となって襲い掛かってくる。……なるほど、これが【魔法剣奥義】……って感心している
さっきの剣技で【片手剣理】も獲得したらしく、一気に剣捌きが素人のものではなくなっている……愛の力で魔法のような奇跡を起こす【惡魔之法】も厄介だが、【模倣之皇】も十分危険だよな。
「〝極寒の世界の冷気よ! 死よりも冷たき愛で凍えさせておくれ! 魂を慄わす愛で包み込んでおくれ〟――〝
〝
さて……と。惡魔シャリス……流石は凖賢者というべきか。やはり強い。
何故、模倣系能力が強力なのか? それは、成長の余地があるからだ。
手札が増えれば、当然打てる手も増える。どんなものでも模倣できるのなら相手の能力を模倣し尽くして相手と同じ力を手に入れればいい。
「
さて……どうするか? 一度使った手はほぼ例外なく奪われる。俺の手の内を全て見せる前に惡魔シャリスに致命傷を与えなければならないが、【模倣之皇】の強化と愛の力のコンボはそう簡単に突破できそうにない。
そもそも惡魔シャリス自身、全属性の魔法が使用できる【全属性魔法】と幅を広げる【複数魔法同時発動】、耐性は貫通できるが無効スキルは貫通できない【状態異常付与 極】、全てのスキルを模倣可能? な【模倣之皇】、【確率操作】と確率を確定させて固定する【事象確定】という【因果無効】で無効化可能な確率系スキル、愛のエネルギーで発動する魔法に近い力【惡魔之法】、そして【模倣之皇】で獲得した【魔法剣奥義】と【片手剣理】……その中で十全に使えるものとなると【模倣之皇】、【惡魔之法】、【魔法剣奥義】、【片手剣理】くらいしかまともな攻撃方法がないが【模倣之皇】が凶悪過ぎて手札の多い筈の俺が追い詰められている。
このまま戦い続ければ長期戦になることは確実。そして、それは俺の選択肢を徐々に奪い、勝ち目を無くしていくことを意味する。
「……これは、確かに厄介だな。真面に使っているスキルが【模倣之皇】と【惡魔之法】だけってのがまた怖い。まあ、グラン=ギ・ニョールは【殺戮人形劇】だけでとんでもないバリエーションを生み出していたし、他の結社の部門長クラスもあんまりステータスが長い印象は無かったけど……俺が長いだけ?」
「さあ? 【神魔眼】を持ってしても貴方のステータスは鑑定できなかったので、比較対象が不明ですにゃ。……というか、今までの結社の部門長もよく得体の知れない相手に勝負を挑めましたね。それほどのエゴがあったのか……こんな底の見えない化け物、相手にするとか自殺行為ですにゃ。……まあ、ウチはそれでも戦うのですにゃけど」
「いや、化け物みたいな完璧超人の高嶺の花さんに褒められるほど凄くないっすよ。俺はただのモブキャラなので」
「一体どこの世界に貴方のようなモブキャラがいるのかしら!? どう考えてもファンタジーものの小説なら主人公……いえ、主人公っていうよりもラスボス? いえ、鉄●人やプロ●バブイルみたいな隠しボス? なんでそんなものが普通に異世界を冒険しているんだにゃ!? ……そもそも、高嶺の花になんてなりたく無かった。私は普通で居たかった!! 特別だって崇め奉られても、一銭の得にもならないの! 普通の女子高生らしく恋愛をしたくても、高嶺の花という立場がそれを許さない。そうやって生きていって喪女のまま一生を終えたのよ! この世界でアルフレート様に出会うまでまともな恋愛をすることはできなかった。高嶺の花だからっていいことは無いんだわ!!」
白崎が物凄い勢いで首を縦に振って「高嶺の花なんて今日限りでやめてやるわ! なったつもりないけど!!」って言っているけど……高嶺の花って自分で名乗るものじゃなくて周りが勝手につけるものだから、多分イメージを払拭するのは無理だと思うよ? 最近闇堕ち? し始めているのか、清楚で純粋無垢って雰囲気ではなくなってきているけどさ。
さて……そんなどうでもいい話はここでサクッと切り上げて、別にファンとか追いかけとかどうでもいいし、血で血を洗う争いを繰り広げて皆殺しになっても本望だろうし、正直どうでもいい。
真剣に惡魔シャリスを倒す方法を考えるか……うん、紅葉戦並の難易度だ。
とりあえず策はある。そして、可能性を高める方法も思いついた……ただ、望み通りに行くかどうかは定かではないけど。
相沢のステータスを弄るついでに拝借した(ただし返すとは言っていない)【模倣】のスキルは何故か消えなかった。
【強欲之魔神】っていう上位互換があるのにね。
もしかしたら、この二つのスキルには新たな可能性があるのかも知れない。もっとも、それが無理なら超越技を使ってとんでもスキルを作り上げるだけだが……。
やることは簡単。チートスキル【模倣】を
これは、普通の統合ではない。派生で新たな能力が生まれる訳ではなく、別種の能力を一から作り出すのだから。
故に、統合するのではなく、
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【強欲ト熟練之魔神】LEVEL:1
→強欲の名を冠する究極能力だよ! 模倣能力の究極系だよ! ほぼ全てのスキルを一度見ただけで完全再現するよ! 超越技は模倣できないよ! 模倣したスキルには回数制限がつかないよ! 模倣したスキルのレベルを最大まで引き上げるよ! これに付随して既存のスキルの熟練度も最大にまで引き上げられるよ! 【模倣】を生贄に捧げた【強欲之魔神】の上位互換だよ!
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↓
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【強欲ト熟練之魔神】LEVEL:MAX(限界突破)
→強欲の名を冠する究極能力だよ! 模倣能力の究極系だよ! ほぼ全てのスキルを一度見ただけで完全再現するよ! 超越技は模倣できないよ! 模倣したスキルには回数制限がつかないよ! 模倣したスキルのレベルを最大まで引き上げるよ! これに付随して既存のスキルの熟練度も最大にまで引き上げられるよ! 【模倣】を生贄に捧げた【強欲之魔神】の上位互換だよ!
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熟練のために努力することすらも放棄し、ただ結果だけを求める強欲な能力……そう考えれば、ある意味言葉通りの能力になったというべきか。
目当てのスキルが最大レベルになったことを確認した俺は、第二段階に進む。
「【正義ト分解之聖神】!!」
エルダーワンドに正義の力を宿したオーラを宿す。
持っているの中ではまだ模倣されても問題ない美徳のスキルだ。
「なるほど……あらゆるものを切り裂くスキルですか? ですが、私に新たな手の内を明かすということは【模倣之皇】で……な、獲得できない!!」
やはり、覚醒勇者や覚醒魔王といった特定の条件が揃うことが獲得条件のスキルは獲得できないか。
ステータス調整で覚醒勇者と覚醒魔王のスキルが動かせない時点で、なんとなく条件を満たさなければ獲得できないスキルもあると思っていたんだよね。まあ、一度獲得してから条件が満たされなくなった場合はステータスに残るけど使用不能になるみたいだけど。
【
会得条件と使用条件は別物ってことだな……まあ、基本的に両方を満たしている筈だから、わざわざこういうことを考える必要はないんだろうけどさ。
「喰らい尽くせ――【貪食ト支配之魔神】」
万物を喰らい尽くす黒い竜巻を右手から解き放った。
「【模倣之皇】……やっぱり奪えない! どうやら、私では模倣できない類いのスキルのようですにゃ。ちっ……【惡魔之法・
漆黒の闇――愛のエネルギーで作り出された壁が【貪食ト支配之魔神】の竜巻を阻む。だが、それでいい。――全て計算通りだ!
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【究極之愛ト惡魔之神】LEVEL:MAX(限界突破)
→希望も絶望も超える人間の最も深い感情=愛のエネルギーを掌握するよ! 惡魔の権能が行使できるよ! 無限に増幅はされないから愛の力を自らの感情で作り出す必要があるよ! 並の人間ではその愛に呑まれて正気を失い廃人になるから十全に使いこなすためには人並みはずれた精神力が必要になるよ! 漆黒の愛は自分の愛するもの以外のあらゆるものを拒絶し破壊する暴虐の嵐と化すよ!
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惡魔シャリスと超越技をスキル化して奪うという作戦――そのためには最低でも【貪食ト支配之魔神】を最大まで強化する必要があった。
まあ、それでも成功するか失敗するかは半信半疑だったけど。
だが、結果は成功。無尽蔵に増幅することも、食らった愛から火種を作ることもできないが、俺には本に対する並々ならぬ愛がある。これだけは誰にも負けない想いがある。
この愛の力をエネルギーに変換することができれば、惡魔シャリスと互角に渡り合えるだろうが、今回の目的は真っ向から愛対決をすることじゃないんだよね。……シャリスのアルフレートへの愛も並々ならぬものだし。
「【究極之愛ト惡魔之神】!!」
「まさか! 私の愛のエネルギーに干渉するなんて!? 超越技をスキルとして獲得するなんて、そんなことあり得ない!!」
惡魔シャリスは【模倣之皇】で【究極之愛ト惡魔之神】の能力を理解し、すぐさま超越技を解いた。
衣装がレディーススーツに戻る……まあ、このまま【究極之愛ト惡魔之神】で干渉したらシャリスのあられもない姿を晒すことになっていたし、結果オーライ。特に一ノ瀬辺りには見せたくないからね。
「さて、どうする? 超越技は封じた。【模倣之皇】の突破方法も分かった。もう勝ち目は無いと思うけど」
「まだです!! 例えここで命を落とすとしても、
シャリスに関しては俺視点で別段悪いって訳じゃないし、寧ろ俺とは別の方法で奴隷商人という問題を解決しようとしていた、いわば先駆者だ。
大人しく降伏してくれたらそのままヴァパリア黎明結社から抜けることを条件に見逃そうと思っていたけど……まあ、無理だよな。
でも、俺はここでアルフレートのことを見捨てて保身に走るなら、確実にシャリスに失望するだろう。
……ああ、結局俺はシャリスと戦うことを望んでいるのか。
「それじゃあ、最終ラウンドを始めようか。来世でアルフレートと再会できることを祈っているよ」
「くっ……私だってこのまま負けるつもりはありません!! せめて、一矢報います!!」
シャリスは無手のまま俺と正対する。武器を持っていないから剣術スキルは使えない。愛の力で武器を作っても霧散させられてしまうし、自ら攻撃するような滑稽な状況になる可能性もある。
シャリスにできるのは次のスキルを【模倣之皇】で模倣し、そのスキルで攻撃すること。
つまり、【模倣之皇】で模倣できないスキルを使えばいい。それは聡明なシャリスにも分かっているだろう。
だが、シャリスにそれ以外の選択肢はない。
……覚悟を決めたか。
「【純潔ト摂理之聖神】! 〈
炎を凍らせる焔と炎を燃やす焔を手の中で融合し、金色の焔を構築してから“狐火”と融合して黄金の“火球”を形作り、放つ。
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