確率の低過ぎるガチャはソシャゲの闇のようだ。

 異世界生活百四十七日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、ピュレフォフの大森林


 魔導式駆動四輪|Liacdlac《リアクドラック Organumオルガノン》を止め、アイリスとメーアと共に魔導式駆動四輪|Liacdlac《リアクドラック Organumオルガノン》から降りる。

 【宅警ノ王】を発動して安全を確保し、俺はメーアとアイリスと対峙した。


「ということで、今から別バージョンの『FANTASY CARDs』のラスボスを召喚します。二人で倒してください」


「「ということで、じゃないですよ!!」」


 ……いや、突っ込まれても困るんだが。腕試しをするんだからこれくらいの強敵は普通だよね? 伝説の勇者パーティの一員なんだしさ。


「まあ、何かあったら俺が入るし大丈夫じゃないかな? まあ、俺なんか信用できないだろうし、白崎さん達を呼ぶ方が賢明だと思うんだが……」


 アイリスとメーアが首を振っている……白崎達に失礼じゃないか? と思ったら張本人? 張本柱? の“天使様”も首を振っていた……おいおい、マジかよ。俺なんてただの補欠要員なモブキャラだぜ! ま、まさか「私が手を下すまでもないわ!」っていう奴か! くっ……なら仕方ないか。


「ランク:インフィニティ 『魔竜・紫神』……『形成の書セーフェル・イェツィラーを手にし、その力によって神の領域に達した元人間の魔竜。その爪は魂を切り裂き、その翼は空間を超え、果てしなき癒しに護られ、あらゆる魔を模倣し、あらゆる魔を喰らい、怪しげな魔で他者を完全支配し、抗えぬ呪いで眷属を増やす。神すら切り裂く巨剣――神殺剣アマデウスと魔術を操る王族を弑する長剣――皇焼剣オクシディウスを操る。戦う勿れ、汝に勝利の道はない』」


 魔獣使役版『FANTASY CARDs』のラスボスにして、王族から竜人となり、形成の書セーフェル・イェツィラーを手にしたことで神の領域に至った魔竜。

 まあ、要するに魔竜レリ●スと蒼神デーブー●を足したような奴だ……まあ、アクノ●ギアも混ざっている気がしないでもないが。


 現れたのは半竜半人の黒と紫が混ざった長髪の男。神殺剣アマデウスと呼ばれる巨大な剣と皇焼剣オクシディウスと呼ばれる長剣を構え、翼をゆっくりと動かしている。


「コイツ一体につき想片ハート・フラグメント3,000,000,000ポイントを得ることができるけど、どうする? 増やす??」


「「結構です!!」」


 あっ、この程度なら二、三柱束になっても簡単に粉砕できると思うんだけどな……神殺しで。


「〈窮装アルケミ・フォース・魔装少女〉――Nigredoニグレド!!」


「魔法騎士クリステラをセット!」


 アイリスの衣装が黒く染まり、布面積が減った代わりに、腕や脚に金属質の装備ギアが追加される。

 メーアの姿がミニスカートに改造された騎士風女性に切り替わった。

 さて……お手並み拝見といきますか。


「〝小型大量槍魔法〟――〝増殖Growingするsmall小槍spear〟」


「〝時間早送り魔法〟――〝水晶のTime加速accelerate〟」


 アイリスの投げた槍が割れ、無数の小さな槍となり、巨大な水晶玉に映し出された槍が超高速で紫神へと襲い掛かる……が。


 紫神は口を開けると大きく息を吸い込み、小さな槍は青白い塊となって紫神の口の中に消えていった。


「あらゆる魔を喰らう……聞いていなかったとは言わせないぞ」


「……それ、魔法少女の私では絶対に倒せないということですよね!!」


「……僕の魔法系スキルも怪しいですね。スクエア・スラッシュなら通用すると思いますが、他のスキルだと魔法系も含まれてしまうので」


 まあ、そうなんだけどね。それをどうにかするのが強くなる第一歩だと思うんだよ。

 相手が常に自分の得意分野で倒せる相手だとは限らない。もしかしたら、得意分野を封じてくるかもしれない。


 そもそも【物理無効】や【魔法無効】を使う相手に魔法少女が勝てないのか? ……いや、勝てるでしょう? メーアが悩むのならともかく、魔法少女のアイリスが悩む理由はさっぱり分からない……それを「最善を尽くしていない」というのだよ。


「まあ、仕方ないか。……メーアさん、コイツを使ってくれ」


 俺の【叡慧ト究慧之神】には、高い解析能力がある。……『FANTASY CARDs』の全てを解析し、そこから望む情報をカードとして抜き取るくらいは造作もないほどの。


「ランク:URアルティメットレア 属性:陽・月 『青薔薇之姫ミステール・蒼雪』……『青薔薇の花言葉は夢叶うや奇跡。そんな奇跡のような強さを持った少女は一体どこに向かうのか?』」


 黒を主体とした絹のような光沢のドレスで、そこに青薔薇のコサージュをふんだんにあしらった豪華なドレスを纏ったベルベットのような光沢の長い黒髪の少女が青薔薇の罪禍ジル・ド・レエと呼ばれる青薔薇の蔓が巻きついた剣を握っている。


「……これは、もしかして僕が転移する当日に追加される筈だった」


「ご明察――現状ただ一枚存在するURアルティメットレアのカードだ」


 真●超帝国の姫陛下と対をなすようなデザインは狙ったようだが、きっと気のせいだろう……そもそも汐見の世界にあのライトノベルがあるかどうかも定かではないしな。


 その能力は――。


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青薔薇之姫ミステール・蒼雪のスキル

◆通常攻撃・青薔薇の劔

 青薔薇の罪禍ジル・ド・レエによる斬撃攻撃。物理系スキル。クールタイム無し。

◆青薔薇の斬嵐

 青薔薇の罪禍ジル・ド・レエによる物理系スキル。最高で二百五十六連撃まで可能。使用後10.5秒のクールタイム。

◆幽薔薇の束縛

 純白の荊を設置する特殊系スキル。荊を破壊することで大ダメージを与えることができる。使用後60秒のクールタイム。

◆虹薔薇の魔術

 火・氷・風・雷・土・光・闇のランダムダメージを発生させる魔法系スキル。色とりどりの薔薇が爆発を、吹雪を、竜巻を、雷を、地割れを、光線を、暗黒を巻き起こす。使用後300秒のクールタイム。

◆治癒の白薔薇

 白薔薇に触れたものの傷を癒す魔法系スキル。使用後30秒のクールタイム。

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 と、まあ意味不明なほど強大なスキルが詰めに詰め込まれている……まあ、ガチャ確率0.0000000001パーセントで獲得可能なキャラだからね。ソシャゲの闇もここまで行くと恐ろしいを通り越して笑えてくるな……というか、本当に出るのか? これ。


「――幽薔薇の束縛!!」


「占い師の堕魔ドッペル《fortune Lady》、槍使いの堕魔ドッペル《cercueil》!!」


 ヴェールで顔を隠している中東の占い師風の格好をしている、胴体部分の露出は結構激しい堕魔ドッペルと片手で槍をを持ち、背中には二本の槍を背負っているフルプレートメイルの騎士風の堕魔ドッペルか。


-----------------------------------------------

占い師の堕魔ドッペル《fortune Lady》

LEVEL:10000

HP:10000/10000

ΣΑ:1000000/1000000

STR:10000

DEX:10000

INT:0

CON:10000

APP:99999

POW:10000

LUCK:1000


SKILL

【占い師の堕魔の呪法】LEVEL:1000000

→占い師の堕魔の呪法だよ!


ITEM

-----------------------------------------------


-----------------------------------------------

槍使いの堕魔ドッペル《cercueil》

LEVEL:10000

HP:1000000/1000000

ΣΑ:1000000/1000000

STR:1000000

DEX:10

INT:0

CON:1000000

APP:0

POW:1000000

LUCK:100000


SKILL

【槍使いの堕魔の呪法】LEVEL:10000000

→槍使いの堕魔の呪法だよ!


ITEM

-----------------------------------------------


 二体召喚は魔法少女マルミット以来だな……まあ、マルミットは固有魔法一つに対して二つの悪堕ち魔法少女を持っていたから別と言えば別なんだけど。


「――二鎗之飛刺ダブルブラスト・コルセスカ


「――水晶之加速クロック・アクセラレート


 アイリスが使っている戦術は魔法少女の時と同じもの――しかし、それを呪法でやることに意味がある。

 そもそも、呪法の最大の利点は魔法を無効化する敵にも効果的だというところだからね。


 更に言えば【魔法無効】も貫通できるという……なんで異世界カオスは呪法対策を取っていないんだろうね? スキルもだけど。


 占い師の堕魔ドッペル《fortune Lady》と槍使いの堕魔ドッペル《cercueil》の連携によって放たれた加速する二本の鎗が紫神を刺し貫く……が、その程度で倒れる紫神ではない。


 幽薔薇の束縛を打ち破り、ダメージを受けつつも不敵に笑い、神殺剣アマデウス皇焼剣オクシディウスを構え直す。

 そこから、大振りした神殺剣アマデウスとその隙を埋めるように不自然な軌道を描く皇焼剣オクシディウスによる斬撃が翼をはためかせてアイリスの側・・・・・・に転移した・・・・・紫神の手から繰り出される。


「〈窮装アルケミ・フォース・魔装少女〉―― Albedoアルベド!!〉」


 おっ、段階を上げることで出力を増大させて斬撃を振り切ったか。

 確かにいい戦法ではあるが、一つ段階をあげたということが変身の自動解除の瞬間が早まるということだ。

 さてさて、アイリスの変身が解けるまでこの戦いは長期化するのか……まあ、するようなら俺が横槍を入れるんだけどさ。


「――夢想家之突撃アロンソ・キハーノ


 手に現れた騎兵鎗ランスを手にして突撃する槍使いの堕魔ドッペル《cercueil》。

 更に、二鎗之飛刺ダブルブラスト・コルセスカの発動により紫神に突き刺さっていた二本の鎗が紫神の身体から抜け、再び占い師の堕魔ドッペル《fortune Lady》の時間加速効果で加速し、紫神を突き刺す。


「――青薔薇の劔、青薔薇の劔、青薔薇の劔、青薔薇の劔、青薔薇の劔、青薔薇の劔、幽薔薇の束縛、青薔薇の斬嵐!!」


 蒼雪――メーアの連続攻撃が紫神のHPを削り切る。それで、終。


 後にはキラキラとした欠片――想片ハート・フラグメントだけが残った。



「……草子さん、これってカードそのものも改良を加えることができるということですよね?」


「ん? あっ、装備の話か。確かにUpdate Versionカードごとに装備が設定できるようだから、一枚のカードをカスタマイズするだけでも一苦労だろうな。まあ、そういう組み合わせが多いところがソシャゲの魅力なんだろうけどさ」


 紫神撃破後、俺達は魔導式駆動四輪|Liacdlac《リアクドラック Organumオルガノン》に戻り、森の中をアクセル全開でぶっ飛ばしていた。ヒャッハー!!


 エンリに頼んでアクセルフルスロットルで走行しているが、白崎達から突っ込みは入らない。割と白崎達もスピード狂なのかもしれない……勇者にして聖女様がそれで本当にいいのか? 真似する奴が出てくるんじゃないか?


「アポイタカラの長剣が……に、2,000,000,000 想片ハート・フラグメント!?」


 どうやら、メーアは武器SHOPを確認して魂を飛ばしてしまっているようだ。……しかし、青生生魂アポイタカラか。こっちのヒヒイロカネとは違う物質だろうし、とりあえずサンプルに一振り欲しいな。


「じゃあ、それを一振り購入で」


「………………えっ?」


 あっ、メーアが完全に力尽きた。一ノ瀬達が必死で介抱しているけど、〝聖祈之祝福セイクリッド・ブレイクスペル〟で簡単に復活させられるよ?


「まあ、流石に何度もあれを倒して周回しろとは言わないよ。射出装置に竜殺しの短剣をセットして発射して、ドラゴンを倒して手に入れた竜の盾を売り払ってまた射出装置に竜殺しの短剣をセットする無限ループのようなものを他者に押し付けるようなお嬢ほどの権力はない。……まあ次からは想片ハート・フラグメントの回収だけ任せるか、それも俺がやってから【譲渡】するかにするし、誰か腕試しをしたいなら遠慮なく使えばいいと思うよ? まあ、あれは高槻斉人の切り札ではないみたいだけど、だからといってあれを倒せないのならヴァパリア黎明結社相手に戦えるとは思えない。あれを倒せるくらいにはなって欲しいものだね」


 途端に女子達の目が鋭く見開かれて銀の光を宿らせたのだが……何か焚きつけたらいけないものを焚きつけたかな?

 ちなみに、高槻斉人の切り札ではないというのは、そもそも高槻斉人があれをカード化できなかったということであり、高槻斉人があれ以上の手札を持っていたという訳では断じてない。


 高槻が転移後新たに七十二枚のカードを生み出し、切り札としていたことはフィードを通して聞いているが、迷宮で戦ったのがその七十二枚ではなく人造魔獣だったことに関してはよく分かっていない。

 カードではサイクロプス、ケルベロス、ヨルムンガンドクラスのものを作り上げることができなかったから、スキルを使わずに新たな魔獣を創造する必要があったのか、或いは耐性スキルを持たせるためにあの方法を取らざるを得なかったのか……まあ、紫神を使っても三魔獣を使ってもヴァパリア黎明結社に大打撃を与えるのは無理だっただろうが……あれだと部門長クラスは絶対に倒せないからな。


 もしかしたら、誰かがあの魔獣達を喰らって糧とし、ヴァパリア黎明結社と戦うことを望んでいたのか……いや、そんなまさかー。


「ところで……ちょっと寄り道してもいいかな?」


「あたし達は別にいいわよ? 草子君について行っているだけだし拒否権はないわ。でも、珍しいわね。そのまま魔王領アィーアツブスの首都に向かうと思っていたのだけど」


「いや、聖さんに拒否権が無かったとしても白崎さんにはあるだろう? 能因パーティではなく白崎勇者パーティなんだから」


「…………まだその設定を引き摺っていたんだ。もう誰も草子君をただのモブキャラとは思っていないと思うんだけどな」


 いや、聖よ。どう考えても俺は白崎パーティの取り巻きN……朝倉や北岡から数えてかなり後ろの方のモブキャラだろ? おい、他の連中も一ノ瀬以外首肯するな……後ジュリアナが同意していた!? 珍しいめっずらしー


「こっから少し行ったノトルディムの村ってところから《大罪の九獣ナインス・シン》の反応がするんだよね。で、残ったのは《夢幻の大罪ドリーム・シン》イブリースと《支配の大罪ドミネート・シン》スラバーだからどっちも危険だと思うんだよ」


 うん……明らかに危険だよね! もし、イセルガとか一ノ瀬とかに渡ったら絶対に危険なスキルを持っていそうだ! どっちかじゃなくて両方とも!!

 ……ま、まあ。《夢幻の大罪ドリーム・シン》イブリースは元ネタ的に性欲のために使うものじゃなくて、同士討ちをさせたり、人格を変えたり、トラウマを復活させたりするんだけれど。


「まあ、《夢幻の大罪ドリーム・シン》イブリースに関しては【状態異常無効】でどうにかなるから問題ないよ。ただ、嫌な予感がするから白崎さんと……まあ、嫌なら別にいいけどジュリアナさんかな? 一応見習いで聖女ラ・ピュセルを始めたらしいしこの辺りで腕を磨いておいた方がいいんじゃないかな? 最悪俺一人でどうとでもなるから別にいいけどさ」


 ちなみに、白崎は聖女ラ・ピュセルから大聖女アーク・ピュセルに昇格したらしい。

 聖女カタリナに関しては天上大聖女エンプレス・デュナミス・ピュセルという最高位の職に就いていると天上大聖女教は広めているらしいけど、そんなものは存在しない。


「…………私も行きます」


「ありゃ? これは予想外。まあ、遠方から〝聖祈之祝福セイクリッド・ブレイクスペル〟か〝万聖之解除セイクリッド・イレース〟を連発して状態異常を解除するだけの簡単なお仕事だし、大変なお仕事って訳でもないけど、俺とジュリアナさんの関係上絶対に同行という選択肢は選ばないと思ったんだけどねぇ」


 というか、ジュリアナを連れて行くとオマケにお前が付いてくるのかよ、って奴が付いてくるし。お前は仲間と百合? ハーレムでイチャイチャしてろ。一々敵意向けられると面倒だし。


「ボクも付いて行きますよ。ジュリアナさんに何かあってからでは遅いですし、何より心配ですからね。草子君にボクの仲間を預けるのは」


「あっそ。俺はお前と違って節操もなく他人様に手を出さないよ? だって俺ぼっちだもん。責任もろくに取れないのに手を出すとかあり得ないし、そもそもそういう展開にすらならないのだよ。Seul, seul, je suis seul!!」


「……草子さんはぼっちじゃないですよ! 少なくとも私は草子さんの同志であり、恋人のつもりです!」


「はいはい、BLの同志じゃないし、恋人でもないよー、美人だけど残念なリーファさん。とりあえず、趣味に理解をしてしてくれそうなイケメンを探そうねー、難しいだろうけど」


 何故かリーファ撃沈。正論を言われると沈むのは世の常のようだ。

 なんか、白崎達がリーファに同情の視線を向けてから俺にジト目を向けてくるし……何か変なことを言ったかね。ついでに、一ノ瀬――お前からジト目を向けられる理由はない!!


「それじゃあ、ちょっと行ってくるんで居残り組は警戒よろしく。まあ、この辺りの魔獣に負ける可能性は皆無だし大丈夫だろうけど、なんかあったらゲートミラーで屋敷に移動しておいてくれ」


 俺、白崎、ジュリアナ、一ノ瀬の四人で魔導式駆動四輪|Liacdlac《リアクドラック Organumオルガノン》を降りて行動開始……ナンダロウ、コノパーティー。

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