どうやら今回の敵は魔法少女もの史上最悪の吐き気を催す邪悪のようだ。

 異世界生活百三十二日目 場所コンラッセン大平原、能因草子の隠れ家(旧古びた洋館)


「ようこそ、我が工房へ。……って言ってもジューリアさんは二回目だけど」


 ジューリアと鶫を工房に案内した。


「……ここが工房か。鍛冶道具はないのだな……あるのは、よく分からないものだけか」


「ああ、あれは全自動機織り機だよ。一々生地を作るのは面倒だからね。機械に任せられることは機械に任せた方がいいからな」


「……なるほど。しかし、草子の裁縫の趣味があったとは思わなかった」


「趣味というか、防具を作るために習得しただけだけどね。俺の趣味は文学研究だけだよ」


 さて、仕事を始めますか。

 二つのオレイミスリルの鋳塊インゴットを【利己主義的な創造主】で指輪の形に変形させ、耐性スキルを付与する。


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耐性の指輪リング・オブ・レジスト×2

→オレイミスリル製の指輪だよ! 【即死無効】、【因果無効】、【状態異常無効】、【物理耐性】、【衝撃耐性】、【魔法耐性】、【魔力回復】、【体力回復】が付与されているよ!

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 オレイミスリルのレベルではこれが限界か。全てを無効ランクまで上昇させるためにはもっと強力な素材が必要だけど、まあそこまではいらないだろう。


「よし、完全。ジューリアさん、鶫さん、どうぞ」


「かたじけなし」


「? これは何だ?」


「オレイミスリルって合金で作った指輪だよ。【即死無効】、【因果無効】、【状態異常無効】、【物理耐性】、【衝撃耐性】、【魔法耐性】、【魔力回復】、【体力回復】が付与されている。……ヘズティスさんとの戦いで改めて即死に対する対策を取らないといけないなと思ってね。まあ、すっかり忘れていたんだけど」


 あれ? 鶫、固まっている? なんか変なこと言ったか?


「因果の無効というのはよく分からないが、即死や状態異常の無効は希少な耐性スキルの筈だ! ……その希少なスキルを草子が持っているのは納得できるが、それを簡単に他人に渡してしまってもいいのか?」


「いや、別に問題ないよ。耐性スキルの対策はきっちり立ててあるし、ジューリアに作ったのに鶫さんに何も渡さないってのはなんだか不公平に見えるだろう? さて、ついでだし武器と防具を作るけど、何か欲しいものとかある?」


「なし……今のに十分なり」


 まあ、ジューリアの武器と防具はしっかり改良してあるからね。できるとすれば素材を変えて耐久力を上げるくらいか。


「私にも武器や防具を作ってくれるのか?」


「そのつもりだけど……何か要望とかってある?」


「お任せで頼む」


「んじゃ、早速やりますか。……ところで、鶫さんが持っている妖刀紅桜-狂咲-って奴だけど、そもそも妖刀って何?」


 地球と異世界カオスでは聖剣や魔剣の定義も違ったからね。

 この世界では妖刀の定義が違っても不思議ではない。


「妖刀とは鋼塊に妖力を込めた合金だと聞いているが、詳しくは知らないな」


 なるほど……話的に玉鋼に妖力を込めた金属辺りだろうか?

 今度、ブラックスミスに話を聞いてみるか。ついでに譲ってもらえたらいいけど……俺、妖力使えないし。


「素材に妖刀紅桜-狂咲-を使うか、こっちの素材で新しい武器を作るかどっちでもできるけど、どっちがいい?」


「……お前なら失敗することは無さそうだな。私の大切な相棒だ……大事に扱ってくれ」


「ああ、任せとけ」


 妖刀紅桜-狂咲-と神聖金属の鋳塊インゴット、死霊金属の鋳塊インゴット、渾沌石の鋳塊インゴット、オラクルメタルの鋳塊インゴット魔鉱金アウリカルクム鋳塊インゴットを混ぜて……。


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聖魔混淆妖刀カオスベウィッチト・ブレイド紅桜-桜花繚乱-×7

→妖刀紅桜-狂咲-に五種類の鋳塊インゴットを混ぜて作った妖刀だよ! 聖剣と魔剣と妖刀の性質、聖と闇の相反する属性を刃に宿す効果、万物を両断する効果、傷つけた相手のHPを吸収する効果、邪を祓う効果があるよ!

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 ……うん、予想以上の数ができてしまった。混ぜた素材が多過ぎたか?


「ちょっと予想外の数になった。……混ぜ過ぎがいけなかったかな? とりあえず、一本は貰ってもいいかな?」


「ああ……ほとんどの素材は草子のものだからな。寧ろ、こんなにも貰っていいのだろう?」


「いや、メインの素材は妖刀紅桜-狂咲-だし、問題ないでしょう? しかし、流石にこれだけの刀剣を帯刀するのは無理があるな。……あれを作るか」


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宝物庫の指輪リング・オブ・チェスト

→【時空魔法】が施された指輪だよ! 半径十メートルまでなら物を出し入れできるよ! 時間を凍結した空間に保存されるよ!

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「俺がちょっと前に作った指輪を複製したものだ。半径十メートルまでなら物を出し入れることができる……指輪二つはいらないかもしれないが、容量的に二つに集約できないから諦めてくれ」


「……いや、【時空魔法】を封じた指輪を貰えるというだけで十分嬉しいことだが……しかし、これほどのものを貰ってもいいのか?」


「そりゃ勿論、そのために作ったんだからな。とりあえず、聖魔混淆妖刀カオスベウィッチト・ブレイド紅桜-桜花繚乱-を六本入れとくぞ」


 これで、とりあえず武器は完成したか……後は防具だな。


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闇戦乙女の鎧ダークヴァルキューレ・メイル

闇戦乙女ダーク・ヴァルキューレの鎧だよ! どことなく扇情的だよ!

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 ……これ、あんまり似合っていない上にそこまで防御力も高くないんだよな。ビキニアーマールールは適応されていないみたいだし。


 というか、そもそも針女って東洋の妖怪だからな。そこに、西洋的なものを合わせに行くってのはなんか違う気がする。


 よし、構想は決まった。早速作るか。……素材は、いつも通りオラクルスレッドとオレイミスリルで。


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藤色の戦姫装束ウィステリア・ドレス

→藤柄の和風な雰囲気を感じさせる戦姫装束だよ! 生地にはオラクルスレッドとオレイミスリルの糸で作った布を使っているよ!

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 着物をベースに着やすいように調整し直した戦闘衣装を作ってみた。ちなみに、強度は闇戦乙女の鎧ダークヴァルキューレ・メイルよりも高くなっている。


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暴食龍の籠手バハムート・ガントレット×2

→ 〝龍王〟バハムートの鱗で作った籠手だよ!

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「とりあえず、こんなところか。どっちも今までの奴より強力だから戦力は強化されると思うけど」


「……ありがとう。すまないな」


「いいってことよ。折角だし部屋で着替えて来たらどうだ? なんか直さないといけないところあったら修正しないといけないし」


 さて、そろそろ夕食の準備をするか。……食材も大量に保存してあるけど、あんまりレパートリーないし……こういう時こそ、スマホに保存した料理本に頼るか。……というか、写して食ったほうが早いか。



 夕食はジューリアと鶫の口にあったようで、何度かお代わりまでされてしまった。

 ……ジューリアの大食らいで、その姿を見たせいで鶫の食欲は猛烈に失われたみたいだけど。


 夕食後は、屋敷の一角に作った風呂に二人で入っていたみたいだ。……俺? その間ずっとスマホと繋いだオリジナルPC擬きと睨めっこだよ。覗きに行く訳ないじゃないか?

 えっ、カタリナになって二人と一緒に風呂に入りに行くのを想像したって……んな訳ないだろう?


「……草子。風呂ありがとう。……何をやっているんだ?」


 ん? てっきりジューリアと二人で寝たと思ったんだが……。


「ジューリアさんは?」


「先に寝た。……布団に入ったらすぐに寝てしまった」


「まあ、いつものことだからね。……鶫さんも早く寝た方がいいよ。湯冷めするし」


「草子、お前は寝なくてもいいのか?」


「俺は別に寝なくても問題ないよ。まあ、寝ることはできるけどね……今はちょっとそれどころじゃないっていうか」


 オリジナルPC擬きには三人の少女と、三つのグラフが表示されている。

 少女の正体は、マルドゥーク文明の叡智の結晶? である、エレシ、ナン、エンリだ。


【――あったよ! ふふふ、天才なワタシ――エレシちゃんに掛かればこんな余裕な仕事一瞬なのです!!】


【こっちもだ……エレシ、アタシよりも仕事が遅いのに天才って】


【エレシもナンも喋らず仕事をしてください。……エンリは同じマルドゥークの叡智の結晶がこんなにも残念なのにがっかりしています】


 コイツら三人集まると大体険悪な雰囲気になるからな……ほら、口喧嘩が始まった。


「三人ともいい加減にしろ。deleteするぞ。……それより、何か分かったか?」


 俺は三人に二人の魔法少女と一人の堕天騎士のデータの解析を依頼していた。

 一人目は魔法少女アイリス=メージュネルト、二人目は魔法少女マルミット、三人目は言わずもがな。


【はい……といっても該当データがエンリ達の持つデータの中にありませんのであくまで結果だけを話すことしかできませんが】


「それで、構わない。話してくれ」


 エンリの話を総合すると、情報思念体フリズスキャールヴの端末の作り出した魔法少女と魔法少女マルミットには大きな差異が存在するらしい。


 今回のデータが無くても、前者の魔法少女はなんらかのアイテムを使用せずに魔法少女に変身できるタイプA(仮)の魔法少女、後者は魂を加工したアイテムを扱って変身を行うタイプB(仮)の魔法少女であることはなんと無く理解していた。


 今回、この二つをデータとして比較した時、いくつか同じ波長を検知することができた。

 しかし、全て同じという訳ではない。その情報思念体フリズスキャールヴ産の魔法少女と違った部分は、ユーゼフを堕天騎士化させたソウルハゥトと一致する部分も見られた。


「……全てではない、ということか」


【はい……魔法少女マルミットには見たことのないデータが含まれていました。エンリはオリジナル要素として出されたものだと考えていましたが……違ったようです】


「……もしかして、二系統とは違うタイプの魔法少女のデータか?」


【……流石は草子様。お考えの通りです】


 ……ちっ、そう来たか。となると、かなり厄介なことになるな。


「……草子、さっきから何の話をしているんだ」


「ヘズティスさんの側近――シャルミットさんが行方不明になっていた話はしたよな。実は、シャルミットさんは魔法少女マルミットとなり、俺とヘズティスさんを殺すために魔王領バチカルのヘズティスさんの城に現れたんだ。……俺は、その背後にいる奴らを追っている。俺にも借りがあるんでな」


「なるほど……そういう話だったのか。ヘズティス様が草子、お前を信頼するようになった理由がようやく分かった」


「ヘズティスさんも本当は大切な人をめちゃくちゃにした連中に復讐したいと思っているだろうが、先に釘を刺しておいて良かったよ。……奴らはとんでもない禁忌に手を出している。キュ●べえが可愛く見えてくるな」


 俺の予想が正しければ、敵は魔法少女を異世界カオスに召喚し、その魔法少女達のデータを集積して、自身の人造魔法少女のシステムを強化している。

 そのために、どれほどの罪無き者達の命が失われたかは定かではない。


 恐らく、魔法少女マルミットや堕天騎士ユーゼフは初期型だ。

 今はもっととんでもないものになっている可能性が高い。……おいおい、開闢の魔法少女クレアシオンだっけ? これってお前がどうにかするべき事案だろ!!


「まあ、奴らにとってはそれが正義なのかもしれないな。第三者から見れば吐き気を催す邪悪でも、本人からしたらごく普通ってことはあり得る。……イヴがその典型だな。……つまりその所業を憎む俺が、今回の黒幕――開発部門アノニマスを一人残らず血祭りに上げてもいいってことだ。……絶対に逃がさんよ。お前らだけは」


「草子、落ち着け……お前らしくない」


「すまんな……少し冷静さを失っていたみたいだ」


 最初は切り捨てるつもりだった……なのに、一緒にいる間に俺はユーゼフ達を大切に想うようになっていたみたいだ。

 ……切っ掛けを作った一旦として、今回の敵だけは絶対に逃す訳にはいかない。


「エレシ、ナン、エンリ。情報の解析はしばらく大丈夫だ。追加データが得られたら、また頼む」


【――畏まりました、草子様】


「さて、俺達も寝るとしようか? 明日は魔王領エーイーリーを治める魔王軍幹部との対決の日だしな」


「……今度は負けないぞ、能因草子」


 明日はいよいよ二戦目だ……魔王領エーイーリーを治める魔王軍幹部が一体どんな奴か、楽しみだな……だけど、変態だけは本当にやめて欲しい。

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