未だかつて〝悪堕ち魔法少女〟を喰らってその力を得たモブキャラはいないだろう? ……えっ? モブキャラが〝悪堕ち魔法少女〟を喰らったらそれはもうモブキャラじゃないって?

 異世界生活百三十日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国? 悪堕ち魔法少女の結界内


 プリンセスジュエルの光が桃色から黒へと変わり、放たれた黒の奔流に呑み込まれた俺達はヘズティスの城とは明らかに違う場所にいた。


 魔女●結界……っぽくはないな。どちらかというと元ゲームクリエイターの日本人が主人公の異世界モノに出てくる悪●の迷宮を彷彿とされる。

 果てしなく続く銀色の世界……コンクリートと金属で作られているな。

 厨房だけど、調理器具や冷蔵庫が置いていない……そんな感じか。


 異世界迷宮攻略の心得! すぐに全マップを探索して完璧に地形を把握せよ!!

 ということで、【叡慧ヲ窮メシ者】を発動して迷宮の地形を把握する。


 ……結構広めだな。網目状に作られていて、中心部に大きな空洞がある……ここにボスがいるとか?

 魔女●結界と同じように二重構造になっているらしい……ってことは、もしかしなくてもそこにいるのは魔女!? いや、情報思念体フリズスキャールヴが支配していた世界だと堕ちた魔法少女、又は堕魔って呼ばれているんだっけ?


 何人かこの迷宮内に囚われているようだ。それと、中心部の空洞から多数の存在が溢れ出ている。

 その存在が通路を使って迷宮の隅々まで行き届くまで、そう時間は掛からないだろう。


 ってことで、今の俺が為すべきことは……。

 【疾走ノ王】を発動して、迷宮内をひた走る。


 囚われたのはジューリア、ヘズティス、ヘズティスの部下で戦闘力を持つ魔族とメイドや執事を含む非戦闘員の魔族。俺はまず、この非戦闘員から順にこの迷宮から脱出させることにした。

 ちなみに、この迷宮に出入り口は存在しない。完全に隔絶された空間――それが、この世界のようだ。


 クリプは、堕魔は自分だけの世界を作り出し、そこに人々を捕らえて自分好みに改変することもあるって言っていたし、ここはそれと同種の世界なのだろう。


「……あ、貴方は」


「能因草子だ。……無事……ではないよな?」


「はい、私達は無事ですが……ヘズティス様達と離れ離れになってしまいました」


 まず出会ったのはメイド三人のグループ。蜘蛛人アラクネ蛇人ラミア鳥魔人ハルピュイアの三人だった。


「すぐ近くにお前らの仲間が何人かいるっぽい。そいつらと合流したら俺の〝移動門ゲート〟で魔王領バチカルの街中に転送するから、後から来るメンバーとジューリアさんに『俺が戻るまでヘズティスの城には近づくな』って伝えてくれ。……この結界の外がどうなっているかは分からないからな。俺は元凶を潰して倒したら合流するから」


「あの……草子様は私達の仲間を助けてくれるのですか? 草子様は人間ですのに」


「……人間とか魔族とか亜人種とか、そんなの外見の話だ。……今回の敵はヘズティスより強い。誰かを守って戦うのは、まあ無理だな。ということで、お前らはとっとと脱出して、俺の心配を減らしてくれ」


 その後、他のメイドや執事、下男達を〝移動門ゲート〟で転送し、次にヘズティスの部下で戦闘力を持つ魔族達を転送する……と、このタイミングで堕魔の使い魔達が俺の目前にまで迫ってきた。


-----------------------------------------------

NAME:お菓子の堕魔の使い魔

LEVEL:100

HP:60000/60000

ΣΑ:50000/50000

STR:60000

DEX:40000

INT:-100

CON:40000

APP:-10

POW:40000

LUCK:15000


SKILL

【槍理】LEVEL:100

→槍使いの真髄を極めるよ! 【槍術】の上位互換だよ!

【刺突】LEVEL:100

→刺突が上手くなるよ!

【連続突き】LEVEL:100

→連続で突きを放てるようになるよ!

【螺旋槍撃】LEVEL:100

→螺旋突きを放てるようになるよ!

【閃光槍撃】LEVEL:100

→閃光突きを放てるようになるよ!

【貫通】LEVEL:100

→攻撃を貫通させられるようになるよ!

【払い】LEVEL:100

→払いが上手くなるよ!

【薙ぎ払い】LEVEL:100

→薙ぎ払いが上手くなるよ!

【飴爆弾】LEVEL:100

→飴爆弾が上手くなるよ!


ITEM

-----------------------------------------------


-----------------------------------------------

NAME:お料理の堕魔の使い魔

LEVEL:100

HP:60000/60000

ΣΑ:50000/50000

STR:60000

DEX:40000

INT:-100

CON:40000

APP:-10

POW:40000

LUCK:15000


SKILL

【包丁理】LEVEL:100

→包丁使いの真髄を極めるよ! 【包丁術】の上位互換だよ!

【フライパン理】LEVEL:100

→フライパン使いの真髄を極めるよ! 【フライパン術】の上位互換だよ!

【フライ返し理】LEVEL:100

→フライ返し使いの真髄を極めるよ! 【フライ返し術】の上位互換だよ!

【蓋理】LEVEL:100

→蓋使いの真髄を極めるよ! 【蓋術】の上位互換だよ!

【泡立て器理】LEVEL:100

→泡立て器使いの真髄を極めるよ! 【泡立て器術】の上位互換だよ!

【お玉理】LEVEL:100

→お玉使いの真髄を極めるよ! 【お玉術】の上位互換だよ!

【薬缶理】LEVEL:100

→薬缶使いの真髄を極めるよ! 【薬缶術】の上位互換だよ!


ITEM

-----------------------------------------------


 お菓子の堕魔の使い魔はロリポップが顔、クッキーの体を持つ化け物で飴のように伸縮自在な槍を持っている。

 お料理の堕魔の使い魔は料理道具で作られた体を持っている。


 ……えっ? もしかして堕魔が二体いるの? そんな……まさか、ね。堕魔は魔女と同じように一世界線の一魔法少女につき一体……二体の堕魔の姿を持つ悪堕ち魔法少女は存在しないって言っていた筈だけど。

 というか、ΣΑって何!? 呪力的な何かとか?


「……お前らの相手は後でするから、ここに逃げさせてもらうよ」


 【疾走ノ王】を用いた戦略的撤退。そのままヘズティスとジューリアの居る場所を目指す。

 どうやらそっちにも堕魔の使い魔達が攻め込んでいるようだ……ん? 全く数が減っていない!?


「……おっ、草子。まあ、お前が負ける訳がないよな」


 ジューリアとヘズティスを発見した。二人は全力を尽くして攻撃をしているが、全くダメージは無さそうだ。

 ……ん? 攻撃が擦り抜けている? まるで、ジューリアとヘズティスとは別の次元にいるようだ。


 間違いない。あいつらは超越者デスペラードの耐性を得ている。……でも、超越者デスペラードって表記は無かったし、使い魔如きが超越者デスペラードになれる筈はない。

 ということは、ダニッシュと同じ「他者に超越者デスペラードの性質を付与する」超越技を持った存在がこの魔法少女騒動の陰にいるってことになるな。


「ジューリアさん、ヘズティスさん。二人じゃ、コイツらには勝てません。敵は使い魔ですら超越者デスペラードの耐性を有しています。超越者デスペラードではない二人では勝ち目はありません!」


 【殺気圏域】で堕魔の使い魔を根絶やしにしつつ、俺は堕魔の使い魔の異様な強さの説明をする。


「……超越者デスペラードって、確か草子が至った領域だよな? コイツらはそんな化け物なのか?」


「コイツらは超越者デスペラードではありません。能力で超越者デスペラードと同等の耐性を与えられた存在ということになります。……そして、今回の騒動の発端となった魔法少女マルミットも超越者デスペラードではありませんでした……この状況で犯人探しをしても意味はありませんが、恐らく魔法少女マルミットの背後には超越者デスペラードの性質を付与することができる超越技を持った超越者デスペラードがいると思われます」


「……ひとへに、ダニッシュの超越技なり」


 ジューリアがヴァパリア黎明結社を憎むきっかけとなった存在――ダニッシュ=ギャンビット。

 今回の敵・・・・は、そのダニッシュの超越技に似た力を持つと考えるのが妥当だろう。


「……とりあえず、ジューリアさんとヘズティスさんにはここから脱出してもらう。その後のことについては、先に脱出している者達から聞いてくれ。……ヘズティスさん。ジューリアさんは強いが、大勢に攻撃されたら流石に勝ち目がないだろう。……もし、俺がいない間に攻撃を仕掛けるようなことがあったら、俺はこの魔王領バチカルを……いや、ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国そのものを滅ぼす。ジューリアさんには、ヴァパリア黎明結社を滅ぼして仇を取るという願いがあるからな。その願いを叶えるまで、ジューリアさんの力になると約束している俺は、それを阻む者や阻んだ者を生かしておく気は更々ない」


「そりゃ当然だろ! ……で、草子。この戦い、お前に勝機はあるのか」


「当たり前だろ? 超越者デスペラードってのは願いを叶えるために因果を超越するに至った存在だ。その上っ面を浚っただけの奴に負ける筈が無い」


「……分かった。頼んだぞ、草子!」


「撤退す。……草子、定めて勝ちて帰りきて」


 ジューリアとヘズティスを〝移動門ゲート〟で転送する。

 ……んじゃ、守る者もいなくなったし、そろそろ攻撃に転じさせてもらうよ……とその前に。


「喰らい尽くし、我が糧とせよ! 【暴食ノ王】!!」


 黒い竜巻ではなく、俺を起点として円形に捕食の闇を放つ。

 よし、成功。お菓子の堕魔の使い魔とお料理の堕魔の使い魔を喰らい、能力を得ることに成功した。


 ……少しスキル欄が増えてきたし、スキルの統合をしておくか。

 これまでバラバラに存在していた武器系スキルを【武器理】、【防具理】、【農具理】、【調理器具理】の四つのスキルとして統合した。

 ……【糸理】と【杖理】の統合は何故か失敗し、【杖理】は【真道夢想流棒術】に上位互換化した……ナンデ?


 突けば槍 払えば薙刀 打てば太刀 杖はかくにも 外れざりけり? ……いや、いつもエルダーワンドで同じことしているから、今更正式に認められてもね……えっ、違うって?


 お菓子の堕魔の使い魔もお料理の堕魔の使い魔も戦闘力はかなりお高めのようだが、【殺気圏域】で攻撃を仕掛けてくる前に倒しているから、その力を見ることは無かった……まあ、雑魚如きに本気出すアホはいないよね? ボスキャラ相手には【殺気圏域】使うんで。


 ……と思ったんだけど、何体か【殺気圏域】を受けてなお動ける奴がいるっぽい……って、自爆!? もしかしなくても【飴爆弾】!! もしかして気分を変える魔法のキャンディーを作る人と友達だったりする? ……そういえば、あの人も人造魔法少女に関係していた人の弟子だったりするけど。


 そして、到着しました、ボスの部屋? 内側の結界? まあ、なんでもいいけど。

 部屋の内部はクッキングスタジオっぽかった。


「待ってたよ、お兄ちゃん♡ まさか、ここまで辿り着くとは思わなかったな♡♡ わたし、びっくりだよ♡♡♡」


 中には堕魔ではなく、魔法少女マルミットがいた。

 まだ堕ちきっていないのか、将又人造魔法少女には魔法少女が悪堕ち魔法少女になるという理屈が通用しないのか。

 まあ、別にどっちでいいか。


「でもぉ、お兄ちゃんと戦うよりも前にまずは実力を見せて欲しいな〜♡」


 魔法少女マルミットの影から二体の存在が飛び出した。


-----------------------------------------------

NAME:お菓子の堕魔gâteau

LEVEL:1000

HP:1500000/1500000

ΣΑ:1500000/1500000

STR:1500000

DEX:1500000

INT:-10

CON:1500000

APP:Fluctuation

POW:1500000

LUCK:1500000


SKILL

【噛み砕き】LEVEL:1500000

→噛み砕きが上手くなるよ! 【咬みつき】の上位互換だよ!

【突撃】LEVEL:1500000

→突撃が上手くなるよ! 【突進】の上位互換だよ!

【捨て身】LEVEL:1500000

→捨て身攻撃が上手くなるよ!

【お菓子の堕魔の呪法】LEVEL:1500000

→お菓子の堕魔の呪法だよ!


ITEM

-----------------------------------------------


-----------------------------------------------

NAME:お料理の堕魔cuisine

LEVEL:1000

HP:1500000/1500000

ΣΑ:1500000/1500000

STR:1500000

DEX:1500000

INT:-10

CON:1500000

APP:Fluctuation

POW:1500000

LUCK:1500000


SKILL

【噛み砕き】LEVEL:1500000

→噛み砕きが上手くなるよ! 【咬みつき】の上位互換だよ!

【突撃】LEVEL:1500000

→突撃が上手くなるよ! 【突進】の上位互換だよ!

【捨て身】LEVEL:1500000

→捨て身攻撃が上手くなるよ!

【お料理の堕魔の呪法】LEVEL:1500000

→お料理の堕魔の呪法だよ!


ITEM

-----------------------------------------------


 小さなパティシエ風の女の子と小さな料理人風の女の子か? ……やっぱり二体居たか。

 可愛らしい見た目は第二形態ショックを誘発する罠なのだろうか……って百パーセントそうだよな。スキルとか、明らかにお菓●の魔女の第二形態を彷彿とさせるし。


「この子達はわたしの分身みたいなものだよ♡ もし、この子達を倒せたらわたしの本気を見せてあ・げ・る♡♡」


 二体の堕魔……前例はないな。この辺り、クリプに話を聞けたらいいんだけど。

 まあ、その辺りはこの魔法少女を倒してから聞き出すとしよう。俺達を襲った目的と一緒に。


 お菓子の堕魔の周囲に無数の巨大な泡立て器が現れる……いきなり、第一形態は一方的に攻撃をされるがままというテンプレを逸脱してきたな。

 お料理の堕魔は大量の包丁を生み出したか。


「〝漆黒の宙を照らす星々を測り、与えられし全天に輝く八十八の像よ! 宙を定めし星々の輝きを地上に顕現し、遍く全てを焼き払え〟――〝天体魔法-vrano=metria-〟」


 遍く全てを照らし出し、その聖なる光で焼き払うオリジナルの【天体魔法】を発動して、お料理の堕魔を焼き払う。

 ……マジか、今の一撃でも死なないの? 君、意外と根性あるね。


「――ッ! ガトーちゃん、キュイジーヌちゃん!! 第二形態!!」


 お菓子の堕魔は恵方巻きのような長い体を持ち身体から飴玉が生えている化け物へ、お料理の堕魔は白い恵方巻きのような長い体を持つ化け物へと姿を変える。

 出たな、第二形態め! ……ってか、地味に今の攻撃のダメージを無かったことにされたんだが。


「――二人とも食べちゃえ♡♡」


 あっ、マミる気ですか? 俺の首食ってもトラウマにはならないと思うけどな。


「……あのさ、喰われる前に食えって雰囲気だけど、俺、スライムじゃないし、そんなことはしないよ。〝時空を捩り歪めよ! 不可逆の傷を永遠に世界に刻め〟――〝禁呪・時空崩壊-Spacetime collapse-〟」


 お菓子の堕魔とお料理の堕魔の周囲を対象に空間を捻って世界の修正力をもってしても修復不能の傷を刻む【時空魔法】を発動する。

 お菓子の堕魔とお料理の堕魔は頭部のみを残して完全に崩壊。


「捕食しろ! 【暴食ノ王】!!」


 喰うか喰われるかじゃない。そんなどう転ぶか分からない賭けに俺は乗らんよ。

 一切抵抗できない状況にしてから、【暴食ノ王】で喰らう……ところで、魔女も堕魔も食ったことはないんだけど、食べたら堕魔の力を使えるようになるのかな? ってか、魔法少女を食べたらその固有魔法を奪えたりするの? ……まあ、しないけどさ。


「ウソ……ガトーちゃん、キュイジーヌちゃんを食べちゃうなんて」


「さて、次はお前だな。――お前の背後にいるのが誰なのか、お前を倒して教えてもらうぞ」


「――いいよ♡ わたしの本気、見せてあげる♡♡♡」

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