四陣営戦争②
ミンティス歴2030年 9月12日(異世界生活百二十八日目) 場所聖都、神殿宮
「んじゃ、早速仕掛けさせてもらうぜ! 【ギャンビット】」
ダニッシュ・ギャンビットは、チェスのオープニングの一つで、1. e4 e5に対して2. d4 ~ 3. c3とギャンビットするオープニングのことを指す。ギャンビットの名を持つダニッシュが【ギャンビット】のスキルを持つってのは少し安直な気がするが。
まあ、スキルの効果としては「チェスの駒を模した兵士を召喚するよ!」ってことでギャンビット自体にはあんまり関係ないが。
「俺の超越技――Prima moventur corpora Rubriは自分の駒、又は触れた相手を対象に
ヴァパリア黎明結社相手に舐めてかかる訳がないだろ!
Prima moventur corpora Rubri……ラテン語を直訳すると先手の赤の駒ってことになるな。
チェスにおいて先攻は白、後攻は赤、後の時代では黒になる。
この名前は白の駒を赤に染め上げるという現象そのものを表したものか、或いは先手が赤となるというルール上あり得ないことを名前にした洒落なのか……まあ、どちらでもいいか。
「んじゃ、いくぜ!
ちっ、予想以上の速さだ。
「【魔法剣・
「
「
「
【魔法剣】の連続攻撃でポーン八体を破壊した。
……予想外に脆いな。これなら、案外簡単に勝てるんじゃないか?
「甦れ!
マジか……これ、敵の数を減らせないタイプじゃね。
「俺のチェスの駒は
えっ、ネタバレしちゃっていいの? 随分余裕だな、ダニッシュさんよ。
「
うわ、直撃で〝
まあ、すぐに【再生】で修復したけど。
そういえば、使ってなかったからやってなかったけど、【魔力治癒】、【再生】、【自己治癒】を統合進化させてみるか。……よし、成功。【自己修復】を獲得した。
効果は【再生】よりも上。しかし、自●修復術式のようなものはないが……。
「うわ、ニョキッて手が生えてきた。それアリなの!?」
「こっちも再生、そっちも復活できるなら
「こっちは圧倒的火力でそのHPを削れば勝ち、そっちは
ダニッシュの言う通り、コイツはちょっと長期戦になりそうだな。
◆
【レーゲン視点】
「僕がダニッシュさんを倒せないってのは分かるけどさ。いくらなんでも多くないか?」
神は三人いるけど、うち一人は長期の洗脳で戦力外だし、女神オレガノもあんまり戦闘向きではないし、残るは草子さんに散々打ちのめされていたウコンって武神だけ。
まあ、この人も強いは強いんだけど、あんまり強いって印象ないからな。負けっぱなしだし。
「メル様には指一本触れさせないぜ!」
「魔獣を生かしておく訳にはいかないな。僕が殺してあげるよ」
あー、見事に洗脳されているな。目にハートが浮かんでる。
よく、仲間を洗脳されると情に訴えて何とかしようとするけど、あんまり効果なさそうだし……
いや、あの子も被害者っぽいしな。つまり、マジェルダを殺してあの子を説得するのが一番ってことになるな。
「オレガノ様、戦えますか?」
≪翠雨君、【叡智賢者】に聞けば分かると思いますが、私だって神の一員――そこそこ戦えますよ。――【System startup, armed building ...... Confirm construction success】≫
オレガノ様の背後に巨大な砲台が組み上がっていく……いや、あの、それ、流石にやり過ぎなんじゃ。
≪回転式八砲身ガトリングレールガン――
「……いや、あのやり過ぎです。こんなん撃ったら照次郎も孝徳も死んじゃいますから」
≪た、確かに……仕方ありません、ただの銃にしておきます≫
いや、ただの銃でも撃たれどころが悪かったら死ぬけど。
「ウコン様、殺さずに無力化することってできますか?」
≪無理や。力加減はできひんよってな≫
……何、この愛すべきポンコツ達。
「しばらくは僕が戦いますので、お二人はマジェルダが一人になったところで派手にやってください。いいですか? 照次郎と孝徳は僕が助けます。メルって娘もなんとかします」
≪すみません、お力になれなくて≫
「いつまでごちゃごちゃ話している! 収束して迸れ、魔を滅する聖剣技――《
「全天で最も輝く星の輝きよ、我が正義の心に宿りて、悪に堕ちたる愚鈍を断罪せよ――《
この攻撃の組み合わせ、前にも見たことがあるな。
……確か、模擬戦の時か。
それじゃあ、あの時のリベンジと行きますか。
(〝煮え滾る溶岩マグマよ。壁となって我に迫る脅威を砕け〟――〝
レベル差のおかげか今回は防ぎ切ることができた。
【瞬間移動】を使って二人の背後に回り込み、聖剣フロッティで【峰打ち】を叩き込んで昏倒させる……今ので【峰打ち】のスキルを獲得したみたいだ。
「まさか、二人を倒してしまうなんて。……魔獣! いや、榊翠雨!! 貴様をメルの友達にしてやろう」
「残念だな。僕には【状態異常耐性】があるからプクとお友達になってよ、は効かないんだ。……それじゃあ、お前を叩き斬る」
「そんなことはさせん! 【鏡世界】!!」
――ッ! マジェルダが鏡の中に入った!?
……いや、違う。メルの頭を掴んだまま、一瞬だけ鏡に自分の身体をスキャニングさせるように入れたのか? 一体何の意味が。
「ハハハ! 見るがいい! これが私の力だ!! 【鏡世界・ミラーゲンガー】」
大量のマジェルダを召喚するスキルということか……それ、需要ないと思うんだが。
「「「「「〝漆黒の闇を構成する因子よ、溢れ出でよ〟――〝
聞いたことのない魔法だ。【闇魔法】のオリジナルか?
俺の足元から黒い闇が溢れ、吹き上げる……ちっ、HPが物凄い削られる。
【瞬間移動】を使って回避できたから良かったが……HPが一桁になってしまった。
【オールウェイズ・ワン】を使うまで追い詰められることもなく、【再生】を使ってなんとかHPを全回復させることはできたが、また〝
「踊れ踊れ黒剣よ!
【操剣】でコントロールされた黒剣が、縦横無尽な軌道でマジェルダ達に襲い掛かる。
マジェルダ達は鏡の欠片となって地面に落ち、そこから新たなマジェルダ達が現れた……って無限ループかい!?
「「「「「「〝悪の光に裁かれよ〟――〝
今度は杖から闇のビームを撃ってきた! というか、さっきからどっかで聞いたことある技連発しているけど、本当に大丈夫!?
【瞬間移動】を使って闇のビームを回避しつつ、メルを捕らえているマジェルダの背後に飛び、そのまま聖剣フロッティで一閃。
マジェルダ本人を殺せば勝ちだと思っていたけど、そもそもメルを捕らえていたマジェルダは本体じゃなかったみたいだ。よくよく考えてみると、あの一瞬で入れ替わっていたんだよな。
本人がわざわざ危険な場所にいる必要はない訳だし。
とりあえず、メルを捕まえてそのまま【瞬間移動】する。
「メルさん、後で照次郎と孝徳の【友情強制】を解いてくれないかな?」
「……でも、それだと私の友達が」
『そのスキルで作ったのは本当に友達か? 【友情強制】が切れたら友達じゃなくなる、そんなのが本当に友達だと言えるのか? ……まあ、俺には友達って言える人がいないからあんまり友達について語る権利はないと思うけどな』
……草子さん。ダニッシュさんと戦いながらこっちの声まで聞くってどんだけですか!?
……先に言われちゃったな。やっぱり、草子さんには敵わない。
『まあ、先輩と後輩、教師と生徒みたいな関係しか知らない俺でも良ければ友達になるけど』
「僕もいいですよ。頼れる友達がいないって辛いことですから」
地球に居た頃には友達は照次郎と孝徳くらいしか居なかった。
でも、こっちの世界に来てから僕にも沢山の友達ができた。
その切っ掛けを作ってくれたのは、他でもない草子さん。
僕程度の人間が友達だと称するのは烏滸がましいことは重々承知していますが、それでも僕は、草子さんを友達だと思っています!!
「……本当にメルのお友達になってくれるの?」
『ああ。こう見えて俺は約束だけは違えない男だ。嘘はつきたくないからな』
「僕の方も本心です……確かに少し思うところはありますが、それも全部あのマジェルダが原因ですからね。あれをぶっ殺せばチャラです」
「「「「「「私をぶっ殺すですと? ハハハ、榊翠雨、冗談がとてもお上手だ!! 神二柱を圧倒するこの私に勝つつもりか? 人間風情が??」」」」」」
まるで神にでもなったような言い草だな。いや、実際にマジェルダは自らが神になったと本気で思っているのか?
鏡は絶縁体――ウコン様との戦いは相性がいいから優勢に運べているだけ。
オレガノ様の方も、毎分口径三十ミリで一分間に五万発撃てる回転式八砲身ガトリングレールガンと【鏡世界】の鏡分身は相性が悪いから未だに勝ち星をあげられていないだけ。
でも、突破方法はある。そして、その方法はマジェルダ自身が示してくれた。
「〝漆黒の闇を構成する因子よ、溢れ出でよ〟――〝
「「「「「「――なっ、何!?」」」」」」
マジェルダ達の足元から黒い闇が溢れ、吹き上げる。
闇属性上級固有魔法――〝
〝
「〝悪の光に裁かれよ〟――〝
最後の一人が〝
「嗚呼、神よ! その慈悲を青き光へと変え給え! その御心の光を宿し、遍く邪悪を粉砕せよ。その光で全て暗雲を薙ぎ払い、この世を再び清浄にして聖浄なる地へと戻し給え! その慈悲の一撃を持って遍く罪科と原罪を赦し給え――《
ならば、僕も最強の一撃で迎え撃ってやる。
引き換えに俺の勇者固有技が使えなくなるが、その程度ではなんの支障もない。
剣から収束された青い光が解き放たれた。瞬間、〝
勝負あり、か。……コイツも偽物だったみたいだし、【鏡世界】を使った時に本物は逃げていたみたいだな。
「オレガノ様、ウコン様、ありがとうございました」
≪お力になれず、申し訳ございません≫
≪相性が悪いから勝てへん……ほんなら三流やな。「次はもっと強くなってオノレに勝負を挑む」って能因に伝えておいてくれ≫
ウコン様はマイペースだな。もう行っちゃったよ。
「オレガノ様、ミント様を連れてこのまま神界に戻ってください。僕はメルを連れてこの場を去ります」
≪分かりました。……でも、本当にいいのですか? 草子様を置いていって≫
「僕達がいる方がかえって草子さんの迷惑になりますから」
悔しいけど今の僕ではダニッシュさんに勝てない。
ここに居ても足手纏いになるだけなら、メルを連れてここを出た方がいい。
『なら、丁度いい。恐らくもうすぐ召喚部門の連中が動き出すだろう。目的は恐らく北北西から進軍する超帝国マハーシュバラの軍とこのミンティス教国の聖都の破壊だ。……奴らが国内に入った瞬間、連中は一斉に行動を開始する。その時、レーゲン君には召喚部門の連中と戦うのに協力して欲しい。メルをネメシスに届けたら、そのまま外で待機していてくれ』
「分かりました」
草子さんのユニークスキル……その全容はよく分からないけど、感知範囲は恐らくこの聖都全体に及んでいる。
それほどの情報をダニッシュさんと戦いながら解析してしまうなんて。
……おっと、感心している場合じゃない。とにかく今はメルをネメシス達に届けることだけ考えないと。
◆
【三人称視点】
マジェルダは走っていた。
【鏡世界】は既に破られてしまった。神格兵器はたった一撃で無力化されてしまった。
だが、マジェルダはまだ諦めていない。
マジェルダは莫迦では無かった。ダニッシュが裏切ったということが、そのまま護法騎士修道会がミント正教会を裏切ったということを理解していた。
今、神殿宮の外に出れば確実に殺される――そう確信していたマジェルダは、神殿宮の地下に存在する地下迷宮に設置していた鏡と【鏡世界】を使い、脱出したのだ。
マジェルダはまだ安心できなかった。ダニッシュが女神ミントの神格兵器化を知っていたということは、この迷宮に間者を送り込んでいたということになる。
マジェルダは意を決して迷宮を探索することにした。未だかつて誰一人として探索を行っていない迷宮の深部へと足を踏み出す。
魔獣達の強さはマジェルダの〝
特に苦戦もしないままマジェルダは迷宮を歩き、遂に最深部に到達する。
そこにあったのは、見たことのない技術で作られた巨大な船。
無数の砲台を持つその兵器は、科学というものについて全く知識を持たないマジェルダであっても一目でとんでもないものだと理解できるほどの代物だった。
「素晴らしいィ!! これさえあれば、私は王になれる!! 今度こそ、王に!!」
王になることを、支配者になることを誰よりも求めていた男は、遂に念願の力を手に入れたのだ。
マジェルダは早速その中に入ろうと足を一歩踏み出し――瞬間、何者かに心臓を指し貫かれた。
【――侵入者、感謝します。おかげでエンリは起動することができました。下等生物には勿体ないと思いますが賛辞を送ります】
「…………な、何故。こ、こんなところで……わ、私は、王に……」
貧民街に生まれ、踠き続け、あと少しで頂点に立てたのに、今まで見下してきた者達を見下せたというのに。
使徒天使は口を弧のように歪めると、神聖大剣アーティキュルス・エーアストを振りかざした。
◆
後にミンティス教国戦争や四陣営戦と呼ばれる戦争――その役者が遂にミンティス教国の聖都に集結した。
偽りの
ダニッシュ=ギャンビット率いるヴァパリア黎明結社召喚部門。
ダニッシュの情報を見極めるべくミンティス教国へと軍を進めていた超帝国マハーシュバラ・国防軍。
かくして三つ巴の戦いは、超古代文明マルドゥークの決戦兵器――飛空戦艦エンリルの参戦により、全く別種の戦いへと変化する。
即ち、YGGDRASILLを求める者達とそれを拒む者達との戦いへと。
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