機動要塞エレシュキガルは最新鋭の兵器と見せかけて実は結構欠陥があったりするらしい。異世界モノの機動要塞は往々にして大きな欠陥を抱えているようだ。

 異世界生活六十三日目 場所バラシャクシュ遺跡


【リーファ視点】


 巨大な扉を開けて入ると、その先には純白の大部屋が広がっていた。

 敵の姿はない。反対側の扉は閉まっている……ここから先にどうやって進めばいいんだろう?


 全員が入り切ったところで音を立てて扉が閉じた。……退路が断たれちゃった。


 目の前に小さな立方体が現れ、瞬く間に八本足の機動要塞を作り上げる。……これは、機動要塞エレシュキガル!!


「なんだ! あの巨大な機械は!!」


「……機動要塞エレシュキガルよ。あの八本の脚で多くの人々の命を奪った大規模破壊兵器……でも、あれは私達が止めた筈」


 柴田さんの久嶋君に対する説明には、隠しきれない動揺の気持ちが込められていた。

 勿論、私だって柴田さんのことをとやかく言える立場ではない。同じようにこの状況に困惑しているのだから。


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機動要塞エレシュキガル・データ

HP:9999999/9999999

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 HPゲージと名前が表示された。……データ、つまり機動要塞エレシュキガルが蘇ったという訳ではないのね。……良かった。


 それと同時に、私達の頭上にもHPバーが表示される。……これがゼロになったらもしかして死んじゃうのかな?


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ATTENTION

 このAR空間でHPが0になった場合、部屋の外に転送されます。一度敗北後、一時間は再挑戦できません。

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 死ぬってことはないみたいだけど、敗北後一時間は再挑戦できないルールは大きいな。あの凶悪な天使相手に一時間も戦い続けるのは辛い。


『先手必勝だ!! ――赤熱地獄爆炎陣シルクローデフェゴ


 機動要塞エレシュキガル・データの足元に赤い魔法陣が生まれ、炎が燃え上がる。

 早速アオスブルフの攻撃が決まった……これで倒されては――。


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機動要塞エレシュキガル・データ

HP:8999999/9999999

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 くれなかった。でも、かなりダメージを与えられている……これなら。


 砲台の一つに黒い輝きが宿り、巨大な球が放たれる。

 放たれた黒球はアオスブルフに命中し……どういうこと! アオスブルフが跡形もなく消えた。


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INFORMATION

 アオスブルフは一時間が経過するまで再召喚できません。


戦闘不能理由: 亜空を捻じ曲げる常闇アンシャルによる亜空間作成を世界の修正力で修正する際に巻き込まれて消滅。

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「これって、あの黒いヤツに触れたら一発退場って感じ?」


「多分花凛ちゃんの言う通りだと思うよ……スケールが大き過ぎて意味が分からない。草子君なら当然のように説明してくれると思うけど」


 草子君なら普通に説明できると思う。でも、今この場に草子君はいない。

 手に入った情報から私達自身で推理しないといけないんだ。


『リーファ様。あの攻撃、着弾地点を対象に発動しているのではないでしょうか? もし、そうだとすれば私達の攻撃を対象にすり替えることで攻撃を無効化できると思います』


「確かに、シュタイフェさんの言う通りだわ。その役目、シュタイフェさんにお願いできないかしら」


『喜んで……私では大したダメージは与えられないでしょうから』


 ダメージ計算がどうなっているのか分からないけど、身体が金属の敵に風属性は相性が悪い。


「シュタイフェさん、貴女は足手纏いじゃないわ。やってみたらダメージが通るかもしれないし、亜空を捻じ曲げる常闇アンシャルを無効化するのも重要な役目だわ。……シュタイフェさん、貴女だからこそ自信を持って任せられる」


『――ッ!! 分かりました、この役目、私シュタイフェが全身全霊を掛けて果たします』


 良かった。シュタイフェ、元気を取り戻せたみたい。


『私は単騎であの機械を攻める』


「分かったわ。リヒトさん、くれぐれも無茶はしないでね」


『リーファ様、私を誰だと思っている。光速の足を持つ私がそう簡単にやられたりする筈がないだろう?』


 自信たっぷりの表情でリヒトの姿が消えた。


「さて、私達も行こうかしら?」


『そうですね。参りましょう、リーファ様』


「『篠突く雨ディーペスト・レイン』」


 私とファンテーヌが剣を掲げると同時に猛烈な雨が降り始めた。


雨天の水鏡ウォーター・ゲンガー


洌流の鞭刎ストリーム・ウィップ


 ファンテーヌの分身が七体現れ、それぞれが鋭い鞭のように変化させた水を不規則な軌道を描くように振るう。


 だけど、攻撃の手数の割にあまりダメージを与えられない……やっぱり一発の威力が大きい方がいいのかもね。


「一発の威力がデカイ方がいい系? アタシ、対物アンチマテリアルライフルで仕掛けてみる」


「お願いします、八房さん」


「八房ちゃんのことは私が守るわ!」


「ありがとう、高津さん」


 どんな魔獣も一発で屠ってきた八房さんの対物アンチマテリアルライフル……あれなら機動要塞エレシュキガル・データに大ダメージを与えられるかもしれない。


「砲台にエネルギーが溜まっている……来るわよ!!」


 〝破滅の波動フィーニス・ウンダ〟を撃ち終わった柴田さんが、私達に砲撃の兆候を伝える。

 あれは、亜空を捻じ曲げる常闇アンシャルとは違う砲台……金色の光が収束している。


 それが、散弾のように放たれ……ッ! 避けられない!


明鏡止水の雨色同化レイン・ユーニフィケーション


 〈雨色の輪廻転生レイン・リンカーネーション〉と〈無音の長雨サイレント・レイン〉、〈雨天の水鏡ウォーター・ゲンガー〉を融合した私の奥の手を発動し、私自身を霧散させ、更に分身を生成して柴田さん達に迫る金色の光から身を挺する守らせる。


 ……私の身体を水に変化させたことで砲撃は無効化できた筈だった。

 でも、私のHPゲージはかなり削られているし、私自身精神に直接痛みを刻みつけられるような、そんな感覚を味わった。

 つまり、無効化したつもりが無効化できなかった。


「……今の攻撃、精神に直接ダメージを与える技だわ。状態変化していても攻撃は封じられないみたい」


 多分この技は聖さんのような幽霊やイセルガさんのような物質をすり抜けられる敵にダメージを与えるための兵器なんだと思う……聖さん、大丈夫かな?


落下する大岩ウナ・ゲランデ・ロッチャ・カーデ


 エールデが巨大な岩を機動要塞エレシュキガル・データの上から降らせ、かなりのHPを削った。

 同時に機動要塞エレシュキガル・データの動きが鈍くなる。


 ……これは、効いているわね!


 さっきの砲台とは別の砲台に赤い光が収束した。

 それが、機動要塞エレシュキガル・データの頭上に飛んでいく。……あれ? 私達の方を狙うんじゃないの?


 赤い光が機動要塞エレシュキガル・データに着弾した瞬間、猛烈な重量が機動要塞エレシュキガル・データと大岩に襲い掛かった。

 岩はそのまま押し潰されて砕け、機動要塞エレシュキガル・データは自分の攻撃のせいで身動きを取れなくなった。……もう少し考えて技を使おうよ。


「今がチャンスです! 一斉に攻撃を仕掛けよう!!」


『――放たれる岩弾パロットラ・ディ・ロッチャアタッココンセクティオ


煌光の穿閃ステルラ・トランスウォランス


「『激流の斬撃カレント・ストリーム連斬ラッシュ』」


「「〝万象を滅却する波動よ! 相反する相剋の力によりて顕現し、その力を思う存分揮い給え! 灰は灰に塵は塵に戻りて万物須らく円環の輪へと還る。今こそその輪を外れ、滅びの道を進み給え〟――〝破滅の波動フィーニス・ウンダ〟」」


「――狙撃!」


 エールデの岩石弾、リヒトのレーザー、私とファンテーヌの斬撃、柴田さんと高津さんの分解魔法、そして八房さんの狙撃が相次いで命中し、遂に機動要塞エレシュキガル・データのHPが0になった。


 機動要塞エレシュキガル・データが小さな立方体になって崩れていく……はあ、ようやく終わったわ。


 閉まっていた後方の扉と、新たに前方の扉が開いた。


「草子君、リーファさん達が来たよ!」


「……聖さん、俺も見えているから大丈夫だよ」


 草子さん達も無事に攻略していたみたいだ。

 草子さん達に迎えられ、こうして私達のバラシャクシュ遺跡攻略は幕を閉じた。


【白崎華代視点】


 聳えるような巨大な扉を開けて入ると、その先には純白の大部屋が広がっていた。

 反対側の扉は閉まっている……多分、この先に草子君達がいるんだよね?


 私達が全員入った時、扉が閉まり、目の前にポリゴンが現れ、瞬く間に八本足の機動要塞を作り上げた。


「「「機動要塞エレシュキガル!!!」」」


 嘘、なんであの機動要塞がいるのよ!!


「……これが、自由諸侯同盟ヴルヴォタットで暴れていたという機動要塞エレシュキガルなんですね」


「機動要塞エレシュキガルって何だ?」


 レーゲン君は知っていたみたいだ。大門君は……ずっと山籠りをしていたから知らないよね。


「……機動要塞エレシュキガルは、自由諸侯同盟ヴルヴォタットを中心に破壊の限りを尽くしていた機動要塞です。この機動要塞が通った後には草も残らないと言われています」


「……うむ、よく分からん。分からんが、ヤバい奴だってことは分かった」


 ……大丈夫かな? 大門君。


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機動要塞エレシュキガル・データ

HP:9999999/9999999

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 機動要塞エレシュキガルの頭上にHPゲージが出現した。……なんだかゲームみたい。


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ATTENTION

 このAR空間でHPが0になった場合、部屋の外に転送されます。一度敗北後、一時間は再挑戦できません。

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 ルール説明が表示されるのと同時に、私達の頭上にもHPゲージが出現した。つまり、これがゼロになったら私達は一時間再挑戦できないってことなんだね。


「……では、私は【透明化】して接近します」


「頼むわ、イセルガ。……【透明化】しながらレーゲン君にちょっかいをかけちゃダメよ!」


「………………な、何を言っているんですか、ロゼッタお嬢様」


「……後でお仕置きよ、イセルガ」


 ロゼッタさんの顔が嗜虐の色に染まっていた……ロゼッタさん、ドSが出てるよ!


 【瞬間移動】を使用して機動要塞エレシュキガルに肉薄――そのまま【分解のオーラ】を纏わせた大剣で、【究極挙動】によって最適かつ最速化した【逆袈裟斬り】を放つ。


 私が機動要塞エレシュキガル・データが距離を取った直後、レーゲン君の【黒雷】が炸裂した。


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機動要塞エレシュキガル・データ

HP:9261290/9999999

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 あんまり効いていない。【黒雷】の威力は魔獣を焼き尽くしちゃう程だけど、機動要塞エレシュキガルはその程度の攻撃では倒せないってことなのかな? まあ、データだからどうにでもなるんだと思うけど。


「「収束して迸れ、魔を滅する聖剣技――《夜明けを切り開く明星ルシフェル》」」


「全天で最も輝く星の輝きよ、我が正義の心に宿りて、悪に堕ちたる愚鈍を断罪せよ――《全天焼き焦がす煌明セイリオス》」


 私とレーゲン君は右手に握られた聖剣を一振りして横一文字に収束した青い奔流を放つ……と同時に、私はもう一方の手の聖剣から収束せずに青き奔流を解き放った。


 【二刀流】で別々の勇者固有技を放つ……できないかと思ったけど、できちゃった。

 草子君じゃないけど、あれこれ考えず、まずは実践してみると意外とできちゃったりするよね? それを躊躇なくできる草子君はやっぱり凄いんだと、改めて思う。


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機動要塞エレシュキガル・データ

HP:5197590/9999999

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 今のでかなり削れた。勇者固有技は効果的みたいだ。


「白崎さん、レーゲン君、砲撃来ます!」


 鋭い魔小剣オーセヴォシャブリノース爆熱式ヴズレフを飛ばしきったロゼッタさんが、私とレーゲン君に砲撃の兆候を知らせてくれる。

 視線を向けると、砲台の一つに青い輝きが収束していた……狙いは多分、私とレーゲン君。


 【瞬間移動】のスキルを発動して射程から逃れる。レーゲン君も同じように【瞬間移動】を使用して射程から外れた。

 青い輝きが収束し、光線となって一直線に発射される。


 誰も受けなかったから効果は分からないけど、多分とんでもない威力の技なんだと思う。……【瞬間移動】のスキル、手に入れておいて良かったよ。


 誰も攻撃していない筈だけと、HPゲージが減少している。きっと【透明化】を使ったイセルガさんが攻撃を続けているんだと思うけど、大したダメージは与えられていない。


「……武闘家モンクの私ではあまりお役に立てなさそうです。今度草子様に魔法をお教え頂かないといけませんね」


 【透明化】を解いたイセルガさんが、ハンカチで汗を拭いながら言った。

 確かに、イセルガさんは硬い機械と相性が悪い……【物質透過】と【透明化】を持っているから機動要塞エレシュキガル・データの攻撃を擦り抜けられると思うけど、これでは倒すまで相当時間が掛かる。……まあ、機動要塞エレシュキガルは、不完全状態ですら討伐できずに長年辛酸を嘗めさせられた兵器なんだけど。


「〝万象を滅却する波動よ! 相反する相剋の力によりて顕現し、その力を思う存分揮い給え! 灰は灰に塵は塵に戻りて万物須らく円環の輪へと還る。今こそその輪を外れ、滅びの道を進み給え〟――〝破滅の波動フィーニス・ウンダ〟」


 岸田さんの分解魔法が命中し、機動要塞エレシュキガル・データのHPが大きく削れた。

 〝破滅の波動フィーニス・ウンダ〟を撃って只管削っていくのも手かもしれないわね。


「収束して迸れ、魔を滅する聖剣技――《夜明けを切り開く明星ルシフェル》」


「全天で最も輝く星の輝きよ、我が正義の心に宿りて、悪に堕ちたる愚鈍を断罪せよ――《全天焼き焦がす煌明セイリオス》」


 もう一度【瞬間移動】を発動して、機動要塞エレシュキガル・データに接近――二刀で別々の勇者固有技を放つ。


「全天で最も輝く星の輝きよ、我が正義の心に宿りて、悪に堕ちたる愚鈍を断罪せよ――《全天焼き焦がす煌明セイリオス》」


 私に続けてレーゲン君も勇者固有技を放った……機動要塞エレシュキガル・データの残りHPは。


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機動要塞エレシュキガル・データ

HP:1122351/9999999

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 あと僅か……よし、これなら。


 機動要塞エレシュキガル・データの砲台の一つに金色の光が収束している!

 一旦離れないと……【瞬間移動】。


 私とレーゲン君はその場を離れた。そのおかげで私とレーゲン君は至近距離・・・・でこの攻撃を受けることは無かったんだけど。

 散弾のように放たれた黄金の輝きは、私を含め全員・・を撃ち抜いた。


「……この、感覚は。ロゼッタお嬢様に、魔法を撃たれた時に、似てますね」


 イセルガさんは【物質透過】と【透明感】を使っていた。にも拘らず攻撃が命中したということは、もしかしてこの砲撃は精神に直接ダメージを与えるものなの!!


 私達のHPゲージは今ので半分程吹き飛んだ……早く決着をつけないと、このままGAME OVERの可能性が出てくる。


「〝万象を滅却する波動よ! 相反する相剋の力によりて顕現し、その力を思う存分揮い給え! 灰は灰に塵は塵に戻りて万物須らく円環の輪へと還る。今こそその輪を外れ、滅びの道を進み給え〟――〝破滅の波動フィーニス・ウンダ〟」


「「収束して迸れ、魔を滅する聖剣技――《夜明けを切り開く明星ルシフェル》」」


「全天で最も輝く星の輝きよ、我が正義の心に宿りて、悪に堕ちたる愚鈍を断罪せよ――《全天焼き焦がす煌明セイリオス》」


「〝開門オープン〟」


 岸田さん、私、レーゲン君、そしてロゼッタさんの攻撃が相次いで命中する。……これで――。


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機動要塞エレシュキガル・データ

HP:0/9999999

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 ……ギリギリだったけど、なんとか勝てた。

 一方間違ったら敗北していてもおかしくなかったと思う。幸い敗北しても現実にダメージがある訳では無かったけど……もしこれが本当に命を賭けた戦いだったら、と思うとゾッとする。


 ……やっぱり、機動要塞エレシュキガルは恐ろしく強かった。


「扉が開くぞ!」


 大門君の声を聞き、扉の方に視線を向けるとずっと閉ざされていた扉がゆっくりと開き始めていた。

 この向こうには、草子君達の姿がある。


 ……ああ、私達は本当にバラシャクシュ遺跡を突破したんだね。

 その時、改めて長きに渡る迷宮攻略が終わりを告げたことを理解し、私は安堵の溜息を吐いた。

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