文学少年(変態さん)は世界最恐!? 〜明らかにハズレの【書誌学】、【異食】、にーとと意味不明な【魔術文化学概論】を押し付けられて異世界召喚された筈なのに気づいたら厄災扱いされていました〜
【榊翠雨視点】闘技場での決闘――バトルロイヤルと魔法使いの勇者
【榊翠雨視点】闘技場での決闘――バトルロイヤルと魔法使いの勇者
異世界生活八日目 場所ミンティス教国神殿宮 闘技場
時は経つのは早いもので、訓練を開始してから一週間が経とうとしていた。
果たして、時間は平等に流れているのだろうか? 我武者羅に頑張るほど早く過ぎ、暇を持て余していたり嫌な時間だったりするとゆっくりと過ぎていく。
僕はそれだけ我武者羅だったんだと思う。照次郎と孝徳がどう感じたかは分からないが、きっと早く感じたのだと思う。
さて僕達は今、闘技場の中にいる。
訓練の一環であると同時に、実地訓練に必要な実力があるかを確認するためにほとんど実戦に等しい模擬戦をすることになったのだ。
勝利条件は、一撃でもいれれば勝利になる初撃決着ではなく、相手に
だが、僕達はそのことに一切の気負いを持つことなくこの戦いの場に立っていた。
その理由は、聖法騎士修道会の騎士達――この場合は法術師と呼ぶべきか――が総力を挙げて発動している大法術――〈
例えどんな致死レベルの怪我を負おうとも結界の外に出れば夢へと変換され、一切合切消えてなくなるというとんでも法術に、最初は照次郎と孝徳も訝しんでいたが、実際にダニッシュ騎士団長が実演してみると二人も納得した?
……えっ? 僕はどうかって? いや、こういうのってライノベだとよくあることだから。……〈
ちなみに、今回この闘技場に来ているのはダニッシュだけではない。
護法騎士修道会、獣法騎士修道会、聖法騎士修道会、神聖騎士修道会のメンバーが勢ぞろいしていた。
未だに接点の無かった獣法騎士修道会と神聖騎士修道会の騎士団長だが、前者は髭面の大男、後者は
ちなみにダニッシュ曰く、ここにいない隠法騎士修道会の騎士団長を加えた四人は
何故かダニッシュだけ爪弾きにされているようだが、その理由は当人である四騎士のうちの三人もよく分からないそうだ。
◆
「それでは、これより模擬戦を開始する!」
今回の審判を担当するダニッシュ騎士団長が右手を振り下ろすのを合図に戦闘が開始される。
ちなみに、今回のルールは三人全員が敵同士のバトルロイヤルだ。最後に立っていた人が勝ちという、まあ分かりやすいルールである。
「〝不可視の地雷を〟――〝
魔法陣が床に複数現れ、眩く輝くと一瞬にして消えた。
踏んだ瞬間に爆発する不可視の地雷魔法陣を設置する【炎魔法】だ。……まあ、初級魔法だから威力は低いんだけど、厄介なんだよね。
ちなみに、【魔力察知】のスキルを使うと一目で魔法陣の位置が分かる。つまり地雷の位置は筒抜けな訳だが、それでこの魔法の価値が下がることはない。
爆発する魔法陣はそれだけで牽制の役割を果たす。二人の動きを制限するのに〝
「今の法術、見たことがないな。……いつの間に?」
言葉にした照次郎と孝徳が驚きの表情を浮かべている……まあ、二人には内緒にしていたからね。
「嫌らしい法術だね。……照次郎君、ここは一時休戦しないか?」
「そうだな。……俺達が組んでやっと対等って感じだからな」
……えっ、まさかの二対一!? いや、決闘には共闘を禁止するルールはないけどさ、酷くない!!?
照次郎と孝徳はそれぞれ聖剣を鞘から抜刀する。
「収束して迸れ、魔を滅する聖剣技――《
「全天で最も輝く星の輝きよ、我が正義の心に宿りて、悪に堕ちたる愚鈍を断罪せよ――《
そして、照次郎は聖剣を一振りして横一文字に収束した青い奔流を放ち、孝徳は収束せずに二刀から青き奔流を解き放つ……マジか、いきなり勇者固有技!! あのさ、いくら死なないからっていきなり必殺技を二人同時にぶっ飛ばすかよ!! OVERKILLじゃん!
(
「〝煮え滾る
【火魔法】の中級魔法が発動し、煮え滾る溶岩の壁が闘技場に出現した。
だが、それでも伝説に等しい
溶岩の壁は多少耐えたものの遂には決壊し、翠雨に襲い掛かった。
「「――翠雨!!」」
流石にやり過ぎたと思ったのか、照次郎と孝徳は心配そうな声を上げた。……全く、いくら模擬戦とはいえ相手を心配するなんてあり得ないことだぞ。
その感情は油断か、或いは慢心か……どちらにしろ自らが有利だと錯覚するのに加担する。
と、そのように他人事のように客観視していられるのは、最初から全て計算のうちだからだ。
そもそも僕はこの一撃で沈まない。そのための〝
「……翠雨、まだやるか?」
ダニッシュが心配するような視線を向けてくる……まあ、そう思うのも仕方ない。
僕はどう見ても満身創痍だった。――さっきまでは。
淡い光が僕の身体を包み込み、傷を癒す。
確かに勇者固有技は脅威だが、〝
「……【回復魔法】か? 詠唱が聞こえなかったところを踏まえると無詠唱か?」
「ええ。あの程度の傷、【回復魔法】で容易に癒せますから」
まあ、軽減しなければ瀕死だったと思うけど。だから、
この【魔法遅延化】は僕の固有スキルだ。魔法を使う中で試行錯誤を続けるうちに編み出すことに成功した。
ちなみに、誰にもこのスキルのことは話していない。まあ、奥の手みたいなものだ。
「それじゃあ、今度はこっちから行くよ!」
緩急のあるステップを素早く行うことにより、残像を発生させて相手を幻惑させる歩調――〈
そのまま【縮地】と【閃駆】を組み合わせ、二人に大きく肉薄した。
「「――なっ!!」」
照次郎と孝徳には二人に分裂した僕が肉薄したように見えているのだろう。
……そりゃ驚いて声を出すよな。
【魔力纏】の派生スキルとして獲得した【身体強化】を利用して身体能力を底上げし、筋肉の収縮を連続で行うことで発生させながら一刀を放った――二人に。
照次郎と孝徳は応戦するように剣を振るう。
激しい鍔迫り合いを演じることはなかった――掛かった。
孝徳の方に攻撃を仕掛けた僕の残像が立ち消える。と、同時に照次郎が聖護大剣ランヴァードゥケエスを落とした。
今頃照次郎は腕に激しい痛みを覚えているだろう。
斬撃を繰り出した際に筋肉の収縮を連続で行うことで発生する衝撃波を武器を通して相手に叩きこむ、第六●剣「毒●ノ太刀」をモデルにした一撃――〈
鎧すら貫通し内蔵にダメージを与える一撃を一度腕に喰らえば、しばらく剣を振るうことができなくなる。――まさしく、剣士殺しの一撃。
照次郎は普段、片手で聖護大剣ランヴァードゥケエスを扱っているが、ここぞという時には両手で剣を使う癖がある。きっと剣が重い故に、片手で扱うには限界があるからだろう。
僕はそこに付け込んだ。そして、見事作戦は成功し照次郎は剣を使えない状態――つまりほとんど戦闘不能に等しい状態に陥ったのだ。
勿論、まだ魔法という選択肢はあるにはある……が、魔法の使い手としてはこちらが僅かに優れている。
……もっとも、孝徳のサポートに徹するとなればその影響は無視できないものになるだろうが。
「孝徳、すまない。俺はもう無理そうだ。剣が握れなくなっちまったからな。魔法の腕では翠雨には敵わない……こりゃ、潔く降参する方がいいだろう?」
「……お疲れ様、照次郎君。後は僕に任せてよ。それに謝る必要はないよ。もし、君が翠雨君を倒していたら、次は照次郎君と戦うことになっていたんだし」
「ははは……それもそうだな。んじゃ、二人とも頑張れ!」
照次郎が闘技場を去り、模擬戦は僕と孝徳の一騎討ちになった。
「翠雨君、君は強い。だけど、僕だってここまで頑張ってきたんだ。僕は照次郎君も翠雨君も守れるくらいに強くなりたい。そのために翠雨君を倒すのはなんだか矛盾しているけど、僕は勝つよ!」
孝徳の優しさを心の奥で噛締めつつ――しかし、決して手は抜かない。
「〝雷よ、槍となって貫け〟――〝
意外にも孝徳は剣技ではなく魔法を使って攻撃してきた。
(〝雷よ、槍となって貫け〟――〝
【無詠唱魔法】のスキルを発動し、同じ魔法で応戦する。
スキルレベル的には若干僕が優っていたからなのか、拮抗はしなかった。……まあ、雷槍が孝徳に届くことも無かったが。
「〝蔦よ、汝を捕縛し自由を奪え〟――〝
【木魔法】が発動し、足元から蔦が生えて僕の足に絡みついた。
移動阻害……嫌らしいことこの上ない!!
(〝風よ、刃となれ〟――〝
足元に風の刃を発生させて蔓を切り刻む。しかし、その一瞬の間に孝徳は【縮地】を発動して一気に間合いを詰めてきていた。
孝徳の二刀が大翼のように広げてから、
武器試しのところで使った十字斬りを使うつもりか。
(〝真紅の炎よ、弾丸となって貫け〟――〝
それに対し、僕は剣で戦うのではなく魔法で応戦することを選んだ。
使用するのは【火魔法】に分類される初級魔法――だが、直列に並べて絶えず発射し続けたらどうなるか? 結果は勿論、オークさんがオーバーキルされます……今回の相手はオークじゃなくて孝徳だけど。というか、この世界にオークっているの?
それを剣を広げてから
お腹を見せているってことはそこにぶち込んで欲しいってことだよね!? そもそも変身シーンとかで待ってくれる敵の方が明らかにおかしいから!!
孝徳は十字斬りを成功させられないまま後ろに吹っ飛ばされた。……いや、ちゃんとダニッシュ騎士団長が言ってたじゃん。「構えるまでがそこまで早くない。今回は敵が動かなかったから成立したが、もし敵が動いていたら上手くいかなかっただろう」って、実際そこまで早くないから容易に対処できるよ。
えっ? 親友相手に辛辣だって? 二人で共闘して徹底的に潰そうとしてきたんだから、これくらいの評価甘んじて受けてもらわないと。
ここで終わり? いや、まだ僕のターンだ。
〝
きっと、後方に移動して体制を整えようとしているのだろう。
僕にとって勇者固有技は脅威だ。……まあ、対処はできるが正直なところ面倒。
だから使われる前に潰す。――この勝負、僕がもらった。
片足を軸にして旋風のような回転切りを放ち、それを【飛斬撃】で飛ばす。
完成したのは無数の斬撃で構成される竜巻――それが横向きに広がりながら孝徳の腹を抉った。
……〈
◆
結界から出たことで照次郎と孝徳の傷は完全に無かったことになった。
改めてとんでもない魔法だったと実感する。
僕らはその後、それぞれの部屋に戻ることになった。
明日からは、いよいよ実地訓練だ。どんな訓練になるのか未だ全容が明らかにされていないし、ダニッシュ達――闘技場にいた騎士団長達に聞いてみたが、みんな知らなさそうだった。
今回の闘技場には
今回の実地訓練は恐らく
「まあ、明日になったら分かることだから」と、僕は
――まあ、訪れたところで何かが変わる訳でも無かったのだけど。……って結果論か。
いつも通り夕食を終え、部屋に戻った。
明日からは実地訓練だ。長距離の移動に慣れない場所と新しいことづくめで疲れることは間違いない。
今日は早く寝て英気を養うべきなのだろうが、全く眠気が無かった。
実地訓練は一つの区切りだけど、それは始まりに過ぎない。
異世界の冒険は実地訓練を終えてからが本番だ。未知の敵、強大な魔王軍、それらを倒すことこそが僕らを召喚した意味なのだから。
それに、ミント正教会にも心を許せている訳ではないし、マジェルダが約束した地球に還すことについても確証がある訳ではない。
例え、それができたとしてもマジェルダにその
送り帰す儀式のために力を使うくらいなら、秘密裏に処刑したり偶像として政治の道具に使った方がよほど建設的だ。
それに、あの声のこともある。少しずつ弱々なってきているが、あの神様の声はまだ僕の耳に届いている。
ミント正教会は間違いなく何かを隠している。……まあ、それについては僕らが偶然知ってしまわない限りは問題ないだろう。
だが、ミント正教会が何かしらのことを隠蔽しているということは、そのままミント正教会が信用に値しないという結論を導き出す根拠の一つになることは間違いない。
……しかし、実地訓練か。異世界ものだと主人公がこういうところで何かしらの事故か事件に巻き込まれてパーティを離脱するのがテンプレだよな。
そしてそこから単独行動を開始する。今までの狭い視野から一気に視界が広がり、様々なことを見聞きし、新たな出会いと別れを経験しながら、世界を見つめ直すことになる。
……まあ、これは異世界であって異世界モノじゃないから、そんなことにはならないと思うけど。そもそも僕達を殺す理由がミント正教会にはない訳だし。
未だ眠気に襲われないので、呼び鈴を鳴らしてメイドを呼び、紅茶を持ってきてもらうことにした。
えっ? 紅茶にもコーヒーと同じようにカフェインが含まれているから余計眠くなくなるって? 確かに紅茶に含まれるカフェインは三パーセント程度とコーヒーの三倍の量に当たるけど、抽出の効率も異なるし、タンニンと結びつくことで効果が抑制されるから、特に問題があるとは思わないけど。
「……よっ、眠れないのか?」
部屋に入ってきたのは照次郎だった。……なんで僕が寝てないことを知っているの?
「さっきメイドさんが紅茶のポットを持ってこの部屋に入っていくのを見てな。気になったんで来てみたんだ。……俺にも分けてくれないか?」
部屋の棚に置いてあったカップとソーサーを二つ取り、ポットの仲間を注ぐ。
メイドが気を利かせて持ってきたクッキーをお茶請けに紅色の液体を口の中に入れ、味わいながら飲んだ。
清々しいフルーティな香りと、仄かな苦味、酸味、甘み、渋みが口の中に広がる。
「……ようやくリラックスできたか? 翠雨、お前こっち来てからずっと眉間に皺を寄せてたぞ」
思えばこっちに来てからずっと思考を巡らせていた。
一人で考えて、一人で突っ走っていたと思う。
「翠雨……お前の悪い癖は一人で全部背負いこんじまうことだ。お前は自分よりも人を優先しちまう。俺や孝徳から距離を置こうとしたのも、俺達に迷惑を掛けると思ったからだろ? 自分を犠牲にしようとするな、一人で背負い込むな。なんで俺や孝徳がいると思っている。俺達にも相談くらいしてくれよ、友達なんだから!」
「……そうだよ。それとも、僕達がそんなに頼りないかい?」
孝徳が部屋に入ってきた。孝徳も照次郎とほとんど同じ理由で僕が起きていることに気づいたのだろう。
「照次郎、孝徳。二人は僕の友達なんだよな。気を遣って、そうやって接してくれているんじゃなくて」
「……今更何言ってんだ、お前。体格も得意分野も違うけど、俺はお前を友達だと思っているし、照次郎も思っていると思う。だろ?」
「勿論だよ。……向こうの世界で翠雨君が心ない人達から酷い言葉を掛けられているのには気づいていた。僕や照次郎が評価され、翠雨君だけが評価されないことには苛立ちを感じていた。……本当に僕達の中で凄いのは翠雨君なのに。だけど、何もできなかった。いや、何もしなかったと言った方が正しいかもしれない。……それでも翠雨君は僕を友達だと認めてくれるかい?」
……どうやらお情けで友達であり続けていた訳ではないみたいだ。いや、もしかしたらこの言葉もお情けなのかもしれない……ってそう考えると無限ループだな。
「それで、お前の頭痛のタネはなんなんだ? 生憎とこういう話は苦手だが、俺にだって協力できることはあるだろう?」
「ありがとう。……でも、まだ確証がないんだ。だから今は何も言えない。いつか、確証が得られたら二人にもちゃんと話すよ」
今話しても徒らに二人を困惑させるだけだ。だから今は話さない。
もし、確証が得られたら改めて二人に相談したいと思う。――これから、どうしたいかって。
◆
【三人称視点】
草木も眠る丑三つ時、第一礼拝堂にて。
その後方には、ミント正教会の最高戦力である五つの騎士修道会の騎士団長達の姿がある。
「……たった今、神託が降りました」
厳かな雰囲気の空間に、マジェルダの声が響き渡る。
「神託に従い召喚した異世界人の中に世界を滅ぼす可能性を秘めた存在が紛れ込んでおりました。我らが主は、その者が脅威となる前に消し去るべきだと仰せです」
女神ミントの言葉はミント正教会にとって絶対だ。
例え、自身の感情がどうであれ、神託には従わなければならない。
「いい機会です。明日から行われる実地訓練を利用して、その者を暗殺致しましょう。この任務については隠法騎士修道会に一任致します」
「――我、了解せり」
隠法騎士修道会の騎士団長は暗闇の中へと溶け込んでいった。
騎士団長達も部屋を後にしていく。
ダニッシュは部屋を退出する際、厳粛な表情を浮かべるマジェルダの口が僅かに歪んでいることを
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