【北岡胡桃視点】思いつきでミスリルとオリハルコンを生産して【錬成】して曲刀を作ってしまうような人をにーとにしておくのは勿体ない。

 異世界生活十一日目 場所フィージャ草原


「……さて、次は北岡さんか。まずはじめに到達目標的なものを聞きたいけどいいかな? 後でこれについて教えて欲しかったとか言われると面倒だから」


 白崎さんの次は私、この機会に戦い方を学んで白崎さんと朝倉さんの力になれるようにならないと。


 ……ゴブリンと戦い、あのまま戦っていたら確実に負けていた。白崎さんは回復職――私達のように前線に出て戦う役回りでじゃない。あの場で私は白崎さんを守って朝倉さんと共に一体でも多くのゴブリンを倒さなければならなかった。そういう役回りだった。


 次にまたこういうことが起こる確率はゼロじゃない。前回助かったのは、草子君が助けに来てくれたのは奇跡だった。そんな奇跡はそうそう起こらないし、これ以上草子君に縋るわけにはいかない。

 だから、次は私も人並み、いやそれ以上に戦えるようにならないと。白崎さんと朝倉さん――二人を守れるくらいに。


 でもその前に、まずはステータスを確認して到達目標を決めないといけないなぁ。


-----------------------------------------------

NAME:北岡胡桃 AGE:16歳

LEVEL:9 NEXT:900EXP

HP:240/240

MP:180/180

STR:325

DEX:362

INT:12

CON:180

APP:22

POW:175

LUCK:36


JOB:大盗賊アーク・シーフ、魔法師、冒険者


SKILL

【短剣】LEVEL:6

【不意打ち】LEVEL:1

【四大魔法】LEVEL:1

【氷魔法】LEVEL:1

【雷魔法】LEVEL:1

【木魔法】LEVEL:1

【金魔法】LEVEL:1

【マルドゥーク語】LEVEL:1

【クライヴァルト語】LEVEL:2

【マハーシュバラ語】LEVEL:1

【エルフ語】LEVEL:2

【罠解除】LEVEL:1

【罠利用】LEVEL:1

【罠発見】LEVEL:1

【発掘】LEVEL:1

【宝物発見】LEVEL:1

【宝箱開錠】LEVEL:1

【宝物庫】LEVEL:1

【潜伏】LEVEL:1

【隠形】LEVEL:1

【忍び歩き】LEVEL:1


ITEM

・ミスリルナイフ

・麻の縄

・盗賊の服

・着替えセット×5

・学生服

・ボストンバッグ

・金貨×3

・銅貨×65


NOTICE

・通知一件

→未使用のポイントが後200あります。

-----------------------------------------------


 ……やっぱり、私の欠点は攻撃的なスキルが圧倒的に足りていないことだと思う。

 どちらかと、盗賊シーフという職業は補助職に分類されるからか、攻撃が本職の武士サムライに比べて攻撃スキルが少ない。

 それに私の武器はミスリルナイフ――攻撃射程はかなり短い。その辺りは魔法で補うしかないけど、MPも無限じゃない。……物理攻撃の射程を少しでも広げられたらいいな。


「決まったか?」


「ええ、決まったわぁ。お願いしたいことは二つ……一つは攻撃手段を増やしたい、もう一つは攻撃範囲を広げたい。魔法を使わずにね」


「なるほど……確かにミスリルナイフと【短剣】では間合いを詰めて攻撃しなければならない。それ以外に攻撃手段が無いのはきついな。……じゃあ、まずは武器を創るか……やったことないけど」


 ……なんでそんなにスケールの大きな話になったんだろう? 武器から自作するの? というか、草子君って鍛冶屋だったの? 無職にーとじゃないの!?

 思いつきでどうにかできることじゃないし、草子君にも何か策があるんだろう……まさか、無策とかは無いよね……草子君に限って。

 というか、そもそも武器の素材って持ち歩いているのかな? 迷宮を攻略していたみたいだし、伝説の金属とか拾っているかもしれないけど……って思っていたんだけど。


「〝銀の輝きと鋼を凌ぐ強さを持つ魔法金属よ、我が魔力を喰らいて生まれ出でよ〟――〝メタルメイク・ミスリルダイト〟」


「〝アトランティスの底に眠る最硬の神金属よ、我が魔力を喰らいて生まれ出でよ〟――〝メタルメイク・オレイカルコス〟」


 って、まさかの材料から自己生産ッ!! というか、普通にミスリルとオリハルコンを創り出すってなんなの!! ファンタジーに疎い私でもこれがどれだけファンタジーの世界で高い地位を築いているかは知っているわよ!!


「【錬成】スキルを使用してミスリルとオリハルコンを錬成……合金の塊を作ったら、伸ばして、整形して……よし、いいできだ。やっぱり盗賊といえばコレだよね! 完成、オレイミスリルの曲刀シャムシール!!」


 いや、絶対盗賊シーフの定番じゃないわよ、それ! オリハルコンとミスリルの合金の武器なんて持っている盗賊シーフなんて絶対居ないし、そんなの持ってたらとっくに盗賊シーフを廃業して農村でスローライフとか始めるわよ!!

 というか、オレイミスリルって何! 新しい合金作っちゃった!? ……草子君って本当ににーとなの!? 絶対に、遊ばせとくの勿体ない人材だよ!!


「【曲刀】なら大盗賊アーク・シーフでも習得できる筈だ。オレイミスリルの曲刀シャムシールなら、ミスリルナイフよりも硬くて射程も長い。――これなら今までよりも戦えると思うぞ」


「ありがとう。でも、いいの? 私だけこんなにいい武器を貰っちゃって?」


「? 白崎さんは神話クラスの杖――聖杖アスクレピオス、朝倉さんは『日本神話』の神刀――天羽々斬アメノハバキリ。北岡さん、お前の武器はあの二つより明らかに劣るだろ? 大方その盗賊の服とかと一緒にアイテム詰め合わせ《大盗賊アーク・シーフ》の中にでも入っていたんじゃないか? ミスリルは確かに強いかもしれないが、ナイフは主武器メインウェポンを張れるほど使い勝手のいい武器じゃない。『こんな高価な武器とか受け取れません』とかそんな遠慮はするな。そんなことをしてる暇があるなら白崎さんと朝倉さんを守るって自信満々に言えるくらい強くなれ。……折角お前達のために時間を削ってやってるのに、そう簡単に死なれたらこっちが迷惑だ。掛けた時間が無駄になっちまう」


 草子君はツンデレさんだな。「一人がいい」と言いながらも決して放り出したりはしないし、なんだかんだで必要な時は力を貸してくれる。

 私達を置いていこうとするのも、「内心では私達が変態な性質を持つ草子君に嫌悪感を抱いているけど、助けてもらったのにそんなこと言えないから無理して一緒に行動しているだけだろうから、一刻も早く無理なんてやめてこんな変態とは離れた方がいい」と、私達を心配してくれている故の行動なんだろうし、「こんな変態と旅をするよりも、本当に相応しい人達と旅をして欲しい」という優しさも含まれているんだと思う。


 ……だけど、それって全部草子君の勘違いなんだよねぇ。確かに草子君の変態性には多少引くところはあるけど、そんなことは霞んでしまうほど草子君の良さをこの世界で再会してから沢山知ったんだよ。


 一度決めたら例えどんなに困難な道でも突き進み、成し遂げてしまう一途さ。白崎さんが地球に居た頃から君を尊敬していたのも分かったよ。


 嫌な顔しながらも結局最後は助けてくれる優しさ。……もし、あの時助けに来てくれなかったら私達はゴブリン達に蹂躙され、尊厳を傷つけられ、殺されて打ち捨てられていた。その運命をなんでもないことのように顔色一つ変えずにフランス語混じりでねじ伏せてしまった草子君には感謝してもしきれない。


 私達はまだ草子君に恩を返せていない。このまま何もできないままエルフの里でお別れなんて、そんなの許せる訳がない。

 白崎さんも朝倉さんも同じ気持ちだ。だからこそ、この感謝の気持ちを返すまでは絶対に草子君を一人で行かせない。


「他に思いつく武器系のスキルは【弓術】かな? 俺は【弓術】のスキルを持っていないからリーファにでも教えてもらえ。大盗賊アーク・シーフでは【弓術】を取れないなら弟子入りアプレンティシップすれば問題ない筈だ。後は……【宝物庫】はゲームのアイテムボックスみたいなものだから持ち物を入れることができる。罠関係のスキルや宝物関係のスキルは実際にダンジョンに潜って実践するのが一番だし……となれば、次は【気配察知】と【窃盗】の二つの習得かな。【気配察知】は敵との戦闘の回避や奇襲にも役立つし、【窃盗】をうまく使いこなせば相手の武器を奪って無効化することもできる。そうなればこちら側が有利な状況で戦闘を開始できる筈だ」


 先に敵の位置を把握すれば、事前に作戦を立てることもできる。【窃盗】で武器を奪えば戦わずして勝つこともできるようになるかもしれない。

 当初の予定には無かったけど、草子君が教えてくれるということなのでありがたく教えてもらおう!


「まずは【気配察知】だな。目を瞑って周囲の気配を探るイメージだ。スキルを得てからは特に意識せずとも発動できるが、スキルを会得するならそのイメージを忠実に再現する必要があると思う」


 草子君に言われた通り、目を瞑って周囲の音に耳を澄ませる。

 最初は真っ暗で何も見えなかったけど、時間が経ち神経が研ぎ澄まされてくると、人間大の影が目を瞑っている筈なのに浮かび上がってきた。

 これが……【気配察知】。


 人間大の像は私の右側から私の背後の方に回り始めた。

 背後から襲撃を仕掛けるつもりなのだろう。思い通りにはしない!


 素早く体を反転させ、背後に立つ像と正対した。


「お見事、【気配察知】を会得したようだね」


 像の正体は草子君だった。……まあ、立っていた位置からして草子だとは思っていたけどね。

 ……多分、草子君は殺気を隠そうとすれば隠すことができた。だけど、あえて隠さずさっきを垂れ流しにした。だから【気配察知】で草子君の姿を捉えられたんだと思う。……まあ、完全に殺気を消されたら練習にならないけどね。


 その後、もう一つの【窃盗】のスキルも何度か試行錯誤を繰り返す中で会得し、私の個人レッスンの時間は終了した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る