【白崎華代視点】女子会って、もっと、こう、楽しいものだったと思うんだけど……なんで私達の女子会はお先真っ暗になっているんだろう。

 異世界生活十日目 場所アルルの町、宿屋クルミ荘 女子会


 草子君に渡された鍵を使って部屋に入る。五人部屋として割り当てられたこともあって、中は広々としていた。


 部屋に入ったら草子君の言っていた通り女子会が始まった。議題はどうやって草子君に見捨てられる運命を回避するかである……うん、あんまり女子会っぽくない議題だね。


「……このままだと確実に私達、全員エルフの里に置いてきぼりにされるよね。草子君的にはそれが最善だと思っているみたいなんだけど、なんでそういう結論になっちゃうんだろう?」


『草子君は「俺みたいなモブよりも、勇者みたいな人達と一緒にいた方が白崎さん達も幸せだ」って思っているからエルフの里で、そんな人達と巡り合うことを願って置いていくつもりなんじゃないかな? 白崎さん達がまだ襲われていることを知った時も「きっと誰か助けると思うけど……通り掛かった親切な勇者様とか。それで恋に落ちるとかそういう感じなんじゃない? そういうロマンチックな展開を奪うのって良くないと思うんだけど」って言っていたし。……なんで、そもそも草子君が自分をモブ認識するようになったのかは分からないけど、あいつが自分を日陰の人間――居ても居なくてもあまり関係の無いモブだって思い込んでいる限りは白崎さん達を置いていくと思うよ。……まあ、あたしとリーファさんの場合は別のことが原因だと思うけど』


「……確かに私はBLを愛していますし、聖さんは天性の爆弾魔ですけど……そもそも彼自身とんでもない変態ですから、いくら私達と一緒にいたところでこれ以上変態に毒されようが無いと思いますけどね」


『草子君は自分の変態性を自覚しているから、自分の変態性だけで精一杯であたし達の変態性を受け入れられる余力が無いって感じなのかもしれないわね。……アレ、ソレダトアタシタチ、ドウヤッテモオキザリカイヒデキナイネ』


 このままだとどうにもならないという事実を知って意気消沈する聖さんとリーファさんがなんとか回復するのを待ってから女子会を再開。……あれ、どこまで話したんだっけ?


「……華代、草子君が自分をモブ認識するようになった理由からだわ。……まあ、草子君が私達に力を貸したがらない理由は他にもあるだろうけど」


 朝倉さんがなんとか話を戻してくれた。……うん、そういえばそうだったね。


「草子君が力を貸したがらないのは、私達が関わりを持とうとしなかったからよね。織田君とか志島さん達はまだいい方――その他のクラスメイトは草子君の変態性を恐れて近寄らなかった。……いえ、人のことをとやかく言える立場では無いわね。かく言う私も……。草子君にとって、大切なのは自分を初めて認めてくれた教授さんとそのゼミの先輩達だけ、それ以外は生きようが死のうが関係ない。……なのに、異世界に来て強くなったからって私達は急に掌を返して草子君と行動したいって言い出した。あまりにも身勝手で傲慢……なのに、草子君はそれでも期限付きながら一緒に行動することを許してくれた。私達のやろうとしていることは、草子君に強制しようとしていることはどこまでも自分勝手」


 朝倉さんからも北岡さんからも反論の言葉は出ない。

 もう、諦めるしかないのかな? どう考えても私達が百パーセント悪い。どこにも弁解の余地は無い。

 草子君を好き勝手に利用しようとしているのは私達の方だ。


『……う〜ん、あたしは違うと思うけどな。だって、草子君の変態性を目の前に引かない方がおかしいでしょ? あたしだって引かれたし、リーファさんだって引かれたし、あたしもドン引きだし。……それで距離を取ったのを批判することはできないと思うけど。確かに、掌を返してさも当然のように草子君の隣に居ることは良くないと思う。そう思うなら、草子君にその気持ちを伝えなくちゃ。そして、隣に居る理由を、一緒に居てもいいって草子君が思える理由を提示しようよ! それが、白崎さん達のすべきことだよ……まあ、あたしの一意見だけどね』


 行き詰っていた私達の活路を拓いてくれたのは聖さんだった。

 聖さんは一意見だって注釈をつけていたけど、多分聖さんが言ったことが全てなんだと思う。


 思っているだけでは意味がない。伝えなければ意味がない。

 そして、草子君に私達が必要だって思ってもらえる理由を提示しないと……うん、こっちの方が大変だ。


『うん……白崎さん達と私達では考えないといけないことが違うみたいだし、ここからは分かれて話し合った方が良いかもしれないね。……じゃあ、リーファさん。行こっか』


 女子会解散。正確に言い直すと聖さん達「変態性を受け入れてもらう方法を考えないとお先真っ暗だよね女子会」と私達「草子君に私達の存在意義を感じさせないとお先真っ暗だよね女子会」に分かれただけなんだけどね……どっちもお先真っ暗だ。女子会って、もっと、こう、楽しいものだったと思うんだけど……なんでこんなことになったんだろう。


「しっかしぃ、私達の存在意義かぁ……うん、普通の男の子は可愛い女の子と一緒に旅をできるならそれで喜ぶと思うんだけどな。特に胸の大きいな女の子とかぁ」


「それは、私への当てつけか! 胡桃ィ!」


 朝倉さんが北岡さんのメロンがゆらゆらと揺れる。

 北岡さんは相当なものをお持ちだ。確か二週間前にも下着を新調しないといけないって言っていた気がする。

 ……言いにくいけどこの際はっきり言うと、朝倉さんはぺったんだ、真っ平らだ。そのことをコンプレックスに思っているようで、この手の話になると朝倉さんの表情は般若の形相になる。……草子君は朝倉さんのことをクラス副委員長Aさんって呼んでいた気がするけど、バストサイズがAということじゃなくて、朝倉のイニシャルのAの筈だ。……もし、クラス副委員長〇さんがバストサイズで判定されているんだったら北岡さんはクラス副委員長何さんになるんだろう……クラス副委員長Iさんとか?


 えっ、私? 流石に北岡さんのメロンには敵わないよ。……想像にお任せします。


「……うん、草子君にお色気は効かないと思うな。ほら、あんなに美しかったり可愛かったりするリーファさんと聖さんが私達と一緒に置き去り予定だし……草子君って本の誘惑にはあっさり引っかかるのに、女の誘惑は全く通用しないから」


「なら、どうする? 料理でも作るか? それくらいなら私にもできるぞ」


「聖さんの話によると、迷宮に居る間は草子君がずっと料理していたみたいだよ。その時は焼肉ばっかりだったんだけど、材料と調理器具さえあればそこそこのものが作れるみたいだから、料理ができてもあんまりプラスポイントにならないんじゃないかな? というか、下手すると草子君、調理器具から自作しちゃいそうだね。【錬成】とか持っているみたいだし。物凄い凝り性だし」


「……さっきから否定してばかりだが、白崎には何か案があるのか?」


 いくつか考えてみる。だけど、妙案は浮かばない。

 草子君は、自分の目標を達成するためならどんな無茶だってやってしまうだろう。国立大学に入るために夏休みから勉強を始めてすぐの中間テストで学年一位を取ってしまうほどの頑張り屋だ。きっと、目的のためなら異世界で地球より先にサグラダファミリアを建設することだって、幻の大陸ジーランディアを掘り起こすことだってやってしまうだろう。……異世界にジーランディアがあるかは分からないけどね。


 草子君にできないことと考えても特に何も浮かばない。……あれ、草子君ってもしかしなくても一人で生きていけるタイプだった? 私達の存在意義本当に無いよ!


 考える、けど思いつかない。思いつかないまま時間が過ぎていく。

 草子君にしてあげられること、私達にしかできないこと……そうだ、草子君といえば本。だけど、草子君は自力で本を手に入れてしまうから私達が本を買ってプレゼントする意味はない。

 なら、この世界にも地球にも無かった本を贈ろう。つまり、本を書くんだ。小説家になろうだ! ……異世界で? 異世界ものを地球で書くんじゃなくて?


「朝倉さん、北岡さん。この世界にも地球にも無かった世界でたった一冊の本を贈ればいいんだよ! 私達三人で小説を書こう!!」


「……白崎って私達より賢い筈だけど時々大丈夫かって発言をするよな。……あのさ、私達には本を書いた経験がない。さあ書こうって言ったところで小説ってものは書けるものじゃないだろ? それに、草子君はおそらく文学理論で完全武装している。そんな奴相手に素人が武器を持って襲い掛かっても返り討ちにされるだろ? あいつは戦闘だけじゃない、文学においてもチートなんだ。そんなあいつを満足させられるようなものを作れると本気で思っているのか?」


 確かに朝倉さんの言う通りだ。草子君を満足させられるような小説を小説を書いたことが無い素人女子高生三人で書けるとは到底思えない。

 全く策が思いつかないまま女子会はズルズルと続き、仲居さんが「夕餉の用意ができた」と呼びに来たところで自然解散した。




 ……本当にどうすればいいんだろう。

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