第ニ章「腐女エルフと“天使様”達と先行論狂信者と」

レッサーパンダなのにガチムチマッチョでジャイアントなのは矛盾している筈だけど……異世界の魔獣だから問題ないのだろうか?

 異世界生活??日目 場所???の森


 迷宮の最奥部にあった魔方陣によって転送された先は鬱蒼と茂る森の中だった。

 ……迷宮ダンジョン探索アタックものの次は樹林フィールドダンジョン探索アタックもの? どんだけ俺に探索アタックさせたいんだよ!

 ……まあ、普通に市街地とかに転送されたら、まずそれが普通の市街地かを疑うけど。


 そういえば、最初に俺がランダムワープさせられた先って迷宮だったっけ。確かに序盤に飛ばすべき場所としては最悪だって思ったけど、よくよく考えてみると魔王の間とかに飛ばされた方が最悪だった。いや、レベル一で魔王挑戦とか流石に無理ゲーだよ。まあ、今の俺のレベルなら魔王戦だろうと何だかなっちゃいそうだけど。……オレッテマオウヨリツヨイノ?


『久々の外だー! って、異世界に来てから初めての空の下なんだけどね』


「残念だけど空は見えないな。鬱蒼と茂っている木々に遮られて木漏れ日が入ってくるくらい……まあ、ジメジメの迷宮よりはジメジメの森の方がまだマシか」


『どっちもジメジメじゃない。……ああ、早く町とかに行きたいわ。エルフとかドワーフとか、そういうのが居るんでしょ?』


「よく知っているじゃないか。……先に釘を刺しとくけど背後から迫ってダイナミテー投げつけるとかやめとけよ」


『ちぇー』


 ……やっぱりやろうとしてたか。コイツの変態性は異常クラスだからな。なんたって、コイツの変態性を表せる言葉が地球上に存在しないくらいだ。……えっ、お前の変態性を表せる言葉も無いって? ……マサカ、オレッテコイツトドウレベル?


『それで、これからどうするの?』


「とりあえず、人を探す。この世界について大まかなことは知っているけど、それ以外のことはさっぱりだ。世界情勢があの老害が言っていたような単純なものでは無いことはさっき分かった。ヴァパリア黎明結社を裏切った魔法師が教えてくれたからな」


『ホントあの老害ってふざけているわよね。沢山の力が必要だから集団で召喚したのに、転移先をバラバラに設定したり、転移先の座標はテキトーだし。……一体何をしたかったのかしら』


「烏合の集を量産したかったんじゃね?」


 老害は烏合の集にする天才だ。本人のその気があるか無いかは別として全ての者を烏合の集にしてしまうのだろう。

 あの老害の天才によって、一体どれくらいの転移者が非業の死を遂げたのだろうか。……老害は烏合の集にする天才じゃなくて、烏合の集にする天災なのかもしれない。……ゴッドスレイヤーしておくべきだったよ。


「脱線し過ぎたしそろそろ本筋に戻ろう。とりあえず、俺達の当面の目標は森を脱出することだ。幸い、俺はどこででも暮らせる。聖さんは幽霊だからそもそも衣食住を必要としない。どこかに拠点を作る必要も無いだろう」


『……人を二十四時間働ける便利屋扱いしないでよね。あたしだってちゃんと場所は欲しいし、睡眠もちゃんと取っているわ』


 えっ、幽霊って睡眠いるの? 死んでるから寝る必要無いと思っていたけど。

 というか俺、聖の寝顔見たことない。……うん、全くその気が無いのになんとなく卑猥な空気が漂うな。言葉って難しい。


「ちなみに、どこで寝ているの?」


『そういえば、知らなかったわね。あんたの中よ』


「……えっ?」


 えっ、どういうこと? もしかして、俺って未成年と身体を重ねて寝ていたってこと! 記憶がない間に犯罪者にされていたッ! 「おまわりさんコイツです」って、俺留置所に入れられちゃうの!! いや、聖は幽霊だから身体は無い。だから、そういう卑猥なイメージは無い筈……いや、別の意味でまずい気がしてきた。――あばばばば。


『ちっ、違うわ。あんたの影の中で寝ているのよ。最悪起きれなくてもあんたが動けば勝手に移動できる訳だし、最高の引きこもり場所だわ。……って言ってたらなんだか浮遊するのが面倒になってきたわ。あんたの影の中に入れさせて』


「断る! 歩きたく無いからおんぶしてと同レベルじゃないか。一緒に来たいっていうならせめて歩け。百歩譲って俺の影の中で寝るのは許容するから。……じゃないと〝ピュリファイ〟るぞ」


『……てっきり影の中で寝るのも許さないって言うと思ったんだけど、優しいのね』


「……聖さん、俺のことどう思っていたんだ?」


『本好きを拗らせたスプラッター。後、短気』


「……よし、聖さん表に出ようか。白黒ハッキリつけようじゃないか」


『キャー。ヤメテ、女子中学生ヲボコシテ快楽ヲ得ヨウトスル変質者ガ居ルワ』


 ……地味に詳細で的確に俺の社会的立場を悪くする台詞をどうもありがとう。棒読みだけど。

 まあ、警官の前で俺と聖さんの二人でこのやり取りをして居たら確実に俺の方に職質するだろうけどね。……本当にヤバいのはどう考えても俺じゃなく聖だけど。完全に俺の方が被害者だけど。


 森を歩く。聖は三センチくらい浮きながらその後を追う。……ド●えもんかよ!


 歩けど、歩けど、木、木、木。分け入っても分け入っても、分け入っても、森の中……種田山頭火じゃないよ、青い山じゃないから。


 しかし、これくらい森ばっかだと葉を隠すのは簡単そうだ。「木の葉を隠すなら森の中、森がないなら自分で作る」……『ブラウン神父の童心』の『折れた剣』の有名な一節を思い出した。


 見たことのない種類の木ばかりだ。……あんまり一本一本の木ばっかり見ていると森の全体像を見失いそうだ。

 「You cannot see the wood for the trees.」……直訳すると「木を見て森を見ず」だな。


 ……なんで、森ネタで遊び続けているかって? 探索がつまらなくなってきたからだよ。

 見渡す限り森ばっか。見渡す限り壁ばっかな迷宮よりはまだいいかもしれないけど、そろそろ飽きてきたよ。

 ってか、よくよく考えてみると別に探索する必要無くね? 【全マップ探査】を使えば一発じゃん。


 早速使ってみた。森の全体像が分かった。ついでに森の名前も分かった。ウィルヴァルドの森って名前らしい……ってそれが分かっても仕方ないんだけど。

 ついでに、森の中の魔獣とかの位置も分かった。何かは分からないけど、人みたいな反応があった。


「【全マップ探査】を使ったら森の全体像が分かった」


『……もしかして、あたし達って森を探索する必要無かったんじゃない?』


「それについてはすまん。……で、人らしき反応があったんだけど、どうする?」


『一応行った方がいいんじゃないかな? この世界のこと何か分かるかもしれないし』


 俺達は【全マップ探査】で人のような反応があった場所へ移動を開始した。

 方向は、森の出口とは逆――森の奥地の方だ。

 人のような反応があった付近からは新たに何体か魔獣の反応が出た。このままでは遭遇戦が始まってしまうだろう。こんな森に入るんだからなんらかの対策を講じているか、覚悟を決めている筈だが、それでも万が一ということもある。


「聖さん、少しペースを上げる。俺の影に入れ」


『――分かったわ』


 聖は俺の影に溶け込むように消えた。……幽霊って便利だな。

 【瞬速】、【疾駆】、【移動】、【突進】、【爆縮地】を新たに会得した【虚々実々】で無理矢理組み合わせ、ダメ押しとばかりに【木偶の坊】と【捨て身】で身体のリミッターを外して更に速度を上げる。

 森を走るだけでソニックブームが出た。もしかしなくても音速超えたな。


 そのまま奥地の竹藪に突っ込む……竹藪? 突っ込んだ拍子に何かの魔獣を吹き飛ばしてしまったようだ。……止まらない身体をなんとか止めようと苦心しながら、飛ばされた魔獣を対象に【看破】を発動。


-----------------------------------------------

NAME:ジャイアント・ヒールパンダ

LEVEL:25

HP:0/100

MP:25/25

STR:180

DEX:100

INT:16

CON:95

APP:5

POW:95

LUCK:25


SKILL

【槍術】LEVEL:10

→槍を上手く使えるよ!

【刺突】LEVEL:10

→刺突が上手くなるよ!

【連続突き】LEVEL:10

→連続で突きを放てるようになるよ!

【螺旋槍撃】LEVEL:10

→螺旋突きを放てるようになるよ!

【貫通】LEVEL:10

→攻撃を貫通させられるようになるよ!

【薙ぎ払い】LEVEL:10

→薙ぎ払いが上手くなるよ!

【挑発】LEVEL:10

→挑発が上手くなるよ!


ITEM

・バンブーランス

→竹でできた槍だよ! 竹槍とも言うよ!

-----------------------------------------------


 まあ竹藪だし、竹ならいくらでもあるから武器に竹槍を使うのは分かる。竹といえばパンダってのも分かる。ここにジャイアント・ヒールパンダっていうプロレスのヒールなのか、ジャイアントパンダなのかよく分からない、辛うじてパンダじゃないかなって感じの白黒模様のガチムチマッチョが出現することもなんとなく分かるが……分かるけど、竹藪にパンダって安直過ぎない! もっと捻ろよ!!

 例えば、ガチムチなのにレッサーパンダとか。あっちのパンダも竹食うし。……って、言ってたらレッサーの方も居たよ。


-----------------------------------------------

NAME:ジャイアント・ヒールレッサー

LEVEL:25

HP:100/100

MP:25/25

STR:180

DEX:100

INT:16

CON:95

APP:5

POW:95

LUCK:25


SKILL

【爪術】LEVEL:10

→爪を上手く使えるよ!

【怪力】LEVEL:10

→怪力を得るよ!

【豪脚】LEVEL:10

→脚力を上げるよ!

【体当たり】LEVEL:10

→体当たりが上手くなるよ!

【組みつき】LEVEL:10

→組みつきが上手くなるよ! 相手の動きを封じるよ!


ITEM

-----------------------------------------------


 lessorなのにgiantって矛盾してるよ。……うん、レッサーパンダを大きくしてガチムチにしたような奴だった。

 とりあえず、減速しながらエルダーワンドを伸ばして【接触吸魔】と【接触吸勢】を発動……うん、一秒も持たずに死んだよ。

 ついでにエルダーワンドでジャイアント・ヒールレッサーを捕まえたからか、加速が止まった。

 なんか影から出た聖からジト目向けられるし、危険から守った筈のエルフさんからは怯えられるし……そういえばいい忘れてたけど、助けたの金髪の見目麗しいエルフさんだったよ。……絶世していると怯えて上目遣いになっていても絵になるんだな。ってか、もう何してても美しいから許されるんじゃね?


 さて、とりあえず話しかけてみますか。……言葉が通じるといいけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る