天が裂け、金が舞う。

怪屋(あやや)

天が裂け、金が舞う。

日曜日の昼下がり、なかなかの快晴ぶりに広場にも大勢の人が集まっていた。


わたしは特に広場に用事はなかったが、ぶらり通りかかったその時、天が裂けなにやらチラチラ裂け目から落ちて来た。


お金である。


大量の諭吉先生が投身自殺を図ったのだ。


それがお金と知るや否や、老若男女問わずわっと集まりその手に掴まんと隣の者の頭部を踏み場に精一杯伸び上がる。


全員が全員同じようなことをしたものだから、呑気な広場は一転、阿鼻叫喚の生き地獄と化した。


わたしは愉快だったので、広場の隅にあるベンチに腰掛け、セブンスターに火を点けた。


すると横に男性が座る。彼はわたしの煙草を見て、一本いただけますかと言った。望み通りにすると、彼は礼を言って火を点け、わたしと同じように舞い落ちる諭吉と群がる人々を見ながら、さも美味しそうに煙を吐き出した。


「ああいう連中を見てると虫唾が走ります」


男が言った。


「そうですか」


「ええ、ああはなりたくありませんね」


彼は物憂げな笑みをこぼす。


「でもここで煙草を吸っているわたしたちと彼らどちらが賢いんでしょう」


わたしが言うと彼は「え?」とこちらを見た。


「だってそうじゃありません? たしかに彼らは醜態を晒しているかもしれませんが、その代わり今晩は分厚いステーキといつもより高いワインにありつける。いっぽうわたしたちは煙草を一本、いえ、わたしに限っては二本失っただけ。一円にもならないチンケなプライドのために」


「いや、しかし」


「それに、わたしはあなたに抱かれるつもりはありませんよ」


男はしばらく思案するように煙をくゆらせていたが、失礼、と言って足下に落として揉み消し、輪の中へ一目散に駆け出していった。


わたしは懸命に金を掴もうとする彼の後ろ姿を見ながらのんびり煙草を味わった。


それから立ち上がり、腕まくりをする。



さあ、情け容赦のない戦闘を始めよう。

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天が裂け、金が舞う。 怪屋(あやや) @kayayaaya

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