204. キラキラした気持ち 2/2(一加)


「ショウ〜」


一加いちか、くすぐったい! 嘘つき! 胸はさわらないって言ったのに! ちょっと、やめてっ」


「なんでショウのおっぱいは出てきたのに、ワタシのは出てこないの〜?」


「い、いち、か、ひじが、脇腹に……ちょっと〜、あははっ、くすっぐっ……も〜、やだ〜」


 背中にくっついて眠ると言って、後ろから胸に手をまわした。自分にはない……ないふくらみをモミモミする。

 こうしてさわると怒られる。でも、さわりたい。くっつくだけでも楽しいけど、嫌がるショウもかわいくて楽しくて好き。


(昔のことがどっかに引っかかってて、自分の気持ちに気がつかないのかな? って、ちょっと思ってたけど。そうだったら、どうしたらいいかな? ってちょっと考えてたけど。……エッチな本を見てるなら大丈夫だよね。よかったあ〜)


(……でも、じゃあ、なんで気がつかないんだろ? 気持ちより、体なのかな? お茶会でも、男の子って恋バナよりエッチな話のほうが楽しそうだし。……だったら、一緒に来ればいいのに。ショウの体、さわりたい放題なのに。……怒られるけど、エッチな本より、こっちのほうが絶対楽しいし。一護いちごが一番さわりたいのはショウでしょ?)


(……ワタシよりはあるけど、小さいから? 見たりさわったりするのは、大きいのがいいってこと? 男の子ってそういうもの?)


「一加っ!」


「あっ」


 逃げられてしまった。


 ショウは上半身を起こし、怒った顔でワタシを見下ろしている。


(……しまった〜。考え事してて、やりすぎちゃった)


 ペチン! ペチペチ!

 ひたいを三回叩かれた。


「いたあ〜い」


「痛くない! やめてって言ってもやめてくれない、嫌なことする一加には、罰をあたえまーす」


 ショウはそう言いながら、ワタシの足のつけ根あたりに馬乗りになり、「覚悟はよろしいですか〜?」と顔の横で両手の指を、わきわきと動かした。


 ――ズボッ。


 胸をさわり返される、と思って身構えたのに、わきの下に手を突っ込まれた。


「ヤッ! アハ、アハハハハ! くすぐったい! やめ、やめてっ!」


「まだまだ〜」


 脇の下からおなかの横を、上へ下へとショウの指が移動する。少しの間――ワタシにはとっても長く感じたけど――、くすぐり攻撃された。


 ショウは最後に、「私もさわっとこ」と、ワタシの胸にタッチして、モミッとした。


「はあ……はあ……。も〜、疲れた〜。ちょっと、汗かいちゃったじゃん」


「一加が先にやったんだからね。……さ、もう寝よっか。あしたはお茶会だし」


 ショウはゴロンと転がるように横になった。


 向き合い、おやすみ、と目を閉じる。


(お茶会……頑張らないと)


 一護のために頑張っている。もう一年間も。


 それもこれも一護が、「春になったら、お茶会で恋人を作るよ!」なんて、わけのわからないことを言い出したから。

 そのちょっと前には「ショウとボクが結婚して、一加と二人で、ずっとショウの面倒を見るってどう?」って言ってたのに。


 一護と一緒、ショウと一緒、三人で一緒、ずっと一緒。それが叶う『ショウと一護が結婚して、ワタシと一護で、ずっとショウの面倒を見る作戦』、略して『三人ずっと一緒作戦』。すごくいい作戦だと思った。

 その作戦のために、一護がお茶会で恋人を作らないよう見張っている。


 ワタシだって、鬼……旦那様が『鬼神きしん』だから、鬼はなし。


 ワタシだって、悪魔じゃない。


 ありえないけど、ショウが一護を嫌いだっていうなら、ありえないけど、一護がショウを嫌いだっていうなら、こんなことしない。……もしかしたら、しちゃうかもしれないけど。


(宝もの、もらったんだから。大切にしないと……)


 ワタシと一護は、旦那様に出会って、湖月こげつ家にお世話になるようになって、ショウと仲良くなって、宝ものをいっぱいもらった。持てるようになった。


 安心できる、幸せな環境いえ。『旦那様ウサギ』、大好きな人たち。楽しく笑える今。


 そんななか、それぞれの宝ものだけど共通の宝もので、ワタシはまだ持っていない、キラキラした宝ものを一護は持っている。


 なのに、それに気がついていない。


(言っちゃってもいいけど、やっぱり……自分で気がつきたいよね。初めてなんだもん。……ワタシがそう思うんだから、一護もそう)


 そっと目を開ける。

 ショウはもう眠ってしまっている。


(……あしたからは、今まで以上に頑張らないと……)


 ショウが先月から友だち作りを頑張っていた、という衝撃の事実が発覚した。

 いつも通り過ぎて、まったく気がつかなかった。言われてみれば、人の多い場所にいつもより長くいたような気がする程度。


 旦那様は、ショウのこの変化をきっと喜ぶ。

 だから、いいこと。


 だけど、全然喜べない。


 だって、ワタシたちにとっては、全然いいことじゃない。


 女の子の友だちならいい。ショウにワタシ以外の女の子の友だちができるのはちょっと嫌だけど、ワタシはキョウダイだし、一番は譲らない。


 もし、新しくできた友だちが男の子だったら。


 もし、その男の子のことをショウが好きになってしまったら。


 一護が気がついたときにはもう――、なんてことになるのは嫌。これはもう、作戦以前の問題。


 だから、ワタシは、一護だけじゃなくて、ショウのことも見張ってきた。


 今まではショウに友だちを作る気がなかったから、男の子が近づかないように見ているだけでよかった。

 でも、ショウから近づこうとしているなら、難易度が上がる。なんか変だ、ってショウに感づかれないように、気をつけないとならない。


慶次けいじくんに、しっかりしてもらわないと。しげるくんも増えたけど、お茶会には出ないから)


 ワタシだけで、一護とショウの二人を見張るのは難しい。だから、ショウのほうには味方――仲間を作った。


 慶次くんとは、ワタシたちがお茶会デビューして、四回目あたりのお茶会から、『ショウに男の子を近づけない』という『共同戦線』を張っている。

 茂くんは、最近仲間になった。


 二人は男の子だけど特別。一護が変なことを言い出す前から友だちっていうのもあるけど、それだけじゃない。


 慶次くんはショウのことが好きだけど、ショウはそうじゃないからいい。もう何年も友だちだし、簡単に関係が変わることはないと思う。

 それに、夏になる前くらいから、ショウはワタシと慶次くんの仲を勘違いしてる。そうだとわかってからは、勘違いするように仕向けている。

 だから、今、ショウは慶次くんのことを、ワタシとどうなるかっていう目でしか見ていない。


 茂くんとショウがどうこうなるって心配は、する必要ない。二人の間に、そういう雰囲気はまったくない。慶次くん以上にない。


 ということで、慶次くんと茂くんは安心安全。ショウと仲良くしてても大丈夫。


(でも、二人ともなあ〜……)


 慶次くんは、ショウのことを好きな分、『共同戦線』を頑張ってくれている。

 でも、ちょっと頼りない。ショウに「お友だち、紹介してくれない?」とお願いされて、嫌なくせにうなずきそうになっていた。


 茂くんはショウに甘くない。でも、『共同戦線』としてはあまり意味がない。

 たぶん、見てるだけ。報告はしてくれるだろうけど、ショウと誰かが近づくのを止めてはくれない。変な人からは守ってくれると思うけど。


(一護、はやくしてよ!)


 大丈夫だと思っているけど、何かハプニングがあって、ショウが慶次くんを友だちではなく、男の子として見てしまうかもしれない。


 理由はわからないけど、ショウにベタベタしなくなった黒羽くろはも、いつ復活するかわからない。だって、くっつかなくなっただけで、ショウを見る目は、いやらしい感じのままだ。


 まさか、まさか、まさかないとは思うけど、大地だいちさんのことを、何かの拍子にコロッと好きになってしまうかもしれない。

 二十個くらい年上のおじさんだけど、そこそこかっこいいし、女の子人気職業ナンバーワンの騎士をしている。しかも、上級騎士だ。女の子は騎士、特に上級騎士に弱い。


 ……そこまでかかるとは思いたくないけど、数年経って学園に入学したら、三人だけの『共同戦線』では目が届かなくなると思う。


(ああ、もうっ! 言っちゃいたい! でも、でも……)


 目の前にあるショウの手にそっとふれ、握る。


(一緒に待って、一護のこと……)


 友だち作りを頑張ろうとしているショウには悪いけど、男の子だけは絶対に近づけさせない。ショウが良さそうと思った相手でも、男の子だったらダメ。男の子の友だちは作らせない。


 一護が自分の気持ち――キラキラした気持ちに気がつくまで、ワタシはショウの邪魔をする。


(ショウに出会いなんてありませんように。……邪魔……じゃなくて、はやく……)


「……ふあ〜……」


(……したいな……)


 何も起こらない普通のお茶会、楽しい未来を願いながら、目を閉じた。

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